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スティーブ・ジョブズ × 浮世絵

高松市美術館での展示『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』を見てきました。(かわせ はすい)
会期:2024年1月24日〜3月6日 月曜日休館

香川県 高松市美術館

大正から昭和にかけて活躍した木版画家・川瀬巴水(1883年〜1957年、明治16年〜昭和32年)。近代化の波が押し寄せ、街や風景がめまぐるしく変貌していく時代に、巴水は日本の原風景を求めて全国を旅し、庶民の生活が息づく四季折々の風景を描きました。

巴水とともに木版画制作の道を歩んだのが、新時代の木版画「新版画」を推進した元版の渡邊庄三郎(現・渡邊木版美画舗初代)や彫師、摺師といった職人たちです。四者は一体となって協業し、伝統技術を継承しながらもより高度な技術の活用を求めました。そして新たな色彩や表現に挑み続け、「新版画」を牽引する存在として人気を博します。

日本の版画といえば葛飾北斎や歌川広重などを思い浮かべますが、川瀬巴水の作品はそれらの有名な浮世絵よりも色鮮やかな印象を受けました。線もとても繊細です。
特に特に夕景や夜景の空のグラデーションが美しく、そこにぽこんと浮かぶ月、身近な風景ながら印象的な構図で、とてもカッコ良いのです。

「新版画」とは?

大正から昭和にかけて興隆した多色摺木版画です。浮世絵の伝統技術を継承しつつも新しい表現を取り入れ、絵師、彫師、摺師、版元による協業で制作されました。4人が1チームになって合作するのですね。1毎の作品がなんと29回の摺りでできているものもあるそうです。

とにかく多作で見応えあり!

本展は作品が約180点が並び、会場も1階と2階に渡って展示されていて、とにかく多作な印象を受けました。
作品は時系列に並んでいて、大きくは、巴水が経験した東京大震災の前と後という構成になっています。
震災がかなり衝撃的だったようで、自宅は全焼、これまでの作品と書き溜めていたスケッチ含め、画業の成果の一切が灰塵になる経験をしたそうです。

旅先でのスケッチ

何よりも旅行好きだった巴水。巴水は日本中を旅をしながら、旅先でスケッチをし、それを持ち帰って版画として作品を制作しました。
『東京十二ヶ月』や、『旅みやげ集』などのシリーズもあり、巴水の視点から見る日本の風景を楽しむことができます。
会場では同じ風景・構図のスケッチと版画、時には写真と版画を見比べることができ、風景は正しいながらも、仕上がりの版画は巴水のフィルターを通した雰囲気の作品になっていて、とても見比べる価値のあるものでした。
旅先にスケッチブックを持っていき、スケッチをするってとても素晴らしいし憧れますが、今ではスマホで写真を撮るとそれで気軽に完結してしまうのが味気ないですね。

スティーブ・ジョブズ × 浮世絵

川瀬巴水といえば、こちらが有名なのではないでしょうか。
米アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ
1984年、初代マッキントッシュを発表したセレモニーでのこと。
熱狂的な大観衆の見守る中、デモ画面の冒頭に映し出された画像が、長い黒髪をくしけずる日本人女性の浮世絵でした。

銀座の画廊にジーンズ姿でふらりと現れた若いアメリカ人。橋口五葉の「髪梳ける女」川瀬巴水の作品を合わせて25点も買って帰り、それを機に新版画のコレクションを始めたそうです。その人こそ、当時28歳のスティーブ・ジョブズ。川瀬巴水の作品は自身の部屋にも飾っていたそうです。

デモ画面には 橋口五葉の「髪梳ける女」


初代マッキントッシュ・・・Macユーザーには感慨深い写真です。

浮世絵は他にも画家のフィンセント・ファン・ゴッホが愛した、とか、クロード・モネの絵に浮世絵が描かれてある、とか、西洋絵画にも大きく影響を与えました。
日本国内では、作品というよりは消耗品(包み紙など)としての立ち位置だったこともあり、客観的な評価をすることができず、先に海外での評価が高まったと言われています。
今でいう漫画も、アウトラインの強い浮世絵も、日本の文化となっているのですね。純粋に『カッコいい!』と思える日本文化です。

展示は3月6日まで。ぜひご覧になってください。

高松市美術館ロビーに飾られていた巴水タペストリー

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