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季語六角成分図「狐火」

俳句ポスト 第256回 2020年12月10日週の兼題。

季語六角成分図「狐火」より。
(視覚)色→赤が主流だが黄色や青白、緑というところも。動き→一列に長く伸び、時には数kmという記録も。一個点いたら急に増えたり、急に全部消えたりする。場所→山道、野辺、川、森、墓地、城、神社、王子稲荷(王子の狐火は行事としては別季語)など。濃い闇夜。骨。
(嗅覚)獣の生臭さ。死体の臭い。
(聴覚)狐の鳴き声、行列のざわめき、太鼓などが考えられるが、基本的には無音か。
(触覚)近づくと消えるので触れないとも。もし触れたらどんな温度だろうという発想の組長の名句がありますね。生温いのか、氷のように冷たいのか。
(味覚)なし。(連想力)狐の神としての神聖さ(田の神、稲荷信仰など)と物の怪としての怪しさ(九尾の狐、化けた女など)。気味悪さ、畏怖、心細さ。妖怪、百鬼夜行。民俗、土着、地方名。

★冬の夜に現れるという怪しい火。狐の吐く息とも、狐が嫁入りするときの松明とも、科学的には光の屈折とも(なんとつまらない解釈!)。人に対しての働きかけは、人を追いかける、道に迷わせる、高熱を出させる、逆に道案内をしてくれる、瑞兆となる、など色んなパターンがあります。

★昔の冬の夜は明かりがない真の暗闇で、凍えるほど寒く、死に限りなく近い時間だったでしょう。その闇に浮かぶ不思議な火を狐が吐いていると考えた昔の方の心情は興味深いです。

★そもそもの狐と日本人の関係を紐解くと大変複雑で面白いです。狐は元々、稲を守る益獣として素朴な信仰の対象であり、後に稲荷信仰と結びつくなど神聖視される一方、中国文化の影響で人を化かすずる賢いあやかしという見方もあり、異類婚姻譚や狐憑きの話も多く、善と悪のイメージが渾然一体となっています。昔の日本人は、自然を含むムラという共同体の中で、狐の複雑な性質もあるがままに受け入れ共生していたようです。そこで暮らしていた人にとって、狐に化かされた話や狐火の目撃談はまぎれもない真実だったのでしょう。今の日本人が失ってしまった精神性です。

★2014年9月の兼題「不知火」の選評に狐火との比較考察があります。不知火が海の景色、潮の臭いを内包し青白い曇りを持っているのに対し、狐火は生き物としての気配、生温さや生臭さを感じるという主旨でした。であれば、「狐火」は上述のような狐と日本人との関わりを無視しては作れないのではないか。とても悩んでしまいました。

季語六角成分図に関する注意事項


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