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手負いの獣 -ss小説-

 森の中、君は一人で泣いていた。僕は気になって声をかける。だが、君は一所懸命涙を拭い、何も言いたくなさそうだ。

 ならば僕は何も言えない。でも僕は何かしたい。

--僕の取った行動とは。

「本を読む?」

 会話をしたがらない君に、僕は一冊の本を手渡した。君はしばらくその本を見つめている。

「邪魔なら持って帰るよ」
「……」

 君は何も答えなかった。そして、本を地面に置く。だけど、時折本を見つめていた。

(嗚呼、興味はあるけど、警戒しているんだね)

 僕は野生の猫を見ている気分だ。手負いの獣は全てを警戒する。

 それは僕自身がそうだから、見えないバリアを張るんだ。あまり気づかれないように僕は振る舞っているけど、鋭い周りは気づいていたりする。

 君も何かあるんだろう。

 僕は毎日、君と会った森へと出かけるんだ。

 いつか君と会話をするために。

 

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