NISAが普及しても、投資思考が無い日本人

大谷翔平が渡米した直後、現地記者からは「マイナーリーグから始めたほうがいいんじゃないか。」と言われていた。

まさかこの時には、スポーツ選手史上最高額の契約金を叩き出す選手になるなんて、誰も思っていなかっただろう。

大谷選手がエンゼルスを選んだ理由も、投打ともに出場させてもらえることを前提とした契約を望んでいたとの事だったらしい。

エンゼルスとしては、大谷翔平がこれほどの大きな選手になることを見越して契約したとは思えないが、それでも引き受けてメジャーでは格安の給料で、練習環境を整備して、通訳を付けて、2020年にはケガをして出場機会を減らしても見捨てることはしなかった。

その結果、爆発的にパフォーマンスが飛躍して、グッズ売上など大きな利益を得ることができた。大谷翔平自身も、投打で活躍することを目標に、自分自身への体のケアを徹底していたはずである。

当記事はそんなスポーツ選手の話をしたいのではなく、海外の人には「高く売る」工夫や思考が身についているような気がする。という話をしたい。

エンゼルスは大谷翔平を安く仕入れて、最終的に歴史に名を残すレベルの選手に成長したので、投資としては大成功と言える。

日本人は「安く買う」「安く作る」「安く売る」という思考が根強くあり、何かと圧力をかけて安く買うのが正義のように思っている。何のために安く買うのか目的もないのに、洗脳されたように、とりあえず安く買おうとする。

だが、ATMや保険や賃貸の手数料を気にしない。クレジットカードを使えばポイントが貯まるのに、キャッシュレスの潮流が来たのも最近である。

日常のスーパーの食品は同じ系統の品物の値段を比較して、質を考慮せずに、同じ品物なら同じものと考えているのか1円でも安いものを買おうとする。そして、貯金こそが正義だと思っている。それがデフレの温床となって自分自身の首を絞めてきた。

そこまでして貯金をしても、将来が不安になるような変な詐欺話を投資話と混同させて、大切なお金を騙し取られたりする。

だが、投資において重要な事は「安く買う」ことより、「どれだけ高く売って利益を出せるのか?」ということだと思う。仕入れ値がいくらであっても、結局それ以上に高く売れれば、自分が損失を被ることもないし、利幅が同じなら、高く仕入れようが安く仕入れようが変わらない。

「どれだけ高く売って利益を出せるのか」という思考が、投資思考だと私は考えている。それは、将来を正確に予想する能力にも繋がるし、将来に向けた今現在の自分の行動が合理的なのか問われる。

一番私達に身近な投資は「教育」である。各家庭の子どもというより、国単位で考えた時に、教育費をたくさんかければ、優秀な人間が1万人の内で何人か育つというのは、イメージしやすい。

教育の場合、闇雲にお金をかけるというよりは、質と時間や環境の要因が大きいと思うので、それを整備してあげる為の投資ということだと思う。よく海外の大学への寄付金がとんでもない額だとニュースになる。

なぜそうなるのか考えてみると、寄付した分だけ税金が安くなったり、寄付した大学から優秀な人材が自分の会社に入ってきてくれる予想が立てられて、入ってきた社員が寄付金を上回るパフォーマンスをしてくれる算段があるからだろう。

日本人にとって投資というのは、ある程度のお金を払えば、寝ているうちにお金が勝手に増えている。というような不動産収入に近い事かもしれない。それは投資した結果みたいなもので、投資の本質ではない。

投資の本質は「育てる」ことに近い。

種を安く買って、木にして、実が沢山なったら実を売るか、果樹園の土地を売って利益を得るように、勝手に放っておいたら勝手に増えているというのは、ただのネグレクトで、投資対象が真っ直ぐ育つかグレるかは運になる。

投資をするのなら鉄則として、自分が理解できるものに投資すべきであるし、どれくらいの期間でどれくらいの利益が見込めるのか具体的なゴールをイメージすべきである。

だから、NISAなどが普及しても、投資信託で預けっぱなしみたいな、銀行や証券会社のオススメを鵜呑みにして、未来の都合が良すぎるグラフを見させられて「年利数%で5年後にはこれくらい増えてます。」みたいな理想を深く考えずに買ってしまっては、それは投資ではなく消費どころかカネをドブに捨ててるに近い思考と言える。

安く仕入れて高く売るが投資の原則だとしても、高く買ってもっと高く売るという事ができるし、2024年の新NISAを始めた人は、おそらく日経平均、NYダウの高値から始めることになって、高値で買ってもっと高値で売るという考えが必要になる。

価値が高いものは、価格が高い。需要が高いから、価格が上がる。多くの人に認められているから、信用されてさらに価格が上がる。日本人は米国株を買うのが好きらしい。今は円安で、日本株が30年ぶりに調子が良いのに、日本に住んでいる人がなぜ米国株を買うんだろうかとも思ってしまうが、それは好きにしたらいいと思う。

「投資=金儲け」という考え方が私はあまり好きではない。

先程も言ったように、投資は教育的な側面も孕んでいるからである。

投資をして、自分が儲けたいという考えがある一方で、自分が選んだ投資対象に成長して還元してもらいたいというGiveの精神も必要になる。

農業を例にすれば、とある夫婦が農業を始める。

二人で生産できる限界が毎年1ヘクタールで米100キロだとして、毎年100万円の利益を得られるとする。

毎年100万じゃ、米があるから食べ物には困らないにしても、厳しい。だから、トラクターを買おうと考える。

トラクターは1000万するとして、毎年50万貯金できても、20年かかる。それでは、この夫婦がトラクターを買える頃には老夫婦になっているかもしれないし、トラクターの価格も1000万じゃなくて、20年後は2000万になっているかもしれない。

そういう時は銀行や誰かから金を借りて1000万の設備投資をする。トラクターのお陰で10ヘクタールで米1000キロを生産できるようになれば、単純計算で1000万の利益が出るので、生活費や借り入れの金利を引いても数年でペイできる。ということになる。

このように単純化すればわかりやすいが、日本人はずっとトラクターを買わずに金を借りずに、ずっと貯金をして何かを買おうという思考が根付いている。だから、リスクを取らずにカネばかり貯めて、世間知らずになり、高齢者になったら、詐欺で全て持ってかれるような事が勃発する。

人間というのは、愛することよりも愛されることに注力する。要するに、与えてもないのに見返りを求めようとする。

貯金というのは良い行いのようだが、市場に出回っているカネを自分だけでせしめようとしている行為と同じである。

前の例で言えば、トラクターに投資すれば、銀行も、トラクターのメーカーも、お米が無くて困っている誰かも、生産者の自分たちもみんな幸せになる。

カネの規模が大きくなればなるほど、幸せの輪が大きくなるし、影響力を持つことになる。もちろん、返済しきれないほどの借り入れをしたり、天候が悪化して不作になったら大損害なわけだが、そういうリスクを取る人がいなくなると、経済情勢が悪化することになる。

日本がなぜ不景気なのか。といえば、誰もリスクを取らなくなる”投資思考”が消えたからである。だが、デフレからインフレへ転換し、その考えも変わる可能性がある。

NISAをキッカケに世の中には詐欺が横行するだろうが、それよりも投資が身近になって、経済が成長して欲しいと私は願っている。

まず自分がGiveして、他人を育てる。自分にはできないことが世の中にはたくさんある。そういう必要なことを文句も言わずに頑張っている人の給料が安すぎるせいで、日本の労働環境は本当に悪化してきた。

投資思考が日本全体で身に付けられれば、人手不足の業界や、低賃金の長時間労働の問題を解決できるはじめの一歩になるんじゃないかと私は考えている。

顧客の損失が自分たちの利益になる金融業界が、顧客を儲けさせるようなオススメをするだろうか。

投資思考を身につけられれば、きっと日本社会はもっと経済的によくなるはずである。

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