「僕の改革 世界の改革」 第39夜(第6幕 16 ~ 20)

ー16ー

『無気力生物たちの街』は、以前と何も違っているようには見えなかった。人々は家に閉じこもり、外に出てこようとはしなかった。人々の心は荒廃し、完全に生きていく気力を失っているように思えた。
「これでは、やはり死んでいるのと同じではないか。生きていないのと同じではないか。消えてしまっても仕方がないかも知れない…」
僕は、そうポツリとつぶやいた。

でも、それから『死にゆく詩人』とそれを支えていたあの女性のコトを思い出した。
「そうじゃない。そうじゃないんだ。この世界に信じてくれる人がいる限り、消えてしまってなどいけない!死んでしまってなどいけない!生きていくんだ。何がどうあろうとも!!」

では、信じてくれる人が居なくなってしまったら?詩人を失って生きる希望をなくしたあの女性のように…

あるいは、そんな者最初から存在しなかったとしたら?
だったら、消えてしまっても構わないのだろうか?死んでしまっても構わないのだろうか?『白き夢』たちの言うように…

僕には答えは出せなかった。少なくとも、今の僕には…


ー17ー

人々は家の中に閉じこもり、出てこようとはしなかった。まだ昼間だというのに、まるでゴーストタウンだ。

「もう、みんないなくなってしまったのだろうか?もしかして、みんな消えてしまったのか?」
そう思って、いくつかの家をのぞいてみると、人がいる気配はある。ただ単に外に出て来るのが面倒なだけらしい。もはや、そこまでの気力もないとは…

僕は何をしに、この街に戻ってきたのだろうか?
革命の日々に疲れて逃げ出したかったからか?あるいは心のどこかでいまだに『彼女』の思い出を追い掛け続けていて、そのカケラとでも言うべきものを求めてやって来たのだろうか?

あのまま新しい国王として君臨し続けていた方がよかったのだろうか?革命は終了した。僕にとってそれは虚しい革命に過ぎなかったけれど、それでも世界の人々にとっては大きな革命であったはずだ。

ここまで来て、なんの収穫もないとは…
僕は、この街に来たことを後悔し始めていた。


ー18ー

その夜…
「今夜も野宿でもするか」と寝場所を探していた僕の目の前で、予想を遥かに越えるような出来事が起きた。

夕暮れも深まり、太陽も完全に沈もうかという時間…
ポツリポツリと家から人が出てきたのだ。

夜がふけると、さらに大勢の人々が家からはい出てきた。
ワラワラ…ワラワラと…

そして、各自好きな場所に陣取り、空を眺め始めた。
時にポツリポツリと独り言をつぶやきながら…
時々、それは会話になった。

僕は、思い切って彼らの仲間に入ることにした。
適当な場所をみつけて、ゆっくりと腰を降ろし、同じよう真っ暗な天空を仰ぎ、星を眺めた。
すると、不思議なコトに、自然と心がなごんできた。

しだいに、皆の独り言が激しくなっていく。そして、人々は口々につぶやいた。
「天使が…天使が降りてくるんだ」
ボンヤリと空を眺めていた僕の目にも『それ』はハッキリと映った。
そう!それはまさに『天使』だった。


ー19ー

天使は夜空で踊っていた。きらめく星空をバックに可愛らしく舞い続けた。
人々は恍惚とした表情でそれを眺めている。

「どうじゃ?立派なモノじゃろう」
振り返ると、そこにはシノザキ博士が立っていた。そういえば、忘れていた。この街には博士が住んでいると。
「ワシが開発したんじゃ」
「アレをですか?」
「そうアレをじゃ。いろいろと用意したのじゃが、特に火曜日と水曜日が人気でのう」
「火曜日と水曜日?」
「そう。火曜日と水曜日。曜日によって映像を変えておるのじゃが、日によって人気なモノと不人気なモノに別れておってのう」
「フム」
「ここの人々は夜行性でのう。それで、夜に放つ映像を用意したのじゃ」
「うまく…いってるみたいですね」
「ああ、大変うまくいっておるよ。とりあえず、皆、家から出てくるようにはなったわい」

「ここには、まだ希望がある。世間の人々から見ればくだらないつまらない現象に過ぎないかも知れない。それでも、僕にはわかった。ここには希望がある!」と。

これが、ここの人達にとっての希望なのだ。それが何であれ、彼らが生きていくために必要なのは希望だった。それがここにはある。誰にも為せなかったコトがここでは起きている。ならば、それでいいのではないか?たとえ、それが幻想であったとしても…


ー20ー

火曜日には天使が、水曜日には女神が降りて来た。
火曜日と水曜日ほどではないけれど、他の曜日も夜になると人々は集まり空を見上げた。

ある日、僕は彼らに質問してみた。
「どうして、君らは外に働きに行かないんだい?」
そうしたら、口々にこんな答えが返ってきた。
「なんで?」「別に必要ないもの」「疲れたんだよ」「働かないことはいけないことなの?」
僕は、こう意見してみる。
「働くことは大切だよ。せっかく生まれてきたんだもの、一生懸命働いて生きていかないと」
すると、また口々に答えが返ってくる。
「本当に?本当に?本当に?」「じゃあ、お兄ちゃんが証明してみせてよ」「一生懸命働くなんて言ってるけど、何も考えずにただ動き続けてるだけじゃないか」「まるで、操り人形のようのように」

僕はとっさに尋ね返す。
「操り人形?」
一斉に答えが返ってくる。
「そうさ。操り人形さ」「ただ、誰かの命令に従って動き続ける操り人形」「みんなは、僕らのコトを『無気力生物』だなんて言うけど…本当は、彼らの方が人形なのさ」「私たちはただ平和に自由に暮していたいだけなの」
それ以上、僕は何も言えなかった。

人々は口々に、まだ何かを喋り続けていた。それらの言葉を頭の中で繰り返し、僕は考えた。

「彼らは立派な人間だ。ただ、ちょっとばかり世間のやり方に対応できなかっただけ。時代の流れに乗れなかっただけなのだ。本当は、誰よりも平和を望み、争いごとを嫌っているだけなのに…」

ここに来て、ようやく『彼女』がやりたかったコトを理解できてきたような気がした。
『並木さやか』として、彼女がやってきたコトやりたかったコトがなんなのかを…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。