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【中編小説シーズン1】Shanghai Palace


1.ズブロッカ 

 今日の昼間は南風が強く吹いた。湿度の高い空気がこの大きな半島の南東に居続け、夜になっても霧が立ち込めている。間原寛は洗いざらした鹿の子織りのシャツの襟を両手で立て、緑のグロリアを降りた。昼の日差しがない分、肌の火照りは柔らかだ。赤いネオンがいつもより立ち込める潮気の濃いモヤに浮かぶ。間原は褪せたフレッドのポロの裾をひと振りし、さっき海から上がりシャワー後に腹部に付けた 4711の香りを改めて立たせた。オレンジをメインノートにおいた香りは今日の湿度には あまりに強主張。爽やかさを意図した制作者の裏を行った化学反応は新発見の域。あまりにその者の気配を露わにする。 
 港の際に建つ小さな白いコンクリートビル。 対岸から見ると堤防と同化し海面からせり出したように見える。オールドだが決してボロな印象がないのは、ファサードの処理が洗い出しという完成後のもうひと処理を施したおかげだ 港に面した側には大きなガラス窓とスリットのような窓が絶妙に配され、テラテラした夜の海面を照らす漁港のハロゲン光を映している。 ビルへの入り口は漁港へのゲートの脇にある。アイアンの手すりに導かれL字に曲がる5段の小さな階段を上がると 同じ重厚なアイアンの扉。その脇には、細いチューブで ”Shanghai Palace”と記した赤いネオンがいつもより立ち込めている潮っ気の​濃いモヤに浮かぶ。
 扉を開けるといつもの香り、それは五つの香辛料をブレンドした五香粉の香りなのだが、間原はこれを"上海臭"と呼んでいる。実は得意ではないが、口にいれた時の説得力に必ず負ける。このレストランのシェフは下田港に上がる様々な海鮮の 特に生臭さを発する食材を見事に最上のものに変える。それはいくらでも調達できるがゆえに、時として飽きられかねなく、下田の生命線を意味する。シェフは土地のポテンシャルをこのスパイスで引き上げ不動のものにしたわけだ。 
「ようこそ寛ちゃん。久しぶりだね。今日はまた彼女に熱く語るの? 」 
「どうなるかな。そうできたらいいんだけど…。 席、あそこでいい?」 
 白い大きな壁に二つだけ縦に細いスリット窓があり、 それぞれにテーブルが配してある。窓からは下田港の ハロゲン灯が映り込んだ海面のみが見える。 季節によっては海中生物のゴカイの活動を狙って やってくる鱸のチェイスが海面をざわめかせる。しかし、今日は湖のように鏡面だ。 いつも一杯目はズブロッカのロック。 ポーランドの世界遺産「ビャウォヴィエジャの森」で採れる バイソングラスを漬け込んだウォッカ。ヘロヘロになるのはわかっているが、反射的に頼む。だが、慣れた香りにいつも落ち着きを得る。大きな氷を指で回すと香草の香りが立ち上がり夜の開始を告げた。港町は活気と静けさが同居する町。朝は早くから出港へ向け準備に勤しむ船が並び、次々と音をあげ外海に出て行く。夜は港周辺に人の出は少なく、海に直接かかわらない者たちのみが町中のおなじみの経路をたどる。明日を待つ漁船は昼間の猛々しさを感じさせることもなく揺らぎに任せ、微睡む。 
「もし約束通りに来たらシャンパンで乾杯だな」 


2.サニーサイドダイナー 



 今朝は日の出から大浜に入った。サイズは満足のいくもので、オフショアの綺麗なブレイクが心を解放したのか、間原はビーチに向かってデッキを張るサニーサイドダイナーで午前からプリモを飲っていた。潮飛沫をたくさん吸い込んだ喉にはバドワイザーでは薄すぎる、ハイネケンでは濃すぎる、だからいつもプリモだ。通ううちにすっかりなついた店のラブラドール、ベティを撫でながらサイズの落ちた波を見ていると1缶目はあっさり飲み終えた。 
「福ちゃん、お代わりね」 
マスターの福田は元美容師、波を追いかけここに店を構えた。サラサラのロングヘアは潮焼けもきちんとトリートされブロンドのように見える。アメフトのプロテクターのような胸筋をグレーのヘインズで隠している。 
「今日の波はここ最近で一番きれいだから、けっこうロコ以外もきてるよね。さっきメメちゃんも入っていったよ」 
メメちゃんというのは間原たちの間ではメメぞうと呼んでいるサーファーガール、蛍光色のビキニがいつものスタイルで、真っ黒に引き締まったトランジスタグラマーだ。  
「あ、そう。さっき入ったんじゃあ昼まで上がってこないね」 
 2本目のプリモのプルを開けながらベティの両耳の裏を指先でさする。ベティのお気に入りのボディスポットなのだ。クーンとため息を漏らし間原の腿に顎を乗せる。 
「ベティは間原に惚れたな。そうやってみんな持ってくのが間原なんだよな。メメちゃんだけはなんでか懐かないみたいだけどね」 
デッキの落ち葉を指でつまみ上げながら店に入っていく福田に 
「だよね、ほんとツレないんだよな」 
ベティの頭を丸めるようにクシャっとやったら、鬱陶しそうにベティも福田の後を追っていった。 3本目のプリモは疲れとともに心地よい微睡みへ誘った。 


3.アイスティーと語り 

 大きなパラソルから少しだけ出た足先を真上に昇った太陽が照らすと、微睡みから引き戻された。まだ開けたくない目を開かせたのは、照らされ火照った足先にポタポタ垂れる水滴。 
「もう少し他人を気遣ったら?」 
濡れた長い髪を撫で付けたメメぞうだった。気づけばデッキは埋まっており間原のテーブルだけ敬遠されるように空いていた。パラソルが作る日陰の円周半分以上を彼の体と荷物が占領していた。 
「ほんといつまでたっても変わらないわね。脱いだ靴下の処理まで母親任せ。話し出すと放課後帰ってからのおやつの時間みたいにその日にあった自分の話を永遠と喋り続けるの。彼女になる人はそれを全部負うのよね、きっと」 
足をどかされ空いたチェアに座ったメメぞうは 
「何にも入ってないアイスティーを大きめのグラスでお願い」 
大きなカゴショルダーから白いバスタオルを出し髪を拭きながら潮で赤らんだ目をミラーで気にしている。 メメぞうという名前はその大きく二重の、でも少しだけ垂れた目から間原がつけた愛称だ。 
「相変わらず吸い込まれそうな目だね」 
「あなたを吸い込んだら一生苦労しそうだわ。語り尽くされる人生、あーやだ」 
福田とベティがアイスティーを運んできたが会釈で受け取ったメメぞうは髪を拭き続けていた。 
「けっこう俺の語りもいろんなところから支持されるんだよ。メメぞうくらいじゃない?そういうの」 
大きなグラスから3口くらい飲むとバスタオルを肩にかけ、体ごと間原に向き直し 
「私が変わってるってこと? 誰が支持してるのか言ってみてよ!」 
「えーっと」 
女性の名前を挙げ始めそうな間原をうんざりした表情でメメぞうが制した。 
「そういえば、さっき源さんに聞いたんだけどシッタカが沢山採れたからパレスに卸しておいたって」 
「えっ、ほんと!きっとすごい料理になるんだろーな」 
「どお、行ってみない?」 
「行く行く!」 
拍子抜けするくらい食が効いた。 
「決まりだ!じゃあ、7時に現地で」 


4.プールサイド のハニーレッグ 

 頭に10フィートのボードを乗せ メメぞうはサニーサイドダイナーを出、砂交じりの芝生をしばらく歩くと、 この夏の居候先大浜ビーチインに着く。 キダチアロエの植え込みにボードを立てかけ 緑色のホースの先を指で潰しながら ザブザブと水で海水を洗い流した。 空色のロングボード上に虹が出現し、 一瞬アーチで飾られる。ボードが終わると自分の頭の上から 長いこと水をかけ、 蛍光ビキニの上下の中にもホースを入れる。 褐色のハニーレッグを水が這い、ホースを抜くと水滴が玉になって伝い落ちた。 すでに肩の水滴は強烈な陽に刺され蒸発していた。 
 ここは15メートルの小さなプールを囲む 平屋建てのバカンスB&B。 客は少なくとも1週間はここに滞在し、 想い想いに東日本最南端の渇いた夏を過ごす。 メメぞうはここで部屋の掃除や洗濯を 手伝うことでひと夏居させてもらってるのだ。 プール伝いに居候部屋を目指すと、 
「メメちゃん、今日の波はどうだったの? あんまりずっと海に入ってると 体がシワシワになっちゃうよ」 
先週から1人で滞在している クセ毛の白髪ミドル・須能さんが茶化すように 声をかけてくる。 東京で会社を持ってるが、 今は顧問としてたまに顔を出すくらいらしい。こんな感じのノリだから 当然初日でニックネームを聞き出された。 それから毎日顔を合わせると何かしら声をかけてくる。ここが出来た頃から毎年来ているそうで、 何から何まで熟知している。 
「俺なんてご覧の通りシワシワだから参っちゃうよ。 ところで、明日は八幡神社のお祭りだよ。 よかったら乗せて行くけど?」 
笑いながら言う通り艶のない上半身は かつてあった肉付きが抜けたような 萎んだ感じになっているが、よく陽に焼け品のいいネックレスを しているおかげで貧相には見えない。須能さんは東京から車でやってきている。 いくつか所有する中から 滞在中近場をあちこち動きやすいということで ミニモークで来るのがお決まりだ。 ミニ社がかつて出していた 車高の低い小さなジープのようなタイプで、 幌を開けるとオープンになる。メメぞうは赤いこの車が好きでよく下田の街まで送ってもらったりしていた。 
「ありがとう。 でも明日はターちゃんのところに行かなきゃいけないのよ」 
もう一つここのオーナーに頼まれて 近所の小学生の夏の宿題を手伝っている、 その日が明日なのだ。 
「さすがにお祭りの日はお休みじゃない?」 
「そうよね。聞いてみる」


5.ナンパ海岸とダンガリーシャツと

 海沿いを走る国道135号は本根岬を過ぎると徐々に海面へ近づきながら伊豆最大のビーチ白浜が姿を表す。この文字通り白い砂のビーチは東日本では新島と並ぶナンパのメッカ。 伊豆半島最南端だけあって水質もよく透明度が高く 真っ青な空と相まって日本離れした非日常なのだ。 高ぶる心は人を開放に向かわせるので、ここでは男も女も大胆になるわけだ。ビーチ前にはホテルや飲食店が立ち並ぶのでシーズンには空室が出ても片っ端から埋まっていき日中も夜も物欲しそうな若者がひしめく。 ビーチに沿って下田プリンスホテルをすぎるとビーチの真ん中あたりに 伊古奈比羊命神社、通称白浜神社がある。2400年の歴史ある「伊豆最古の神社」、縁結びの神でもあるらしい。だからか、にわかカップルがあちこちに成立し境内の階段で話す姿がある。そんなカップルの間から頭に白いタオルを巻いた神社関係者が空いたビール瓶の虎箱を運び出している。作務衣を着ているわけでもなく、裸にダンガリーシャツを羽織りサーフパンツを履いている。これが松田、通称マツ。やはりひと夏この神社で居候しながらサーフィン三昧なのだ。 
「おばちゃん、箱全部出したからお店に電話しておいてね。じゃあこれから漁協にトコブシ取りにいってくるね」 
「あ、マッちゃん、石田さんによろしく言っておいてら。今朝無理言って捕りに いってもらったんだわ」 
「オッケー、石田のおじさんおばちゃんには相変わらず頭上がらないね。バイク借りるよ」 
「よそからくる車が多いから気を付けら」 
頭にタオルをかぶったままおわん型のヘルメットをかぶり レイバンのウェイファーラーをかけると スーパーカブのセルを足でけりエンジンをうならせた。 カップルたちの境内をそっと出ると渋滞の国道の車を縫って漁協向けて北上した。 
 神社は夏限定で民宿として敷地内の平屋に数組を泊めている。 マツは部屋の掃除から朝夕の食事の手伝い、食材の買い出し、料理までこなし、 合間を見て海へ繰り出す。波乗りの腕は地元のロコたちも一目置くほどだ。 道すがら食堂ゲンジのゲンさんや、漁師のマーちゃんなど 海仲間たちがダンガリーを見つけて声をかけてくる。 
「マッちゃん、きょうは夕方から(波が)上がてくるってよ」 
「だねー、もうコシくらいのが入ってきだしてるよ」 
「じゃあ早めに仕込み終わらせておかないとだら」 
「じゃまた」 
「また」 



6.身繕い蝉しぐれ 

 国道から一歩入ると、漁村の家々が坂道に立ち並び その先はすぐに森が迫り山へと続く。車や海水浴客の喧騒から離れる代わりに セミの大合唱に囲まれる。日が傾くころ甲高いアブラゼミから 鈴の音のようなヒグラシに代わる。山の中段に位置するこの木造の平屋は 漁具や冬の布団などを入れておく納屋。 間原は小学6年のケン坊に家庭教師役をする代わりにひと夏この納屋の一間を借りていた。田舎の納屋はゆったりした作りになっており、網を修繕したりする外作業用に大きなひさしがあるので強烈な日差しがカットされ、海からのそよ風が通り心地いい場所になっている。夜も網戸のままで防犯は気にしないから熱帯夜になってもそれなりに寝られる。サニーサイドから戻った昼過ぎにはプリモの酔いも抜け、 ケン坊の算数も見てあげたので今日のお勤めは終了。あとはメメぞうとの晩ごはんだ。少しは小綺麗にしていかなくてはと霜降りのヘンリーネックシャツと シピーのホワイトデニムに着替えた。このフレンチブランドのデニムはお気に入りで、東京から履いてきたが下田についてからは もっぱら短パンなので久しぶりに足を通す。太めのふくらはぎにジャストなわたり幅で、胸筋に張り付くシャツといいバランスだ。髪をソフトタイプのデップで濡れ気味にし、オールドスパイスのボトルを逆さにし キャップに付いたぶんだけ左手首の内側にこすりつる。右手首に香りを移すようにすりあわせ 首筋にも同じことをた。いつの間にか時計は6時20分を指している。 


7.シッタカ三昧

 メメぞうはすでに到着していた。外に向いたカウンターに座り背を向け 夕陽を映す漁港の水面をじっと見ている。白いTシャツに色落ちしたブルージーンズ、足元は素足に白のトレトン。お団子にした潮焼けした髪はうなじにはらりと垂れ、シーリングファンの微風に揺れている。 
「ごめん、俺のほうが遅くなっちゃった」 
「あ、寛ちゃん。いいよ私のほうが早く着いちゃっただけだから」 
「メメぞうってうなじ細かったんだね。結構キテてるねぇ」 
”キテる”というのはテレビ業界者が「いい感じ」という意味で使うらしくいつの間にか一般の人も使うようになっていた。 
「また余計な!太いと思ってたの!!」 
「ホメてるんだからいいじゃん」 
 Shanghai Placeの店内は日に焼けたシニアのヨットマンや 地元の家族連れなどでほぼ一杯になっている。海水浴にやってきた人たちは宿泊している宿で出される夕食を食べてる場合が大半だから、ここへはおのずと地元の人達と別荘族がやって来ることになる。 
「寛ちゃん、レディを待たせちゃだめだよう。今日は石田さん所のいいシッタカがいっぱい入ったからね。どうやって食べたい?」 
「あ、フウさん、お邪魔してます。もちろんお任せ。楽しみにしてる!」 
「もうずっとお腹減らしてたのでよろしくお願いします!」 
「おお、じゃあうなじちゃんのために頑張るか!」 
「もうフウさんまで!」 
 このお店の店主、フウさんは20年前に中国から下田にやってきて 同じ漁港の町中華『香港亭』でずっと住み込みでやってきたが 5年前にこの建物のオーナーから腕を買われて今の店を立ち上げ 店主として切り盛りしてきた。 地産の食材をあらゆる手段で仕事するその腕に惹かれて常連が通う。 
「今日のシッタカはどんな形で出てくるのかなぁ?」 
「茹でる、焼く、蒸す、揚げる、煮る…他に思いつかない」 
「まさか中華じゃなくてエスカルゴ風とか?」 
「あ、それ美味しそう!」 
朝のプリモのことはすっかり忘れたのか、今はまたもふたりで青島ビールを2本開けていた。 
「おまたせ!もう2本も飲んだの!じゃあそれに合うと思うよ、 まずはマース煮。これって沖縄のやり方なんだけど、 地元の塩を使って煮る料理なんだよ。 今日は裏のみかんの葉っぱを入れて軽く火を通したてみたよ」 
「みかんの葉っぱ!」 
フウさんは二人の驚く顔を見てしたり顔で厨房へ消えていった。 
「うわあ、ちゃんと香りがみかんだ!」 
「トムヤムクンにこぶみかんの葉っぱが入ってるけど、あれだね。潮の香りと柑橘の香りが凄い合うね」 
 もう一本青島ビールを開けたところで紹興酒に切り替えた。お店がいつも切らすことのない甕出し紹興酒だ。大量に買い付けているようでデキャンタで格安で出してくれる。その後は下田の味噌蔵の味噌を塗って焼いた串や、切り干し大根といっしょに焼いた卵焼き、麻婆茄子には挽肉の代わりに軽く燻製したシッタカが入っていた。締めはなんと手打ち中華麺のシッタカビアンコ。 
「やっぱり天才だわフウさんって」 
「本当、こっちにきた頃にマツに紹介してもらったけど、最初敷居が高くて 入り口でウロウロしてたらフウさんが扉開けて歓迎してくれて。 しかもこんな学生なのにいろんなのをまとめて 2000円でやってくれるんだからね」 
「えー、今日ので一人2000円!」 
「いやいやその倍お酒飲んでるんじゃない?」 


8.星空シート 

 マツは今夜はダンガリーではなかった。 ブルックスブラザーズのブルーのボタンダウンシャツにカーキのチノパン。 ロングヘアーはタオルではなく歯磨き粉のようなチューブに入ったスタイリング剤のスコアーでオールバックにまとめていた。 
「南伊豆イチの星を見に行きませんか?」 
夕方の波に乗り終え神社に向かうビーチにいた女性に声をかけた。 ノースリーブのシアサッカーのワンピースで手にサンダルを持ち 一人で波打ち際で波と鬼ごっこをしていた。 長いワンレングスの髪をかき上げた時の横顔がタイプだった。 
「サーフィンお上手なんですね。部屋の窓からずっと見てたけど もっと近くで見たくて出てきちゃった」 
自分を目指してきてくれていたことを知ると俄然前のめりになり 星に誘ったという訳だ。この稲森裕子は都内で輸入小物のお店をやっており、3日間休みができたから一人でも海にむかったということだ。 
 オールバックのマツは赤いBMW2002のハンドルを握り前方注視していた。もちろん学生の身分でこんな外車に乗れるわけはなく、裕子が東京から乗ってきた車をドライバー役でエスコートしているのだが、高級外車になんて乗ったこともなく緊張で横も向けないのだ。 
「別に事故らなきゃ擦ったりしてもいいわよ。リラックスして」 
すっかり読まれている。約束した時間に車を乗り付けた裕子は 自分の方が数歳年上であることをビーチで悟ったので 端々に姉感を出すようになっていた。ただマツの胸板の厚いワイルドな姿を見るたびに 女として守られたい感情が前に出て歳の差意識は薄れていく。 
「やっぱり家のと違って左ハンドルは慣れないなぁ」 
まあ言い訳としてはなくもない。 
 白浜から下田の町に行く途中峠を越える。この山は海側に突き出た岬、皇室の御用邸もある須崎だ。岬方向に向かう舗装道路を外れ岬の先端まで車を進めると民家もなくなり街灯もない暗闇が広がる。がしばらくすると辺りは明るくなりまた暗闇に戻る。その定期的な灯りの正体は爪木崎灯台だ。 
「着いたよ。ね、すごいでしょ」 
フロントガラス越しではよく見えなかったが頭上には数え切れない数の星が気のせいか近く見える。 
「すごい!降ってくるってこのことね」 
「その通りほら」 
海原の果てに向かって流星が走った。とその後に灯台の明かりがあたりを照らした。車から少し歩いたここは岩場でこの先は断崖絶壁だった。恐怖心から裕子がマツの腕にしがみつく。面白がったマツが少し押すフリをすると腕に抱きついてきた。 
「いいねぇ。もっと押そうかな」 
「もういいから」 
 周りは腰くらいの草が広がるだけなので風が抜けて行く。裕子のワンレングスが風になびく。クーラーの利いた車の中ではあまり立ち上がらなかったトレゾアの香りが、本人自身の香りと夜の湿度と相まってマツの本能の部分に働きかけてくる。 
「本当にあさって帰っちゃうの?もう少しいてほしいな」 
「週末は私がお店にいなくちゃいけないのよ」 
灯に浮かび上がったマツはうつ向いて石を蹴っている。 
「すねた子供みたい」 
「うるさいなぁ」 
マツは裕子を抱き寄せ、その力に身を任せる。次にやってきた暗闇にそのシルエットも消えていった。 


9.祭囃子

 白浜神社の例大祭は10月で、7つのかがり火がたかれた幻想的な祭りだが、街中の八幡神社の例大祭は8月半ばに行われる。 大阪夏の陣で勝った徳川軍の陣太鼓の様子を真似たものらしく 通称”太鼓祭り”と呼ばれ、笛や三味線、太鼓を打ち鳴らしながら 一日中町内を練り歩くとても賑やかなお祭りだ。ともに下田っ子の楽しみなイベント。多くの人が集まって町全体が浮かれる日となる。 間原とメメぞうはそれぞれ家庭教師を済ませ、 下田駅のそばのお好み焼き「まんぼう」にいた。地元の山芋を使った滑らかな生地が人気で、祭りと相まってしばらく並んだがようやく入れた。 
「早く生ビール飲もうよ!」
「だね、大ジョッキ二つ!」 
マンボウに来たら絶対一つは豚玉、もう一つ頼むなら その日の取れたてのものが入ったおすすめ焼を頼むのが定番だ。今日は岩ガキとアナゴらしいのでもちろんオーダー。 
「ここまで聞こえるね山車の音。夏って感じだよね」 
さすがに浴衣はこっちへ持ってきてないのでヘインズの白いTシャツと白い短パン姿だ。Tシャツの袖を折ってノースリーブ風にしている。間原はメメぞうのTシャツ姿が好きで、きっと今日も着て来てくれるだろうとお揃いのヘインズを着てきた。 
「ものすごい人だったね。あのお囃子ってのは鳴ってるときは 華があってぱあっと明るくなるんだけど、一旦演奏が終わると”今までのは何だったんだろ?”って感じにならない? そのまま終わっちゃったりするともう無性に寂しくなっちゃって…。 だからメメぞうを誘ったんだよ」 
「わかったわ、お祭り終わってもしばらく一緒にいてあげる」 
豚玉が終わりおすすめ焼の焼けるのを待っていると 店の引き戸が空き暖簾をくぐってカップルが入ってきた。 
「おおっマツ!来たんだ!」 
意味深に目くばせするマツの後から大人の女性が入ってきた。 
「誰だよあの人、すっげえマツのタイプじゃん」 
二人は顔を寄せ小さい声で話す。 
「寛ちゃん、メメぞう来てたんだねー。この人は稲森裕子さん。自由が丘でお店を持つ女社長!」 
余計なこと言うなという感じで裕子がマツの背中をつねる。 そのやりとりに白ヘインズの二人は関係を悟った。 
「あっちの座敷に行こうよ。じゃあまたね」 
マツはそそくさと二人から離れるように奥へと消えた。 
「あれはナンパしたね。しかも一昨日くらい。昨日は爪木崎灯台」 
「何?その具体的な感じ」 
「マツのゴールデンコース!」 
「サイテー!」 
岩ガキとアナゴのお好み焼きは絶品だった。奥の座敷は二人だけの世界に入っているので 声をかけずに店を出た。 祭り囃子は聞こえなくなっており人の群れが駅へと流れている。 
「下田って来るたびに故郷になっていくよね。 踊り子に乗って河津あたりに来ると帰ってきたなぁって。大きな半島の先っちょだからいろんなことが これまでやってきたことと違うのかななんて思ってたけど 、むしろ東京みたいに目まぐるしいところと違って 何も変わってなくてほっとするの」 
「変わらないって、実は努力が必要なんじゃないかな。 さっきのお囃子も江戸の頃から変わらず繋いできたわけでしょ」 
「変わらないって進歩がないってわけじゃないんだね」 
赤いビニールに包まれた綿菓子を持つ子、 ボンボンを弾く子、浴衣の子、この日だけの夜遊びにはしゃぐ子、お祭りは子どもたちの一番のイベントなのだ。 
「めめちゃん、見いつけた!まだ帰らないの?」 
メメぞうの居候している宿に長逗留しているナイスミドル須能さんだ。 宿のある多々戸から愛車ミニモークで迎えに来てくれたみたいだ。 夕方も街まで送ってくれた。 
「来てくれたんですか!でももうちょっと用事があって…」 
「あ、そう。ノープロブレム。わたしも用事済ませた帰りだから」 
後ろの車に急かされる形で赤い小さなバギーは去っていった。 
「寛ちゃん寂しいって言ってたからね」 
「あれ嘘だけど」 
「いいの私が寂しくなっちゃうから。寛ちゃんの部屋行こ!」 


⒑台風1号 

 お盆が終わると海水浴ムードが一気に薄れていく。 あんなにいた人々は3分の1くらいに減ったが むしろ若者や子供たちがいない分 ビーチは大人っぽい落ち着きを見せる。 若者の夜遊びの入り口だった夕暮れは 今はその黄金色の視界を楽しむ大人な時間に変わっている。 遠くからボンゴの音が聞こえる。 きっとアイタルフーズのチタさんだ。 アイタルは下田から多々戸に向かう国道沿いに昔からずっとあるジャマイカグッズの店。 レゲエのCDの他ラスタカラーの布やTシャツなどが 所狭しと積まれている。 
「ジャーノウデッ ジャノデジャノデジャノデ…」 
興が乗るとナイヤビンギが始まる。 遠巻きに大人のカップルたちが砂浜に腰を下ろして 即席のビーチサンスプラッシュを楽しむ。 ひとしきり歌ったりただ叩いたり 日が水平線に沈みあたりが徐々に暗くなってくる頃 チタさんは長いドレッドの髪の上にボンゴを載せながら 去っていくのである。 真っ黒の上半身は裸で、下にジャマイカンカラーの布を 巻きスカートのように巻きつけ、裸足の足跡を残していった。 
 夜半から降り出した雨は日が変わる頃から強くなり平屋の屋根を叩く。 長いひさしに助けられて、古い木造だが間原の部屋は平静が保たれていた。 10月に提出する国際法の夏の課題に取り組んでいると ラジカセで小さくつけていたFENがにわかに賑やかになった。 どうやらこの雨はフィリピンの沖で発生した台風1号によるものらしい。 明日の明け方には沖縄を通過し勢力をまして東海地方へ接近するようだ。 伊豆最南端の下田も直撃は免れない。 屋根を叩く雨音になれた頃、間原は眠りに落ちていた。 
 玄関の引き戸を叩く音で起こされた。なにか空が騒々しい。 
「サーファーたちが一斉に流されて、ヘリで捜索してる!」  
メメぞうが町内アナウンスを聞いて飛んできた。 
「マツを探しに行かなきゃ」 
間原は飛び起きて適当なものを着て飛び出した。 
「神社に寄ったらおばちゃんもあたふたしてた」 
「じゃあメメぞうはおばちゃんのとこにいてあげて」 
「わかった、寛ちゃんも気をつけてね」 
上空には2機のヘリコプターが広範囲に旋回している。 
「祠下に行ってなきゃいいんだが」 
神社の先の岩場は神聖な場所として先端に祠を置き祀っている。 ちょうどその下が波の立つポイントなのだが、 侵食で中がえぐられているから捜索のボートも入れない。 奥へ奥へと叩きつけられ翌日ホテル側のビーチに遺体が上がる。 
 間原が岩場に着くとすでに多くの人がそこにいた。 それぞれがいろいろな名前を叫んでいる。 
「マツー!マッちゃーん!」 
力の限り叫んだが波の爆音にかき消された。救命ボートがやってきたがやはり近づけない。自分たちも中に飲まれる二次災害は避けなければならなかった。祈り続けながらどのくらいそこにいただろうか。 救命ボートは捜索を諦め去っていった。 浜の方が騒々しい騒ぎになっていたので向かった。そこには次々と力の限り岸をめざしたサーファーたちの姿があった。人垣をかき分け彼らに近づくと皆ぐったりとうつ伏せになったり座り込んでいる中に マツの姿を見つけた。 
「マツー!」
生きているのはわかるがもはや限界という感じで返事もない。しばらくそのまま回復するのを待つことにした。 
 間原とマツとは大学の同じ学科で、苗字が近いだけに学籍番号も近く 教養課程の1年2年の間ずっと多くの授業が一緒だった。大学に登校しそこで休講を知ったときなどは、同じくぽっかり空いたクラスの女の子を誘って最近できた評判のカフェに行き、週末のドライブに誘ったりした。その子の友達も連れてきてもらい4人でのドライブは芝浦の沖、東京湾の13号埋立地がいつものパターンだ。都心から最短のこのススキだらけのリゾートで日中は太陽と戯れ、日暮れから横浜方面へ向う。瑞穂埠頭のスターダスト、ポールスター、本牧のリキシャルーム、アロハカフェあたり。米軍の彼らが出入りするバーの雰囲気にどうしても呼ばれてしまう。帰路、首都高羽田線から青い光の滑走路が見えてくる頃は、車内の前後は分断されたカップルシートになっていた。女の子ふたりをそれぞれ送り届け、下町のマツ宅経由で千葉に帰ると すでに夜は明けていた。 
「寛ちゃーん、ありがとう。ほんとごめん」 
マツがやっと力を取り戻してきたようでホッとした。 
「海に出てるだろうとは思ったけど、マツでもこんなことになるなんて よほどの潮だったんだね」 
「サーファーが多かったから、ついあともう一本って欲張ったら…。祠下に行ったやつもいたみたいだけど大丈夫だったのかな?」 
「救命ボートも近づけなくてそのまま…」 
「そうか…」 
台風一過の空はあまりにも青く、どうしようもない虚無感を誘った。 


⒒ルームナンバー

 あの日、星空を見たあとの部屋は1009号だった。 親の契約してる部屋と聞いたから今回も同じ部屋に違いない。 マツは下田プリンスホテルの廊下をわくわくしながら歩いていた。 今日漁協に行く途中あの赤いBMWを見た。 ナンバーも間違いない、裕子のだ。神社のおばちゃんも
「女の人から電話があったよ」
といってたので また突然下田に来て驚かそうとしているのだろう。持ってきた白のワインをドアのビュアーから見えないよう体の後ろに隠しチャイムを鳴らした。 
「はーい」 
確かに裕子の声だ。ドアに近づきビュアーをのぞいている間を感じる。が、すぐにドアが開き出てきた裕子はすぐにドアを閉めた。マツの腕を引きビュアーから見えない位置まで移動した。 
「どうしたの?びっくりしちゃった」 
「昼間神社に電話くれたでしょ。車も見かけたから来てるなって」 
「ダメなのよ」 
「何が?」 
「今回はフィアンセと来てるの」 
ドアの向こうから男の「どうしたの?」という声がした。 
「戻るね。こないだはいい思い出をありがとう」 
そう言って裕子は消えた。 ドアの向こうから
「ホテルの人が落とし物の主を探しにきたの」 
という声が聞こえた。 冷えていた白ワインのボトルから水滴がももの裏を伝っていた。 


⒓あの日の伝言

 メメぞうは水を抜き終わったあとの プールの底に溜まった砂をかき出していた。 
「メメちゃん、これからどうするの?」 
この宿のオーナータカさんは一旦夏のアルバイト期間を終了することを申し訳無さそうにいつも心配してくれる。 
「まあ、一度実家に戻って考えますよ。 本当に楽しい夏を過ごせました、ありがとうございました」 
メメぞうは短大を出て証券会社で働いたが性に合わずこの夏前からここで居候バイトをしてきた。 大好きなサーフィンを毎日できてある程度のお金ももらえるので何不満なく充実の夏を過ごしてきたが、その期限も来ていた。じつは数ヶ月前から温めていたことがあった。それはこのまま常夏の国へ行って同じように 宿の手伝いをしながら毎日サーフィンをして過ごす。次にやりたいことができるまで欲望に任せたいのだ。下田の書店に行ってもそんな情報もなく、海で会ったサーファーやショップの人達にアンテナだけは張っていたが、先々週長逗留最後の夜の須能さんと夜のプールサイドでビールを飲みながら夕涼みをしているときにちょっとその事を話してみたら、 
「旅行代理店の親友がいるから東京に戻ったら聞いてみるよ」 
と言ってくれ、昨日須能さんから手紙が届いた。バリ島のクタにあるB&Bが日本人観光局用に 日本人の従業員を探しているとのこと。ほぼ心は固まっているのだが…。 
 下田に来て数日後、大浜で波乗りを終え入ってみたお店で 間原と出会った。サニーサイドダイナーだ。 メメぞうが看板犬のベティをなでていると、あたかも店長のような態度で 
「ベティ良かったね、美人さんになでてもらえて」 
と言ってきた。そう言われると悪い気もせず その後の会話に気を許したのだ。 語り好きな間原に最初は正直言って男を感じていなかったのだが、 話す機会が増えるたびに情が移っていき、いつしかメメぞうのほうが好きになっていた。この夏の後のことはここ最近会うたびに話題にはなっていたが顔を見ると話せなくなっていた。 
「横浜の実家に戻ってゆっくり考えるから、あっちでも会おうね」 
そんな返事をして濁していた。というよりその気持も強くあった。  須能さんの手紙に記されていた旅行代理店の人に電話をしてみた。条件などを聞くと断る理由などない、いい話だった。また、ちょうどキャンセルが出た飛行機の席があり、 再来週のフライトまでの間に就労ビザも手配できるということだ。 来週この下田を離れ次の週にはいつ帰るかもわからない飛行機に乗る。 初めてのバリ島ということもあり不安が襲うが、この機会を逃したくはない。全部話して気持ちを整理しよう。タカさんにスクーターを借りて間原の部屋に向かった。 
 いそうな時間なのに部屋に間原はいなかった。ドアの前の階段に腰を下ろし待つことにした。この夏の思い出がどんどん押し寄せてきた。日が傾いてきた頃、この家のおばさんが戻ってきた。 
「あれー、メメちゃんじゃない。どうしたの?」 
「寛ちゃん待ってるんです」 
「えーっ?寛ちゃんから聞いてないの? 昨日お父様が倒れられたということで、最終の電車で千葉に帰ったのよ。戻れなかったら部屋の荷物を着払いで送ってって。長くなるかもねぇ」 
メメぞうはこんな形で会えなくなることは考えもしていなかった。 きっと何か手紙を残してくれているに違いない… 。おばさんに部屋を開けてもらったら、机のラジカセの下に手紙が挟んであった。 
「メメぞうへ 父が倒れたので急ぎ帰ります。経過次第でまた戻ります。 もし、長引いたら11月の頭の週末にShanghai Palaceで会おう。 それまで元気にしててください。」 
涙が止まらなくなった。 
「千葉と横浜って近いんでしょ、すぐ会えるわよ」 
おばさんが心配してくれるがすぐには言葉にならない。 
「私、寛ちゃんに言えないままだったんだけど、 再来週急に外国に行くことになったんです。 あっちで働くのでしばらく日本には帰れなくなると思うんです。 それを言おうと思って来てみたら…」 
涙がまた溢れた。 
「それじゃあずっと会えないままじゃない! 今日か明日に連絡が来るはずだから寛ちゃんに伝えておくよ」 
「寛ちゃんのところがそんな状況だから 数日は私から連絡しづらいので、よろしくおねがいします」 
 2日ほど盛夏に負けない猛暑が続き、翌日から台風4号の接近が報じられた朝、メメぞうは下田を出た。 


⒔静かなまぼろし 

 ズブロッカのロックは2杯目になっていた。 窓の先の水面は変わらず鏡面のように静かで、オレンジ色のハロゲンライトを映し夜焼けのよう。心を乱し昂らせる人工光の不躾が気になり始めていた。高所から眺める都市の夜景とは違い、手が届くほどすぐそこの港景は釣り人たちが残していった絡んだ釣り糸やビニール袋などがしっかり目につく。 
「闇の中にそのままにしておいたほうがいいものってあるのにな」  
店に小さくかかっている音楽は有線の歌謡曲。雰囲気には合わないと思うのだが、何故かいつも変わらない。いつしか松任谷由実の「静かなまぼろし」になった。アルバム「流線型‘80」に入っている曲。別れた彼が偶然同じ店に入って来て、彼は気付かないまま知らない女性とメニューを選ぶ、その声を背中に聞いている、と言う歌詞だ。間原の背中には初老の夫婦がお互い椅子の背もたれに寄りかかり 来週自分たちの家にやってくる孫の話をしている。 
 父親が倒れ、一命はとりとめたが介護生活が始まった。長男の間原は母親を支え諸手配を行ううちにひと月が経っていた。下田のおばちゃんに連絡できたのもあの一週間後だった。メメぞうのことをそのときに知った。 メメぞうの連絡先は知らないまま、自分の手紙だけメメぞうに託されたことになった。 
 1985年11月1日金曜日 24;00。間原はメメぞうが来ることのないことを悟り 赤いネオンを後にした。 霧はまだ深いままだった。       

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