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「シリアの人たちの気持ちがわからない」


「シリアの人の気持ちになんて、なれるはずがないんだよ」
あるシリア支援団体のNGOの現地代表の方が、僕に言った印象的な言葉です。


その言葉を聞いたのは、その団体が実施する活動報告のイベントの後、
団体の皆さんと仲が良かったので、参加させてもらった打ち上げの席でした。

「何かイベントの改善点ってある?」と広報担当の方に聞かれたので、
「発表が分かりにくかったので、もう少し感情移入できるような内容の方が」と言ったのですが、
「それは無理だよ。僕たちには彼らの気持ちは分からない」と現地から帰国したAさん。


その数ヶ月前に、現地に行って、Aさんの団体の活動を見せてもらっていました。
シリア人も含めたスタッフから話を聞いており、Aさんがスタッフから信頼され、
本当にたくさんの方に、価値ある支援を届けていることを知っていました。

「そういうことは広報の仕事。僕は現地でやることをやるだけ」

そこには「感情移入をして、泣いて立ち止まっている間にも救える命が、人生が、ある」という想いも含まれていたように思います。


そして、「同じ気持ちにはなれない」という話は、僕もシリア人から直接聞いたことがありました。


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スウェーデンで出逢ったシリア人の青年Mくんは、戦争前のシリアでは「難民支援」の仕事をしていました。
10年前に戦争が始まるまで、シリアは難民受け入れ国だったのです。
キャリアもあり「難民となった人たちの気持ちが分かるようになった」と思っていたそうです。

しかし、たまたまバッグ1つを持って、バスで出掛けたヨルダンに行き、
帰ろうとすると「危ないから帰ってきたらダメ」と母親から言われて、シリアに帰れなくなりました。
そのまま2年、ヨルダンで働いたものの、労働許可の関係で働けなくなり、次はエジプトに。
ここでも働けなくなったので、貯金と借金でお金をかき集め、地中海を超えてイタリアに。

地中海を越える10日間の密航は、最初の数日で食糧がなくなり、イタリアに着く数日前には水もなかったそうです。
命からがら、イタリアに到着してから陸路でスウェーデンに辿り着き、難民申請をして保護されました。


「俺はね。難民になった人たちの気持ちが分かったと思っていたんだ。ずっと仕事で接してきたから。
でも、自分が”難民”になって気付いたんだ。何にも分かってなかったって」

Mくんは、続けて言います。

「朝起きると、ひょっとして僕が”難民”になったなんて、夢だったんじゃないか?って思うんだ。
今起きたのは、自分の家族の家で、窓の向こうは、故郷の町があって、自然があって、家族がいて、友達がいる。

…でもね、やっぱり夢なんかじゃない。小さな部屋のベッドで、僕一人ここにいる。これが現実だ。
許嫁もいたんだよ。大好きだった。…でも、もう会えない。

シリアには全てがあった。とっても豊かな国だった。
家族に会えるなら、シリアに帰ろうかなって思ってる」


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Aさんの仰るように、僕はシリアの人たちの気持ちは分かっていません。
Mくんの言うように「分かったと思っていたが、きっと分かってはいない」んです。
そのことは、忘れないようにしたいと思っています。


Piece of Syriaの活動は「課題ではなく魅力を伝える」ということを大事にしています。

たくさんの背景があって、大切にしている視点ですが、
”誰か”の「痛み」や「悲しみ」を分かったふりをしてシリアの人の思いを代弁する形をとりながら、その人(シリア人じゃない人)自身の感情で、誰かを否定したり攻撃している人たちを知っているからというのも理由の一つです。


「気持ちがわかった」と安易に結論づけるのではなくて、大好きだから、尊敬しているから、一緒にいたいし、どうやったら喜んでくれるか考え続けたいって思っています。



シリア人から「シリアの人たちの気持ちを話してくれてありがとう」と言ってもらえることは多いですが、僕は「わかって」はいないんだと思います。代弁者になっているなんて思わないように、僕は、僕の気持ちを伝え続けたいって思います。


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<参加型>ピースコミュニケーション
今までのやり方が通用しない時代の「答えのない問い」の考え方

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