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青春と成長はスクリーンの前で

映画館にまつわる思い出を語りたいと思う。
私の中で映画館といったら、色濃く思い出すエピソードがある。
私が中学一年生の頃の話だ。

当時の同じクラスの友達が、「土曜日に映画を見に行こう」と誘ってくれた。
見る予定の映画は、「青の炎」という映画だ。
当時嵐の二宮和也氏と松浦亜弥氏が主演で話題となっていた映画に友達が誘ってくれたのだ。
映画=アニメということが多かったため、中学一年生の私は少し大人っぽい映画に誘われたことにドキドキしていた。
大人は同伴せずに、友達と映画を見に行くのはこの時が初めてだったと思う。

友達、友達の妹、私の三人で今週の土曜日に映画に行こうと約束してくれた。
”子供だけで行く映画”というので、当日まで楽しみでわくわくしていたのを覚えている。
そしていざ当日となる。

待ち合わせして映画館に向かう。
当時はまだショッピングモールに併設されているようなシネマ・コンプレックスなどはなく、映画館に行って映画を見ることが主流だった。
席が指定できず、早い者勝ちの自由席。
4DXもネット予約もない時代だ。
今のシネコンの体制に慣れている人は信じられないかもしれない。
今は昔では考えられなかったさまざまな機能があって、かなり便利になってきているが、私は今だに昔ながらの映画館が好きだ。

そして私の住んでいる田舎の映画館は当時は、上映するスクリーンが別館と別れて二か所あった。
チケットの購入する場所兼、スクリーンのあるA館と、道路を挟んだ場所にあるB館のスクリーンというようになっていた。
今調べると現在はB館は閉鎖されているようだ。

友達と友達の妹と私の三人は映画館に行くと最初はA館でチケットを購入した。
この映画チケットを一枚買うのも、なんだか大人になった気がしたものだった。

友達と初めての映画ということに、心持ちはしゃいでいた私は、A館のチケット販売の場所からB館の映画館内に足を運んだ。
すると、B館の館内では沢山の子供でごった返していた。
土曜日の休日のせいか、B館のロビーにはほとんど小さな子供しかいなかった。
その時の私は「やけに子供が多いな~。ここで映画を見るのかな?」と呑気に思っており、小さな子供たちで騒がしいB館内を覗いていた。
一体何かの催し物でもあるのかという小さな子供率に圧倒されていると、


「チケットをこちらに渡すまで入らないでくださいっ!!!!!」


突然いきなり背後から叫ばれたのである。
突如叫ばれて驚き振り向くと、映画館の受付にいる一人の女が怒っていた。
今思うと大学生くらいのアルバイトっぽい人が、凄い形相でこちらを睨んでいた。
もちろん、チケットは渡すつもりでいた。
しかし、沢山の子供たちがごった返している映画館のロビーで足止めを食らっている状態だったので、受付まですぐ行けなかったのである。

映画を見る前に、物凄い剣幕の受付の女に怒られる。
勝手に入ってくるな!と言わんばかりの勢いに、沢山の子供たちの波をかき分けながら慌ててチケットを見せた。
チケットを渡しても、その女は相手が私たちが中学生くらいの子供だとわかってか、始終威圧的だった。
雑な対応でチケットを半分ちぎられてやっと映画館の中へと通される。

出鼻をくじかれながらも、やっと映画館の中に入る。
今のような指定席などない、自由席だ。
まだ席はまばらで空いている。そのおかげでスクリーンを見るのには十分いい席が取れた。
上映までまだ時間があるなと思っていると、次々に映画館に人が入ってくる。
なんだか、館内が徐々に騒がしくなる。
映画を見る、という雰囲気がなんだか薄らぐ。

それもそのはず、幼稚園くらいの子供がわっと入ってくるではないか。
映画が上映される前にはしゃぐ子供たちの甲高い声が飛び交う。
静かな映画館の空間が、賑やかな空間になる。
大人はその子供たちの保護者程度で、ほとんどの割合が子供だ。

ここで、何か違和感を生じることになる。
今回見る映画は「青の炎」という映画だ。
小説原作の映画で、少年犯罪を題材としたサスペンスになる。
ある程度大人向けの話になる。はずなのだが。
今、この映画館にいる小さな子供たちが見ることになるのか……。
などとぼんやりと思っていた。

すると、友達の妹が言った。

「これ青の炎じゃない……。

ドラえもんだ……。」

なんということだろう。
映画館の上映スクリーンを間違えてしまったのである。

私 「えっ、ドラえもん!?」


本来見るはずの、「青の炎」ではなく、同じ時期に映画が公開している「ドラえもん」が上映されるスクリーンに間違えて足を運んでしまったのである。

正しくは、「映画 ドラえもん のび太とふしぎ風使い/Pa-Pa-Paザ☆ムービーパーマン」である。

何故、このような間違いをしたのか。
当時映画チケットは、シンプルなもので、今ならチケットのタイトルが記載されているが、当時の映画チケットは「大人一枚 子供一枚」というチケット料金のみの表示だけだった。
映画タイトルの記載もなく、ただ「大人一枚」と記載されたチケットを映画の受付の女が怒鳴ってきたので、慌てて上映内容を確認せず渡した……ということになる。
本来なら、二宮和也氏と松浦亜弥氏が出ている映画を見るはずだった。
けれど、ドラえもんと同時上映パーマンである。

気が付いたのも遅く、そのままドラえもんとパーマンを見るしかなかった。
周りは小さな子供たちに囲まれて、いざ上映が始まる。
上映前は沢山の子供たちの声で溢れていたが、映画が始まると夢中になって子供たちは静かに見入っていた。

ドラえもん のび太とふしぎ風使いの物語は、笑いあり、涙あり、のび太の成長あり……と、鑑賞中、劇場スクリーンに映し出された涙を流すのび太に感情移入して、私もちょっぴり泣いた。
映画でわかるのび太の見せる勇気と成長……。
テレビアニメでは見れることのない感動のシーンで胸がいっぱいになる。
同時上映パーマンも最高だった。パーマンを見ると毎回コピーロボットが欲しいと思うし、あのぷにぷにした芋虫みたいな物体を指で二~三回くらいしたら変身セットが現れる瞬間が好きだな~とか、映画を存分に楽しんでいた。

映画が終わると、静かだった子供たちがまた騒がしくなる。
見終わった映画の感想を口々に言う子供たち。
やっぱりドラえもんwithパーマンは、子供から大人まで楽しめる最高の映画だ。
結果的に見るはずだった映画じゃなかったが、かなり満足だった。
映画っていいな。ドラえもんっていいな。パーマンっていいな……。
間違って見たもののかなり元を取っていた。

私はかなり満足していたが、同行していた友達とその友達の妹はどう思っていたかはわからない。
映画が終わり私は「感動した。泣いた」と話すと友達は「面白かったけど、泣けなかった」と言っていた。
本来見るはずだった映画とは正反対のジャンルであったので、温度差が酷いのは否めない。
その後は喧嘩にはならなかったが、友達の妹は映画を見終わると、友達のお母さんが迎えに来たのでそのまますぐ帰ったのだが、
友達の妹から、友達の携帯にメールが入り

『映画のチケット代返して』

と、静かに訴えの声が届いた。
友達の妹には申し訳ないことをしたと思っている。

数年後かに、本来見る予定だった「青の炎」をレンタルしたか、地上波で放送したかどうだったか忘れたが、見る機会があった。
少年犯罪をテーマにしたサスペンスもあり、結構な大人向けな描写があった。
当時、映画館で間違いがなかったら、この映画を友達と友達の妹の二人で見るはずだったんだよなぁ……。
そう思うと、まだあの時見なくてよかったと思う。
わざとじゃなかったが、間違えていて結果的によかった。
それくらい、当時の私はまだ幼く、子供だった。
一緒に見ていたら、見た後の気まずさがあったと思うし、その後感想を言いあえるほどの機転も利かないだろう。
変に大人ぶろうとして満足しない映画を見るのは辛かっただろうし。
友達には申し訳ないが、当時の私はドラえもんとのび太(withパーマン)に助けられたのだ。

#映画にまつわる思い出

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