【短編小説集vol,16】鎌倉千一夜〜ちえの輪の戻し方
第80夜 往来の残光 リタイアしてからこいつとの散歩だけが私を外に連れ出してくれる日課だ。コーギーのキッシュ、9歳。私は68歳。ドッグイヤーからしても多分まだ私の方が年上じゃないかとは思うが、日々のこの億劫さはキッシュは少しも持っておらず、朝早くに私が目覚め動き出すとすぐに散歩に連れて行ってくれることを期待してソワソワしだす。そのテンションには相当な年の差を感じる。滑川に掛かる東勝寺橋を渡り小町大路を越え宇都宮辻子を行くと段葛に出る。ちょうどその角にあるモーニングが人気のカフ