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わたしのクリスマス・ムービー

7、8年前だろうか。12月のある日、クリスマス映画でも見ようかとレンタルビデオ屋へ行った。有名なものはほとんど借りられてしまっていて、この映画だけが、棚にぽつんと残っていた。『NOEL(ノエル)』というタイトルはクリスマスそのものだというのに、なんだかかわいそうになった。ちょっとふしぎな縁を感じて借りて帰った。それがこの映画との出会いだった。


わたしは当時、恋人にひどいふられ方をして、どうしようもなく孤独だった。そんな自分の境遇を、映画の登場人物たちに重ねた。この作品はいわゆる群像劇で、出てくる人々はみなそれぞれに孤独だった。彼らのしんみりとした寂しさは、わたしの心にすっと入ってきて、こわばっていたわたしの感情を、むしろときほぐしてくれた。この感覚がうれしくて、いくつになっても、ずっと大切に観ていこうと思った。以来、クリスマスが近づくと、この映画をビデオ屋へ借りに行くのがなんとなく恒例行事になっていた。

けれどそんなイベントも、ここ数年でおざなりになってしまっていた。行きつけのレンタルビデオ屋は潰れ、映画はサブスクリプションサービスで見るようになった。数日前、久しぶりに思い立ってあちこち配信サイトを探したが、この映画はどこにもない。ないとわかると、余計に観たくなる。わたしはついに古いデッキを引っ張り出し、中古のDVDがネットで売られているのを見つけて、注文した。この映画をもう一度観るためには、時代を「逆行」するしかなくなっていた。

そうこうして、やっと観ることができた。衝動的な一連の行動にも、意味があったのだと思う。数年ぶりに観ると、わたしの感じかたは、少し変わっていた。

昔は、映画のなかのしんみりとした孤独に、自分自身をひたひたと漬け込んで、それはそれでよかった。だけど、この映画のほんとうのテーマは、愛だ。彼らの孤独は、映画の最後には、愛に変わっている。この映画を観ていると、耐えがたいような孤独でいることすら、いつか誰かの役にたつのかもしれないと思えてくる。クリスマスのほんとうの意味も、少し理解できるような気がする。

わたしもいつか、知らない人に「愛してる」と言える日がくるだろうか。
わからないけれど。

今夜は、このnoteの世界で、いつもあたたかい心のなかを見せてくれるあなたを想う。

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