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僧侶界にも推しは存在する

 なぜなら僧侶もまた人であるから。

(文字数:約4000文字)



私にとってその方は

  まず婚家の先祖の墓所がある、
  和歌山県の某お寺の御住職であり、

  御詠歌に興味を示した私を、
  大阪でも開いていた教室に誘って下さった、
  御詠歌の先生でもある。

  お名前を仮に、
  常眼寺(じょうげんじ)の、
  笹森(ささもり)住職と申し上げる。

  その方をイメージした人物を、
  自作の小説に登場させた際に、
  実際の寺号と本名から連想して名付けた。
  (なぜそんなややこしい事をするかと言えば、
   私の脳を通した世界に登場させた時点で、
   その方そのものでは有り得なくなるから。)

  そしてこの度笹森住職、
  高野山真言宗の僧侶として、
  最高位の役職に就任されたという事で、
  祝賀会が催され、

  そんな機会は我々にとっても、
  生涯に一度くらいしかあるまいと、
  夫婦揃って列席する事にした。


2.5種類の身分

  義父の葬儀と御詠歌教室を通して、
  ここ数年近くで見聞きしているうちに、
  ぼんやり察した程度だけども、

  僧侶としての
  雲水(うんすい)とか
  阿闍梨(あじゃり)とかいう名称は、
  御住職とっくの昔に最高位の、
  傳燈大阿闍梨(でんとうだいあじゃり)にまで、
  到達しておられて、

  この度得た僧階
  律師(りっし)とか、
  僧都(そうず)とか、
  僧正(そうじょう)とかいう尊号は、
  言わば僧侶集団内の役職。

  傳燈大阿闍梨の位を保持したまま、
  実績を何十年も積み上げて行って、
  昇進審査を経てようやく認められるもの。

  ちなみに御住職は今回、
  審査委員の満場一致で決まったそうです。


  とは言え常眼寺がある、
  高野山、の山頂ではなく、
  慈尊院に近いふもとの集落では、

  過疎化が進んで住民のほとんどが、
  御住職と同年代。

  先代の御住職が御存命の頃の、
  若僧の時から見知っていて、
  共に同じ時代を成長してきた、
  住民たちなもので、

  高野山からのお使者がいらしても、

  「まー。偉い方がわざわざ」
  「うちの御住職、
   何ぞ誉められる事でもしたんでっか?」

  って感じでお使者の側が驚く。

  「あの方は私たちにとって、
   雲の上の人ですよ!?」
  「へえー。そうでっか」
  「雲の上て。雲どこに有りますのん」
        ↑
  (一般庶民が素でこんな事、
   とっさに思って口に出来るって、
   関西人すげぇよな。)
  
  

披露宴か

  祝賀会は、
  ホテルのホールで執り行われるそうです。

  披露宴か。

  円形のテーブル10台くらいに分かれて、
  会食だそうです。

  披露宴か。

  実は今回同じタイミングで、
  同じ役職に就任した僧侶がいまして、

  お名前を仮に、
  利済寺(りさいじ)の、
  西居(にしい)住職と致します。

  これも自作の小説に出すならと考えて、
  寺号と本名から連想して。

  つまり笹森住職と西居住職、
  二名同時の祝賀会、という事で、

  「両家の親族様こちらへ」
  とか誘導される。

  披露宴か。

  「正面の大扉から、
   お二人が入場されます。
   盛大な拍手を!」
  とかアナウンスされる。

  だから披露宴かて。

  もちろん僧侶の祝賀会なので、
  今回就任された役職においての正装、
  紫の衣と赤い袈裟、に身を包み、
  前後一列に並んで入場されたんだが。

2024年1月10日追記:
  書き忘れていたが祝賀会開催前に、

  般若心経読誦

  の時間があって、
  自分以外の皆がほぼ暗記してるっぽい光景に、
  私の配偶者はかなり面食らっていましたが、

  それはPLの集会に初めて参加した時の、
  私の心境よ?
  あなたも「特に珍しい事も無いから大丈夫」
  とかその時は言ってたのよ?

  余談ですが般若心経は、
  極めて有難いお経という事で、

  葬儀の際には唱えません。

  仏教そこまで知らない人、
  葬儀のシーンや呪法のシーンで、
  般若心経書きがちなので御注意あれ。

追記終わり。


世にも珍しい坊主いじり

  司会を務められた僧侶に、
  祝辞を述べられた僧侶の、
  発言内容から察するに、

  祝賀会の主役であるお二人、
  笹森住職は78歳頃で、
  西居住職は65歳頃。

  どうやら西居住職くらいの年齢から、
  得られる役職っぽいんだが、

  笹森住職は長年昇進審査の、
  審査委員長を務めていたので、
  自分を審査するわけにもいかず、

  昨年から委員を退いた事で、
  ようやく審査対象に挙げられた。

  そんなわけで会場に集まっている僧侶たちよりも、
  実質的に偉く、
  誰もが大変にお世話になってきた。

  なので皆が笹森住職を讃えまくる讃えまくる。

  その一方で、
  西居住職はところどころで、
  ちょっといじられてる感じ。

  なんでかって考えたら、
  司会の僧侶も祝辞を述べる僧侶も、
  西居住職と同年代だったり、
  日頃から同じ職場での同僚だったりしているので、

  笹森住職に対するほどの緊張感が無い様子だ。

  (余談だけど、
   本当はもう一段階上の役職があるんだけど、
   それはお寺どころか高野山全体のトップオブトップ、
   管長猊下クラスの名誉職みたいだから、
   笹森住職は「最高位」という表現をしたみたい。)

  

思いがけない泣き笑い

  乾杯の音頭を取る方は、
  僧侶であってもやっぱりグッダグダになるんだな
  (両御住職の恩師だったりして、
   積年の思いが溢れ出す)
  と思いつつ、

  宴の途中で余興がある、
  とは前もって聞かされていたものの、

  まさかマジシャンちょびっとみつる、
  
によるマジックショーとはね。

  ちょびっとみつるさんも舞台に出てみたら、
  客席の半分以上が僧侶で戸惑った雰囲気。
  これまでに経験した舞台の中でも、
  相当にアウェーだろう。

  僧侶たちがビール瓶持ってうろついてるし、
  僧侶たちが徳利傾けた顔赤くしてるし、
  僧侶たちの中にはブラックスーツ姿もあって、
  人によってはまた異なる集団に見える。

  もちろんとばかりに呼んでおきながら、
  僧侶たち手品なんか、
  見ちゃいないしマイク通した声も聞いちゃいない。

  武川さん、これ、出来ますか?

  というMBSラジオ『Youはこれから』で、
  メッセンジャーあいはらさんが、
  ちょうどその前の週あたりに言ってた口調を思い出したぜ。

  私たち夫婦は芸人さんへのリスペクトが強いもんで、
  気の毒に思いながらもなるべく笑顔で、
  可能な限りで良く響く拍手を送り続けていたけれども。


滅多に聞けない坊主すべり

  私たち以外にも心優しい方々が、
  会場内に数名はいらっしゃって、
  ともかくもマジックショーが終了し、

  「宴も竹中直人でございますがー……」
  って、
  誰にも聞かれていないボケをぶっ込み、
  静かにすべっていった司会僧侶の声に続いて、

  笹森住職、西居住職それぞれから、
  お言葉を頂く段になりました。

  食事にあたっては両御住職も、
  さすがにお色直し。
  黒い着物に黄色の袈裟で舞台に上られ、
  まずは笹森住職から。


両御住職のお言葉

  「長年御詠歌に携わっていますけれども、
   仏教には、本当に、
   たくさんの仏様がおられます。

   お名前も姿形も、持ち物も手の形も、
   仏様それぞれが、一体一体で異なります。

   御詠歌を唱える事によって、
   その旋律を通して、
   また歌詞の中の分からない部分や、
   気になった部分を紐解くなどしていくうちに、

   心の内に仏様を見やすくなる。

   そのうちにふらりと立ち寄ったお寺などで、
   『ああ。ここは薬師さんやな』とか、
   『ここは観音様の中でも如意輪やろか』などと、
   気に留めるようになって頂けると有り難い。

   本当に、たくさんの仏様がいます。
   わけもなく心惹かれ、
   気に入って目にする度に、
   快く感じる仏様もあるでしょう。

   今病気がちだから薬師様でも拝もうか、とか、
   大事な試験があるから観音様、とか、
   それぞれの御事情で選んでも構いません。

   願いを掛ける事が大切です。
   仏様に願いを掛けた、その分は確かに、
   心が軽くなります。

   叶えられるかは問題ではありません。

   見守って頂けると信じ、
   有り難く思って心が幾分でも軽くなる事によって、
   毎日の行いが、
   たとえほんの少しずつであっても変わる。
   人の身であっても変えて行くことが出来る。

   それが何より重要な事です」

  引き続いて西居住職が、
  マイクの前に立って一言。

  「……今のお話を伺った後に、
   私が一体何を言えと?(´・△・)ショボン」

  でしょうなぁ。
  西居住職も今回主役なのにいじられっぱなし。

  とは言え西居住職も、
  空気を徐々に世俗へと戻していく、
  役割があったと思うの。


ところで我々も礼服だ

  19時頃ホテルを後にして、
  車で約3時間かけて自宅へ。

  配偶者なんか平日だったのを、
  有給取って参加したよ。

  ハンドルを取りながらの配偶者の感想は、
  「面白かったし行けて良かった(・ω・)」

  助手席にて私。
  「僧侶と言えど皆それぞれに、
   人間である事が良く分かる、
   大変貴重な機会だったな(・∀・)」
  「そうだね。(・ω・)
   そしてその見方って言われてみたら当然な上に、
   実はすっごく大事だと思うし」  

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!