「横浜マに戦術寄せたら…」

 20年ほど前、知人が電車中吊り広告だかなんかで見た「響かないブラ」という言い回しに疑問を覚えて、というか意味が分からなくて、メーリングリストだが一斉送信だかで尋ねてきました。まだ、SNSのツールがそういう時代です。

 わたしも意味不明だったので静観していました。知っていたら「これ、セクハラ扱いされかねないのでは」と思ったかもしれません。結局、姉御肌の女性が答えてくれましたので、セクハラにならずに済んだんですかね。

 おっと、「寄せる」について書こうと思ったのに、なぜかブラの話から始めてしまいました。わはは。意味不明の向きは意味不明のままで気にしないでください。セクハラにならずに済んでますかね。

 さて、今回の取り扱いは「響く」ではなく「寄せる」です。標題は朝日新聞の運動面で見つけました。大阪にある興国高校サッカー部に将来有望な選手がいて、Jリーグの横浜マリノスも注目して練習などに呼んでいた。それで、高校の監督も、マリノスに寄せてチーム戦術を攻撃的にしたところ、一チームから同時に4人もマリノスに入団することになったという記事でした。


 サッカーで「寄せる」というと、ボールを持った相手選手にディフェンスのために距離を詰めることを言います。つまり、プレスをかけて、相手の自由にさせないようにすることです。

 しかし、興国高校の監督が言ったのは、マリノスの戦術の真似をすること、あるいは、戦術の方向性を似せるという意味です。・・・などと、ここで解説をしなくても、読者のみなさんはもはや普通に使っていることでしょう。ただし、この「寄せる」の使い方はかなり新しいものだと思います。辞書にはまだ、「寄せる」の語釈として明確に「スタイルを真似る」というのは載ってないようです。だから、大新聞の見出しに整然と使われていたので、響きました。

 以下は憶測です。

 この「寄せる」という使い方は、関西芸人が発祥ではないでしょうか。つまり、「芸風を近づける」という意味です。個性を競い合う芸人界で、ネタをパクるのはご法度としても、ライバルが芸風(キャラ)を近づけてきたら、自分の立ち位置を失う危険性があります。だから、芸人にとって、自他の芸風の距離やベクトルは大いなる関心事であるはずです。

 そこから、「アイツ、寄せてきやがった」と舌打ちをしたのがはじまりなのではないか、と。そして彼らの業界用語は、トーク番組などを経由して一般化されていきます。とくに大阪では、日常会話でもボケとツッコミが必須のため、お笑い番組はむしろ教養番組として鑑賞されていますから。

 興国高校は大阪の天王寺区にあるそうです。で、監督は内野智章さんといって、1979年生まれの堺市出身のようです。そりゃあ、お笑い番組、見てるやろ。絶対だよ、たぶん。



蛇足

 weblioの辞書には「全国大阪弁普及協会」も提供していて、そこには「やがる」が大阪弁とあります。そして「東京にも広まっている語」とも。ホントか。知らんかった。むかしから普通に使われていますから、下品だとはいえ共通語・標準語ではないのか。まだ、詰めていません。

 軽蔑や憎しみ、嫉妬などの気持ちを込めて第三者の動作を言い表すときに使われますが、以下のような例外もあります。

 「ぷはーっ、このビール、キンキンに冷えてやがるぜ、チクショーめ」



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