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国語辞典にまつわる3つのショートストーリー

1.あの人が欲しかった広辞苑。


「初任給をもらったら”広辞苑”を買おうと思う」
という人がいた。
その人は県内でも有名な不良の高校出身だったから、尚更意外で、私にはとてもパンチの効いた答えだった。「へえー本とか言葉とか、好きなんだ」と。
その人の答えがあまりに興味深かったので、私も”初任給はパンチのある使い方をしたい”と考えた。結果、「初任給で、嵐のファンクラブに入って、コンサートに行く」という結果になった。私の事をよく知る人は、「そんなミーハーだったのか!」と笑った。なぜ多くの女性がジャニーズに惹かれるのか、20代で一度はジャニーズのコンサート(国立競技場)へ行って確かめたかったのだ。自分としては納得のいく使い方をした。

2.ネットサーフィンならぬ、辞書サーフィンの想い出


私は、国語辞典をパッとめくっておみくじのように引き、目に最初に飛び込んでくる言葉の解説を読むのが好きだった。
高校生になって、電子辞書を買ってもらった。進学校におりながら、予習というものを一切しなかった劣等生の私。英語の授業で単語の意味を言わされるのを当てられた時のその場しのぎのために電子辞書が必要だった。けれど、それを手に入れてから国語辞典で調べ、そこから類語をずっとたどってジャンプしていくという”電子辞書サーフィン”がつまらない授業中の良い暇つぶしになった。ティーン特有の、親には聞けない、あの歌詞のあの小説の、言葉をこっそり調べたりとか。


3.映画「舟を編む」

ちょうどジンバブエに来る前、大規模なデモが起こって、出国が延期になって、自分はいつ行けるのかなと不安だった時、「舟を編む」という映画を観た。人におすすめされたけど、何にも前情報が無いまま映画を見始めた。タイトルから、全然想像もできなかったけど、国語辞典を作る編集部の話だった。広辞苑のようなずっしりと分厚い辞典を作るのに13年かかっていた。(こんなにもかかるの!)
変人、もの静か、コミュ障みたいなサエない主人公マジメ君(松田龍平、最高!)が、誰もやりたがらない辞書編集部に引き抜かれ、その長い年月の間コツコツと奮闘する。

一言で言って「素晴らしい」この映画のあらすじは予告編を観ていただくとして。
ネタバレになったら、ごめんなさい。
私が書きたいのはこの映画のおすすめコメントでは無く、とても個人的なこと。

辞書作りのための、たくさんの言葉集めのシーンがあった。「ん」の言葉群の中に、ジンバブエに関するワードがあった。

「ん」
ンデベレ語 ー ジンバブエのンデベレ民族が話す言葉
ンビラ   ー ジンバブエのショナ民族に伝わる伝統楽器
(これは広辞苑にも載ってるのか?!)

すごい!ジンバブエに行く前に、シンクロした。
制作した人、ジンバブエ贔屓なの?マニアックすぎへん?と首をかしげる。
(にしても「”ん”で始まる言葉なんてあるわけ無いでしょ!と」誰もが一回は調べたことがあるのでは無いか?)

そのあと、ある人が病気で死んでしまう。それは私の父と同じ病気で(部位まで同じで)、なぜか命日が近い日に、偶然この映画を観ていた。
(もしジンバブエでデモが起こらなかったら、命日に日本にいることもなかったから不思議だなと思った)

映画の中で、主人公のマジメ君は、恋をする。余計に恋というものがわからなくなり、悶えながら「恋」という言葉の意味を考える。
辞典には、たくさんの言葉集めと共にマジメ君の恋など、沢山の人間ドラマが編み込まれて、命が吹き込まれていった。

いろんな不思議なシンクロにドキドキしながら、どんどんこの映画に引き込まれていった。何なんだろう、この気持ち。
今までどうして、この映画に出会わなかったんだろう。
どうして今このタイミングでこの映画を観てるのだろう。
この映画をおすすめしてくれた人へ。あなたがこの映画が好きって言える感性を持っているのは、私には意外だった。ようやく気づいたのだけど、どうやら私は、あなたが好き。

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