創作の悦びとその絶頂:『愛を犯す人々』ができるまで②
【合わせて読みたい:これは一話完結の連作短編集『愛を犯す人々』のスピンオフエッセイです。こんにちは世界がふとしたきっかけで物語の端緒を掴み、糸の絡まりや編図に頭を悩ませながらも一生懸命、慣れない手つきでやっと小品を編み上げる様子を、ボツをデモに詳細にお届け。だんだん仕上がります、途中で何度も変更がありますがアイデアも浮かびます、濡れ場でぐぐっと筆が乗り始めます、好きなものが沢山あります 他】
前置きもなく、ごく即物的具体的にいきます…道のりが長いから、所感は①に譲りました。
では早速。
1.主人公の名前を決めます。
書こうかなと思い立ちます。
おもむろに周囲を見渡し、美しい人、あるいは美点のある人を探したり、思い出したりし、道すがらに名前を考案。
今回は朝の電車、目の前で受験勉強してる少女。ではなくその隣、着崩れてメイクも相当落ちてる、朝帰りっぽい28くらいの美人です。(ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、こんにちは世界の朝はとても早いので、こういう場面にはまま遭遇します。)いやぁ、その疲れ切って満ち足りた顔…!お美しい。婚約指輪のダイヤがピカリ、決定打はこれ。
莉子というのが頭に浮かびますが、あえてありそうにない理理子に。漢字が鬱陶しいので、本人にはりりこと呼ばせることにします。名は体を表すといいますからね、名前が決まると俄然、具体的になってきます。
日頃は、名付け辞典の色々な名前を眺めて、こんな人かなぁなどと妄想を膨らませています。
他にも…星占いの性格欄・恋愛スタイル欄で、その人に名前を付けてみたりかな。膨らみます。
名前が無い人って基本、いないと思ってるんですね、だから、赤ちゃんがどんな人になるかわかんないけどとにかく親は名前をつける、ような仕方で、名前は初めに付けます。
2.パートナー(配偶者か恋人のどちらか)を決めます。
今回は伴侶がすぐに決まった。瑛美、こっちも漢字が重いからエイミと綴ろう。帰ったら、どんな時でも優しくおかえりって、笑って言ってくれる人がいいな。ということは、精神的には大人だ。計算系理論系メイクをマスターしてる、実は男顔だけどふわふわで、ふわふわなのに凄く色気がある美人がいいなあ。
妄想中はイメージ優先ですので、しばしば日本語が崩壊します。
3.アウトラインをおおまかに決めます。
ちょっとだらしないけど、とてもエイミが好きなりりこは、エイミがりりこのこと好きじゃなくなったら、その時はちゃんと別れてあげなきゃ、っていつも考えて、自分の考えに悲しくなるような、根暗な人。常に不安で、ブレブレで、ダメダメ。だけど、エイミはりりこの、他の誰にも代えられない何か(未定)に救われていて、だからりりこを絶対に手放す気はない。
だらしない、かぁ。塾講とかいいなぁ。早速、様々な塾のサイトをチェック。うーん、ちっちゃいとこにしよ。色んな学年教えてちょっと達観してる感じがいいかな。個別指導かな。
りりこはエイミが大好きだから、あとは人でなしでいいんですね、むしろ人でなしなくらいでちょうどいい。というのも、人を愛することができるというのは、何にも代え難い美点ですから。
ということで、デコボコカプが捨てがたい。やっぱりどっちも美しい人でいてほしいけど、ビジュアルや服の趣味的には乖離した感じかな。エイミがしっかり者でちゃんと稼いでるはずだから、年齢的にエイミは働き盛りで忙しいはず。りりこはちょっとさみしいんだろうな。きっと、塾講師で社会人と生活時間帯もずれてるし、エイミみたいにできる人が好きだから、やらかしちゃうんだけど、なかなか恋には落ちない。
ちっちゃい塾の講師で、できる人と出会うのは大変そうだなぁ。エイミと恋に落ちたのは、学生の頃にしよう。
学生か。エイミとはもう7、8年は付き合ってるはずだから、学生の頃みたいな恋愛にノスタルジーを感じるかもしれないな。生徒とちょっとした出来事はありかな。とはいえお子様はあれだなぁ。せめて大学生くらい。
よし、元塾生。お相手は、前田くんという名前にしよう。
4.おもむろに本篇を書いてみます。
この時点では素描レベル未満でストーリーも埋まらず、野菜を切る以前、選んで洗ってみただけみたいな状態です。
「また、やっちゃった。それで話が済めばどんなに気が楽だろう。エイミは『了解~ 楽しんできてね』ってメールくれたけど、平日なのに遅くまでネットフリックスを見たりして、気を紛らわしてるかもしれない。りりこは…」
進みませんが、気にしません。
うーん、帰りなんだ。朝かな、終電かな、終電だな。朝は流石にアウトな気がする。待てよ歩いて3時に帰るはありだな。相手どんな人かなぁ。生活時間帯時間帯合うから、カフェ店員とかどうかな。
「全然気づかなかった、わけじゃない。 あーかっこいい子いるなぁ目の保養。若さ若さ。って、思ってたからね。そしたらその、顔面偏差値も背も高い男の子が、りりこにロックオンしてがんがん歩いてくる。し、か、も、微笑んで手を振って歩いてくる。りりこは後ろを振り返った。しまったこれ、自意識過剰の恥ずかしいやつじゃん。りりこはけれど、そこでキョロキョロした、え…?誰もいない…?
先生、なにぴよぴよしてんの。受ける。…」
ははぁ、知らない間に育ってたのね。でもイケメンってだけでりりこは食いつかないよね。反省中だし。それに、イケメン設定は蒼唯で出てきたからなぁ、なんかひと捻りないとつまんないな。まあいいや後でどうにかしよう。
学生かぁ。そうだ後輩にすればいい。いや、つまらないな。嘘をつかせる。いや、これでは前田くんがただの学歴詐称人間になってしまう。前田くんの魅力を最大限に引き出すとしたら…
そうか!前田くんをデキメンにして、高3てことにしよう。合格はほぼ決まりでちょっとヒマ。そういえば高校時代に一橋志望の面白い子がいたなぁ。ほんとは高校生。いいね、色っぽくなってきた。
5.エピソードの取捨選択の基準を考えます。
このストーリーのポイントは3.4.で出てきたアウトライン。
・主人公が女性で、将来を誓い合う仲であるような女性と同棲中であること。それが、早々にわかること。
・主人公は基本的にダメな人なんだけど、他にはない魅力があること。ダメという言葉を使わずにダメだとわかるとよい。
・こんなにダメでだらしない人にも幸運や幸福があること。それは新しい出会いによって何らかの形でもたらされること。
・前田くんが曲者であること。
・しかしながら、前田くんには決定的に人生という経験が足りず、なるべくどうしようもない形で若さを露呈していること。
・ぐっとくる色っぽいシーンがあること。できればエイミと。
・コメディタッチで、エピソードの割には明るく読めて、できれば読後感がいいこと。
6.コアになるエピソードを詰めていきます。
りりこは基本、人を覚えないんだよね。嘘ついて大学生だって言っても、あ、おめでとう。くらいしか言わないなんて、人を見てないでしょそれ。りりこのことを好きだった前田くんはちょっと傷ついて、手玉に取ってやろうと思い立つわけですね。あんまり本気ではないけど、暇つぶしに結構面倒な手を使う。
大学生のふりをして一夜を過ごした前田くん。次の月に、りりこの弱小塾にりりこをご指名で再入塾します。りりこの反応やばそうだなぁ。ここでやっと恋に落ちるんだろうな。吊り橋効果で。
エイミは仕事が上手くいかなくて珍しくりりこに甘えたい。けどりりこは恋に落ちかかってて、やらかしてしまう。世界で一番大事なのはエイミなのに。
ということは、りりこの真の魅力(相変わらず未定)に気づいた前田くんが「先生に対してたぶん、自分と同じような気持ちを抱いてる奴がいる。でも、自分はそいつに勝てないようだ」と、自分の恋心のやり場のなさに気づかないと、面白くないなぁ。なんだ、前田くん、りりこには二度目の恋をするんだね、それも、ちょっと大人の恋を。
…と考え、エピソードの順番を変えます。エイミと仲直り→前田くん→エイミとうまくいかない→前田くん→エイミと…
もうお気付きですね。この理理子篇の最大の問題は「長さ」なんですね。切るとただの痴話喧嘩かオネショタになってしまう。。。設定は活かして、ストーリーを根本から見直すか…もう一度名前を決めたところからやり直すか…こうなると結構、自分の思考の枠組みから出ないといけないので、泥沼化し、きつい作業が残されます。はい。丸々残ってます。ボツの理由の大元は、これです。いつか日向に出るかもしれませんが、結構違う形になっていると思います…それでも何かになっていればと自分では願っています、その時、まだ私のノートを読んでくれていたら、どうぞ、生温かく歓迎してあげてください…。
7.それぞれの性格がわかるような台詞を考えます。
使わなくたっていいんです。声を聞きたいだけだから。映画のポスターとかでありますね、大写りの写真とコピーみたいなやつ。
り「あーすごい降ってんなぁ。帰るの、めんどくさ。」
エ「りりこはさぁ、もっと深刻に考えなよ。りりこっていう、一人の人間の人生なんだよ。」
前「えー? 俺も童貞だもん。てか安藤だってさ、事実じゃん。悪いことでもねーのに、隠すほうがわけわかんなくね?」
安藤だと…?!なんで急に出てきた。
そうか塾で雑談してるのね。前田くん狙いの女の子にしようかな。前田くん嘘、好きなんだね。りりこ悔しくも嫉妬。前田くん薄笑い。
りりこの台詞は…ここで前田くんに肩を抱かれちゃうんだろうな。
「じゃあ先生。雨宿り、しようよ」。
8.ガシガシ書きます。
細部は置いておいて、完結するように頑張ります。とにかく、裏設定には絶対に頼らないと決めています。
違和感を感じると、初期構想と真逆にしてみたりします。
例えばエイミがダメダメでりりこがデキリーマンで、忙しいのにエイミが甘えてきてめんどくさい。こうしてみると、りりこは甘えて面倒がらせるとかしないタイプなんだろうなとか、面倒だと逃げるタイプなんだろうなとか、エイミはりりこのそういうところに困ってるんだろうな、とかが見えてきて、そうか、それでさっき、台詞がああだったんだなぁと後追いでわかります。
ちょっと突飛だけどありそうなエピソードを入れてみたりします。エイミが結婚指輪をすることにするとか。エイミの彼氏が303号室(※二人の部屋。いま無理矢理番号を決めた)に乗り込んできてエイミが大困惑するとか。
大筋を変えないなら理理子篇は、撤退したと思った前田くんが、家庭を築く決心をしたりりこの前に、バイト講師として再々登場ニヤリ。かなぁ。コミカルな感じも悪くないなぁ。などなど。
テンションが下がってくると濡れ場を書きます(笑)
うん、もうちょっとで、いけそうなの…続けて…続けて…続けて、そうずっと、ずっと…ってお願いする、エイミの上気した顔とか。
あぁ、たまんねぇわまじで。ってため息混じりにうっとり腰を打ち付ける前田くんとか。
…!
いいね、前田くん。やる気出てきた。
9.本篇を読みながら、裏設定をします。
すみません、ここからはデモなしでお願いします。まだ本篇ができてないので、書けない汗
この時点でだいたい設定が固まってるので、書きやすいことが多いです。書いているうちに、こういう行動をするということは、裏にはこういうコンプレックスが…などと、裏の裏を取り始めます。
ちょっと意外なことや、ちょっと面白いことの間に、少し現実的なことを(インスタや雑誌や他の方のブログなどを参考に)入れ込みます。
そうだなぁ。エイミの趣味がボルダリングとか。安藤ちゃんのバイト先がみんなの例の会社の上の、ヒロセのいた翻訳会社だとか?書きながらうすらぼんやりアイデアはあって、それを実際に言葉に落とします。ボルダリングが大事なんではないんですね。ボルダリングに至る精神性が大事なんです。ということで、ボルダリングの資料を読み漁ってみたり、ボルダリング礼賛記事を読み漁ってみたりします。自分は仕事以外の理由で家から出ないタイプなのに、無駄にレジャースポーツ知識が増えます。
10.推敲します。
裏設定を参考に推敲して、裏設定に頼ってるところを修正削除します。詳しいところはこのエッセイの①に譲りますが、10.までの、この一連の作業が終わって、原稿を読む瞬間が、とても好きです。
11.好きなもの。のコーナーを書きます。
これね。自分のコメ欄にも書きましたが、大好きです。これを書く時にはもう全てが決まった状態。あとは、読んで読んで、耳を傾け、思い出すように書き取るだけ。一番楽しいです。
長くなりました…たったこれだけの小品を作るのに、どんだけ労力割いてんだ(笑)。でも、いいんです、楽しいので。①にも書きましたが、気に入った音楽を必ず毎日聴くみたいに、私自身がリピートして読みたいのです。(たぶん、性格がしつこい。)
ここまで読んでくれたかた、ありがとうございます。
ここまで読めるとしたら、きっと、書いてる人だと思うので、ご参考になればとても嬉しいですし、『愛を犯す人々』を、こういう視点から、もう一度楽しんでいただけると、とてもとても嬉しいです、
これが私の、筆の進め方です。
お話を書くのが、大好きです。
以上です。
好きなもの。についてのコメ欄があるのはこちら(海亀湾館長 さま、ありがとうございます!):
:『愛を犯す人々』を集めたマガジン。なんども読んで味わっていただけると、それが何より、嬉しいです。気に入った曲をリピートして聴くみたいに読んでもらえたらそれは、とても、光栄なことです…。
ありがとうございます。
今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。