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ポストCOVID-19を迎えつつある中国の公共交通

中国の交通研究者・交通業界団体と交流のある筆者が、中国の現状をリポートします。
くらしの足をなくさない!緊急フォーラム ―新型コロナウイルスによる交通崩壊を止めろ― もご参照ください(筆者は主催者には属していません)。

COVID-19の震源地となった中国だが、1・2月の徹底的な移動抑制により国内の流行は下火となり、3・4月には経済活動が続々と再開される段階にある。もっとも、世界ではCOVID-19がなお流行を続けており、中国国内でも「外からの流入を防ぎ、内からの流行再発を止める」というコロナシフトを敷きながら経済活動を行っている状況である。とはいえ現状、コロナ流行後の世界を最も先取りしているのが中国であるので、その公共交通の状況をレポートしたい。

COVID-19抑え込み段階の公共交通の影響

中国では旧正月――春節を1月25日に迎え、本来であれば、2月には春節後のUターンラッシュで約15億人の旅客流動が発生するはずだった。しかし、実際にはUターンラッシュの需要はほとんどすべて蒸発してしまい、都市間交通は空気輸送状態に陥った。
2020年2月の長距離鉄道(国鉄)の輸送実績が公表されている(中国国家鉄路集団有限公司発展改革部)。

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旅客数は実に87%減で壊滅的である。こちらの記事(原語)では、断崖式の旅客数減少をグラフィカルに表現しているが、鉄道以外の空路・バス・旅客船も同様に旅客数が約9割減となっていることがわかる。
他方、中国では他都市からのウイルス流入を恐れて各都市が道路を封鎖することが相次ぎ、営業用トラックによる物流が著しく停滞・混乱したため、鉄道貨物は前年同月よりも減少するどころか8%増加した。ヤードを用いた全国各駅相互間の貨物輸送体系が維持されているため、貨物列車がトラックの代わりを担えたということである。中国の鉄道業界では旅客と貨物は同じ事業者が兼営しているため、結果的に内部補助が働いて鉄道経営への打撃が少々緩和されたようである。

中国では都市間交通と都市内交通が制度上区別されており、都市内交通のみの統計が提供されている。中国本土36大都市のデータを対象とした「中心都市旅客輸送量」統計が代表的で、それを見ると、都市鉄道・バス・タクシーのいずれも2020年2月は全国総計で約9割減であった(武漢市の数値は統計から除かれている)(単位:万人)。

20都市内交通

ただ、都市ごと・交通モードごとに見ると、COVID-19の影響は一様ではない。表中に挙げたチベット自治区拉薩(ラサ)、寧夏回族自治区銀川を代表格とする地方都市は、旅客数の減少幅が他の大都市に比べると小さい。また、タクシーの旅客数の減少幅は、上海・広州・深圳で前年同月比3割を保ったように、他交通手段に比べると小さい。交通需要が全体的に減る中で、大量輸送手段から個別輸送へのシフトが一定程度あったものとみられる。

武漢市以外でも厳しい外出制限を敷いた都市が多く、公共交通の運行停止が相次いだ。中国都市鉄道協会のまとめでは、地下鉄などの都市鉄道について、2月7日時点で全線運休8都市、一部路線・駅の休止12都市、減便を含むダイヤ調整28都市となり、平常運転を維持しているのはわずか3都市であった。

COVID-19感染拡大真っ最中だったころの中国の鉄道分野の対応については筆者の下記記事もご参照いただきたい。
新型肺炎、中国「鉄道の現場」はどうなっている? 払戻しきっぷ9000万枚で武漢出入り回避へ

続いて、3月以降の、ポストCOVID-19・経済活動再開段階の中国の公共交通の現状を紹介する。

消毒を含む対策の徹底

経済活動再開を受けて、中国の交通運輸部が3月1日、4月11日の2回にわたって「旅客ターミナルと交通器具の新型コロナウイルス流行状況別対策ガイドライン」を策定・公表しており、現状、中国国内の各交通機関はこれに従って感染症対策を行いながら運営しているところである。ガイドラインが対象とする交通機関は、鉄道・バス・タクシーだけでなく、シェアサイクルやレンタカーにも及んでいる。

高リスク地区・中リスク地区・低リスク地区の3レベルに階層分けして対策を定めているのが特徴で、各地のリスクに合わせて異なる対策がとれるよう、また、リスクの減少に合わせて段階的に対策を緩和できるように配慮されている。なお、執筆時点では武漢を含めてほとんどの地域が中リスク以下と判定されており、高リスク地区は数えるほどとなっている。

ガイドラインの主な内容は下記の通りである。

都市バス
車両の消毒回数がかなり多く設定してある印象を受けるが、中国の都市バスは一般に車庫から車庫へと運転するため、起終点でそうした作業をする設備と余裕があるという背景もある。また、低リスク地域でも旅客のマスク着用率100%と規定されているため、いま中国ではいかなる地域のバスでもマスクをしていなければ乗車できない。

30都市バス

都市鉄道
車内混雑度の指標が定められているが、これは日本の国土交通省の「乗車率」とほぼ同じ定義である。中リスク地域で車内混雑度=乗車率70%以下ということは、満員電車の出現は認められないということである。

40都市鉄道

タクシー
下記の他、旅客の了解を得て窓を開けることが推奨されている。

50タクシー

シェアサイクル
自転車の消毒に関する規定があるのは、事業者にとってハードな印象である。もっとも、現地では混雑した乗合交通機関への警戒感から、シェアサイクルの利用が再び増えている。

60シェアサイクル

感染症対策上の乗車ルールの追加

COVID-19と付き合いながらの経済活動再開であるので、公衆衛生上、公共交通の利用者サイドにも様々なルールが課せられている。

事実上、全国どの交通手段でもマスクの着用が義務付けられている。また、感染症対策の観点から、車内飲食の禁止も謳われている。

70鄭州

鄭州都市バスで乗り口に掲出された「マスク着用」「飲食禁止」をよびかける張り紙 中国交通運輸部サイトから

地下鉄などの都市鉄道の駅では、全駅で体温検査を行っている。主要駅ではサーモグラフィを導入して、旅客の流れを滞らせることなく検査ができるようになっている。中国で全駅体温検査ができるのは、都市鉄道がまだ発展途上にあり駅員を複数配置できる程度に(平常時の)利用が多い駅しかまだ存在しないこと、また平常時でも効率をある程度犠牲にして安全を優先する対応をしている(cf. 地下鉄駅の荷物検査)という考え方の違いがあるためだといえる。

80北京

北京地下鉄では主要85駅でサーモグラフィによる体温測定を実施。それ以外の駅では駅係員が手持ちの体温測定器で体温測定を実施。 北京日報2月19日付報道

乗車時に「健康コード」を提示する取り扱いも都市・乗り物によっては行われている。健康コードとは、スマートフォンと行政保有個人情報・COVID-19感染者リスト・濃厚接触者リスト等を連携することで、各個人の外出許容状況をスマートフォンアプリに表示するものである。

濃厚接触者の把握を容易にするための、乗車時の個人情報の登録も行われている。改札通過情報を個人と紐づけるために、ICカードや改札通過に用いるスマホ乗車アプリを実名認証する手段がとられている。

さらに、それだけでは取得できない「乗車列車・車両・位置」について利用者の協力を得て収集する体制が組まれている。下図は上海都市鉄道の例だが、車内に車両・車内位置固有コードを掲出し、乗車後・降車前にスマートフォンアプリでこれをスキャンさせて、乗車列車・号車・位置・乗降駅を登録している。登録は任意だが、強く慫慂されており、多くの旅客が協力している。中には登録者に抽選でマスクを与えることとして登録を勧奨している都市もある。

90上海

上海都市鉄道の窓に掲出された車両固有コード 澎湃2020年3月13日付報道

都市鉄道の混雑緩和

日本でも一部報道で外出抑制のための通勤鉄道の減便要請が取りざたされたことがあったが、目下、減便は長距離列車・優等列車にとどまっているようである。他方、中国の推移をみるに、厳しい外出抑制が解かれ、経済活動を再開させる段階では混雑緩和が重要な課題になるのではないかと予想される。

中国では経済活動再開後も公共交通機関の混雑による感染リスクが警戒されており、需要と供給の両面から混雑緩和が強力に推進されている。各都市の地下鉄で混雑緩和のための増発ダイヤを実施しており、この中で北京市では、地下鉄の乗車率を50%に抑えることを目標に各路線で最小運転間隔の短縮(増発)が取り組まれている。下表にあるように、執筆時点で、12路線についてコロナ対策増発ダイヤ改正が行われている。増発を実現する手段はさまざまで、需要の少ない路線から車両と要員を融通するほか、快速運転・一部駅の不停車による停車時間圧縮(「千鳥停車」)・途中駅折り返し設備をフル活用した区間列車の設定などである。増発後の各駅ダイヤはこちらから見られるが、いずれもラッシュ時の本数が極めて多く設定されており、中には1時間33本(複線片方向)に達するものもある。

100増発

北京地下鉄では随時、断面輸送量のデータを取得しており、旅客向けに公開しているほか、指令室でモニタリングして特発列車の対応や駅入構制限の発動などを行っている。

110北京混雑路線図

北京地下鉄リアルタイム混雑状況マップ ※路線図を開いた後、右上のボタンを押すと切り替わる

北京地下鉄では現在、乗車率が原則として50%以内になるように利用者数をコントロールしている結果、一部の利用の多い駅ではラッシュ時の入場制限が恒常化してしまっている。この行列・待ち時間軽減のために、スマートフォンを活用した駅入場予約制の試行が始まっている。

少なくとも現在の中国では、乗客は来た電車に随時無制限に乗れて、事業者は朝夕のラッシュを満員電車で捌くという典型的な都市鉄道の運営方式はまだ再開を許されていない状況である。都市鉄道のオープンな利用が深く定着している日本で利用制限策が導入されるとは想像しにくいが、COVID-19のリスクと隣り合わせの段階で経済活動を再開する際の一つの帰結として念頭には置いておくべきかと思われる。

バスの増発

現在、中国ではバス車内の乗客を COVID-19 高リスク地域では4人/㎡、同中リスク地域では6人/㎡にそれぞれ収めることが要請されているため、以前にもましてバスの増便が頻繁に実施されている
ちなみに、中国ではそもそも都市内バスの多くは動的な運行管理を実施しており、平常時からリアルタイムの車内混雑状況・道路混雑状況を把握して臨時便の設定、区間便の設定を行い、運行間隔や便ごとの混雑度のばらつきが一定範囲内に収まるように制御している(時刻表を守ることが運行管理である日本とは異なる)。このため、COVID-19後の増発要請にもスムーズに対応できているものと考えられる。

120重慶

各都市にあるバス指令センターのイメージ。ネットワーク上の混雑度をモニタリングし路線横断で動的に運行管理を行う。重慶市人民政府サイトより

また、データ配信の準備が整った都市については、中国の主要な地図アプリでバス便ごとのリアルタイム混雑度情報を表示している。

130混雑

結局乗客数はどうなっている?

都市によって経済活動の再開状況が異なるため一概に言えないが、都市交通の乗客数は4月時点でも全国的には前年同月比5割前後にとどまるようである。
3月の都市鉄道の利用者数データはすでにまとまっており、都市鉄道のある中国35都市(大陸部に限る)の合計利用者数は対前年同月比34%(66%減)にとどまった(中国都市鉄道協会)。

利用者数がまだ回復しない中、鉄道・バスともに混雑緩和のための増便対応が求められており、コストはかさむばかりである。もっとも、中国では都市内交通は採算事業ではなく公共サービスだと位置づけられているため、事業者の経営難に関する議論は少ない。公共交通の安定運行は経済活動再開の重要な前提条件であるため、むしろ公共交通のサービス回復・拡大のために財政支出を惜しまない姿勢が共通している。

短期集中的な外出制限によりCOVID-19の流行を基本的に抑え込んだ中国でも、外出制限解除後の移動需要の回復には時間がかかっている。それを踏まえると、日本でも緊急事態宣言の解除後かなりの期間にわたって利用が回復しないことが予想されるのではないだろうか。年単位のスパンで、公共交通システムを温存していく緊急方策が求められそうだ。また、中国のこの間の混雑緩和の高度な要請を見るに、COVID-19のリスクと隣り合わせの世界においては、高輸送効率=車内混雑に支えられた公共交通ビジネスモデルがそのままの形では存続を許されなくなるという展開も予想しておいた方がよいようだ。モータリゼーションが進展するという世界の同時代的背景の中で例外的に残ってきた、日本の独立採算制乗合輸送システムが今度こそ変革を迫られるのかもしれない。

最後に、公共交通の利用のトレンドの変化を見ていきたい。

乗合から特定へのシフト

バスには、不特定多数に開かれた一般乗合と、特定の人のみ乗れる特定の区分があるが、中国ではいま、乗合から特定輸送へのシフトが起こっている。混雑した乗合交通での通勤に不安を覚える労働者・雇用主が多いため、企業ごと・居住エリアごとの送迎バス運行のニーズが増大している。利用者が特定されていることから、一般の乗合交通よりも安心感を持たれているようだ。これを受け、旅客を失った各地のバス事業者が企業・地域送迎バスに参入している。
これらの送迎バスは、スマートフォンアプリを通して乗車証となるQRコードを旅客に発行することで乗車対象者を確認するなどしているが、このように中国では利用者を特定したサービスを導入しやすい環境があることも後押しになっている。

中国における送迎バスシステムは、古典的な企業送迎バスもあるが、近年発達しているのが居住エリアごとにニーズを集約して設定する、オーダーメイド型送迎バスである。その多くは着席保証で、比較的高級な車両を用いており、運賃は一般のバス・地下鉄を利用するよりも高い。日本でいえば鉄道の「通勤ライナー」をバス1台単位でオーダーメイドするようなものである。これがCOVID-19後にさらに盛り上がりを見せている。

150北京シャトルバス

151北京シャトルバス

北京市におけるオーダーメイド型送迎バス テンセントニュースから

オーダーメイド型送迎バスの設定の手順はこうである(北京市の例)。

・北京市営バスのサイトに送迎バスオーダーメイドのページがある。
・市民は、スマートフォンのWeChat(日本でいうLINE)で「送迎バスオーダー申請ミニプログラム」を立ち上げ、自分の居住地と通勤先、出勤時間帯を登録する。
・北京市営バスの送迎バスオーダーメイドシステムが、市民から寄せられた配車要望を自動的に分析し、運行経路と時刻の案を算出する。市営バスのスタッフが実際の道路状況と矛盾が無いかなどを人の目で審査する。
・送迎バス運行案が固まったら、想定利用者を集めたチャットグループを編成し、オンラインでミーティングを実施する。想定利用者から寄せられた意見をもとにさらに送迎バス運行案を修正する。
・確定した送迎バス運行プランに基づいてチケット(1回券/定期券)を発売し、一定数に達したら運行が決定する。以後1か月単位で配車が確定する。

北京市では、COVID-19後のオーダーメイド型送迎バスの需要の高まりを受けて、2月にシステムを増強し、同月中に2万人余りの市民および500余りの企業から配車要望を受け付け、2月25日の時点で44路線の送迎バスが新たに運行を開始し、合計路線数は173本に達しているほか、4月に至る足元でも毎週数本ずつ新規にオーダーメイド型送迎バスが運行を開始している。

オーダーメイド型送迎バスに関する考察
そもそも公共交通の本質とは、バラバラの移動需要を、個人的・社会的利益(安くて速い、とか)を誘因に集約して効率よく運ぶものなわけで、その集約方法として鉄道登場からこれまで約200年の間、路線図と時刻表を公表して、旅客に乗降地点に時間通りに集まってもらって運ぶという方法をとってきた(定時定路線)。ところが、スマートフォンの普及により、バス1台ぐらいの輸送単位(着席50人ぐらい)であれば、定時定路線という方法でなくても、スマホとコンピュータシステムによってデマンドを束ねて、通勤方向と時間の合う人50人を集めて1便仕立てられるようになったわけである。中国で近年急速に発達している「オーダーメイド型送迎バス」は、スマホ時代における通勤輸送の有力なモデルの一つだと考える。
一方、このオーダーメイド型送迎バスが日本で直ちに導入できるかというと、定時定路線を原則に据えた古典的な規制スタイルのために難しいように思われる。日本では、区域運行や路線不定期運行は(事実上)一市町村内に運行エリアが限られ、かつ、協議が整った場合にようやっと認められるものであり、定時定路線ができない場合の次善策という周縁的位置づけにとどまっている。COVID-19後の交通市場において、バスを特定の人たちでシェアするようなニーズの広がりに対して、事業者がそれに対応したサービスを提供できないとしたらその機会損失は無視できないものと考える。会員制バスなどの形をとってふたたび「高速ツアーバス」の二の轍を踏むのも極端な展開で現実的でないだろう。
なお、中国にも当然、バス輸送を規制する様々な法制度があるが、こうした新しい輸送システムを柔軟に導入できるのは、規制の切り分けが明確だからである。中国では、都市内交通は非競争領域で公益事業と位置付けられており、その許認可・運営は都市自らの仕事だと位置づけられている。国家レベルでの規制は最小限となっており、各都市は自らの裁量で新しいモビリティを導入できる。他方、都市間交通は競争領域で採算事業と位置付けらており、こちらは日本の道路運送法と同様に、国法による伝統的な規制政策がとられている。結果的に、都市間交通(バス)の分野ではイノベーションに乏しい面がある。ただし、それでも中国の都市間バスの参入審査は標準事務処理期間20日間と短く、ニーズに対してなるべく迅速にサービスが提供されるような仕組みとなっている。

より"非接触度"の高い改札手段へのシフト

中国ではここ数年のスマホアプリ決済(認証にQRコードを用いる)の急激な普及により、ICカードだけでなくQRコードに対応する都市鉄道・都市バスが増加していた(2020年時点では全国ほとんどの乗り物がQRコードに対応したと思われる)。ICカードよりも改札速度の遅いQRコードの「普及」は技術的退行にも見え、現地の交通専門家・交通事業者の評価も渋いものだったが、ことCOVID-19後にあってはその"非接触度"の高さがおおいに注目され、多くの市民がICカードをタッチするのではなくスマホを改札機・運賃箱にかざすようになっている。

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日本では、改札速度への懸念から都市交通へのQRコード決済の導入はほとんど検討されていないが、COVID-19後の旅客の嗜好について要注目だろう。

交通事業者への支援措置

3月末時点で、交通事業者の支援のために39の措置がとられている(交通運輸部の提供する支援措置リストによる)
中国における都市・地方の公共交通向けの主な優遇策は次の通り。

・トラック運転手・タクシー運転手向けの資金貸付、債務返済繰り延べ(他の運輸系職業と異なり歩合制で特に保護が必要なため)
・自動車保険の付保期間無償延長、ロケーションシステムのリース料減免
・法定定年年齢に達するまでの期間が短い職業運転者について、失業給付を法定定年年齢まで延長(中国では職業運転者について法定の一律定年制度がある。本施策は国の負担による定年退職前倒しに相当)
・交通事業者の光熱費・燃料費の支払い延期
・高速道路無料化(中国では高速道路通行車の少なくない部分がトラックなどの営業用車であるため、交通事業者への支援措置と捉えられている)

まとめ

本記事をまとめるにあたっては、筆者が平素から交流している中国都市鉄道協会の関係諸氏から多大な情報提供をいただいた。
COVID-19は人間社会にとってかなり厄介な性質を持つウイルスであり、東大の羽藤教授らは「COVID-19に高集積や高流動を否定されてる」(要旨)という指摘もされている。ポストCOVID-19の時代に、公共交通が元の姿のまま戻るかは予断を許さないと考えられる。

当然、中国と他の国々の間では社会体制が大きく異なっており、中国の経験がすなわち一般化できるとは限らない。中国のやり方は、プライバシーを切り縮めるかわりに、リスク群と非リスク群をクリアに切り分けることで、非リスク群に相当する人が街に出られるようにするものだといえるが、日本など「西側」ではこうした切り分けは十分にできないので、一様の外出自粛という手段への依存度がより大きくなるのではないだろうか。

とはいえ、予測の難しいポストCOVID-19期について、結果的にいま最前列を走っている中国の取り組みを参照することは一定の意義があるものと考えている。引き続き情報のアップデートに努めていく所存なので、注視いただけると幸いである。


以下、個人的ご案内
COVID-19で大変な時期ではありましたが、中国交通運輸部は独自のMaaS実行プログラム「地域交通運輸総合情報サービスプラットフォーム推進プラン」を3月末に策定しました。MaaSという言葉を一言も使わずに(あるいは使わないことで?)、スマホ時代の地域公共交通のあるべき姿を展望した注目すべきプランだと思っています。その紹介を折に触れて行いたいと思っていますので、引き続きフォローいただけるとうれしいです。

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