上間陽子「海をあげる」

咀嚼に時間がかかる、というのが正直な感想だ。誠意をもって受け止め、落とし込み、その先へ進まなければならない、なんてもっともらしい事を言われ続けて摩耗してきたのだ。今、読了により絶望を受け取ったのだから、どれだけ自分のものとしてその絶望を原動力にできるのか、摩耗して諦念を抱く人々とそうなってしまうかも知れない者たちの為に次の行動へ繋げられるのかを打ち出さなければならない。痛みや苦みを噛み砕き、自分の血にする為の時間は苦しい。

自分はどちらかと言うと人の話きく方が好き、というなんてことない会話で発している時、捻くれ者の私は決まって胎の底で、そういう人で自分の話題に変えちゃう人多いよね、なんて毒吐いている。そうして相手が自分の話を半透明にしてずっと薄靄の向こう側(例えば周囲の噂話とか、聞き手が主張したい事とか、私をこの夜どうにかできないかとか)しか見ていない様を伺い、口を閉ざす。
【きく】には幾通りかの表記があって、人々が求めるのは傾聴という言葉に置換できるそれであろう。傾聴。改めて辞書をひく。耳を傾けて一心にきくこと。この場合、耳だけでなく心もその人に傾けてきいているから、その時初めて前述のような人には出せない何かが開かれるというものだ。
まずこれには一定のスキルが不可欠だろう。しかし職人的なものでも、ましてや資格が必要な訳ではない。その次に精神性が挙げられる。同調する事よりも相手にとっての要否を客観視するスタンス、そしてそれを相手に説いたり無理強いしたりしない公平さが肝要だ。そして恐らくは最も大事なのが耐性だろう。きくことで自身が参ってしまっていてはどうにもならない。相手への押し付けをしないという点でも、一定の距離感が保たれなければならないのは変わりない。
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最初の章を読んでて、すぽっと過去に戻った気がした。境遇は異なれど同じ経験をして今の私がいる。ひたすらに磨耗する、という点だけはどんな問題も変わらない。すり減らし、諦めてしまうのだ。関わりを断って孤立しようとするきらいがある。その傾向が他の章に出てくる彼女が調査した女性たちにも出ている。絶望は空虚を生み出すのだ。
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思考がまとまらず蛇足的な長文になってしまった。しかし現時点でまとまるはずがないのだ。目下提起されるべき問題で我々は考え行動にうつし続けなければならない。


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