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戦闘兵器としての覚醒

偶然とはいえ、一番最初に「防御を覚えた」のは、少年の能力形成において幸いしました。

もしも、最初に覚えたのが「攻撃」であれば、敵を圧倒するのが便利過ぎて防御を使う必要が生じなかったでしょうし、最初に覚えたのが「回避」であれば、避けることにかまけて防ぐ方がおろそかになっていたことでしょう。

この点においては「運がよかった」としか言いようがありません。仮に戦闘の師匠とかトレーナーのような人がいたとすれば、絶対にこのような教え方はしなかったはずだからです。「命を賭して、ズタズタのボロボロになりながら防御のみを極めていく」などというやり方は!

世界には様々な能力者や戦闘能力を持った者たちがいます。一般人レベルであれば、攻撃や回避のみを極めた戦い方でも充分通用するでしょう。けれども、達人に出会った時にはそうはいきません。

達人・仙人・神レベルの能力者。こういった者たちは、皆、「攻撃」「防御」「回避」とまんべんなく習得しており、それに加えてさらに特殊な能力を有していたりするもの。

もしも少年が攻撃や回避に特化した成長の仕方をしていれば、どうなっていたか?

攻撃力しか上げていなければ、「攻撃を全て受け流し、的確に弱点を突いてくる敵」にやられていたでしょう。逆に回避能力を極めるだけだと、「誘導弾のごとき技を使って、回避できないダメージを与えてくる者」によって、ほんのちょっとしたダメージを与えられるだけで撃墜されていたはず。

戦闘者としては、10代の内に防御を上げておいて正解だったのです。

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常人をはるかに上回る防御力を身につけたあと、少年はようやく反撃することを覚えます。

最初はただの偶然でした。ひたすらに防御に徹しているボクサーが、たまたま前に出した拳で敵の顔面にクリーンヒットしたようなもの。その瞬間、敵の動きが止まります。

「そうか。攻撃していいんだ。父親だろうが母親だろうが関係ない。だって、目の前に立っているのは敵なのだもの。この人生を阻もうとする巨大な岩のようなもの。岩はどけて進まないと、道は通れない。『世界最高の作家になる』という道は…」

生まれてきた時からずっと、長い長い時の間にかけられ続けてきた呪いが解けかけた瞬間でした。両親がかけた「子供は決して親に逆らってはならぬ」という洗脳という名の鎖は、この時から外れ始めたのです。

人はそれを「反抗期」と呼びます。でも、この家庭においてその言葉は生ぬるすぎます。手元の辞書から最も適切な単語を抜き出すなら…

「報復行為」といったところでしょうか?

大国によるミサイル攻撃に耐え続けた弱小国家が、今、反撃を開始したのです!

歴史上、最も近い出来事をあげるなら「ベトナム戦争」でしょうか?ただし、少年が用いたのはゲリラ戦などではありません。相手に匹敵するかそれ以上の武器や攻撃兵器を身につけていくことになります。

母親が平然と使っていた「禁呪」の数々さえも!


コツをつかめば簡単でした。これまで防御に徹していたのがバカバカしいくらい攻撃するのは容易なのです。

たとえば、インターネット上にもよくいますよね?人を攻撃するのは得意でも、自分がちょっと攻撃されただけでズタズタに傷ついてしまう人が。それと同じです。「攻撃は簡単」だけど「防御は難しい」のです。敵の攻撃を防ぐには熟練の技が必要なのです。

…というわけで、少年は瞬く間に攻撃力を上げていきます。まるでゲームでもプレイしているかのごとく、次から次へと人の心を傷つける技の数々を習得していったのでした。

そう!ゲーム!

ここでもまた「マスター・オブ・ザ・ゲーム」の能力が発動します。条件を満たした能力習得用の特殊能力は、無限の想像力を使って、ありとあらゆる攻撃技を少年に身につけさせていくのでした。

なんと!少年は戦闘の天才だったのです!

あるいは、それは生まれ持った才能などではなく、11歳の秋から戦場に放り出されたことに起因する後天的才能だったのかもしれません。いずれにせよ、彼は戦闘に関してズバ抜けたセンスを持ち合わせていました。

「人が嫌がる言葉や行為がどういうものか?」を直感的に知っていました。表面上平気なフリをしていても全くの無駄です。彼は、大人の心を微細な表情から見抜く術すらも身につけてしまっていたのですから!

人には誰しも「弱点」というものが存在します。その人が心の底に隠してある一番大事な部分。「夢」や「信条」といったもの。それらを的確に見つけ出し、攻撃してやれば、敵は確実に大ダメージを受けます。これもまた、少年がかつてやられ続けきたことでした。

そうして、攻撃が決まっている間は敵の攻撃が止むのです。もっとも、それで相手の心を破壊できなかった場合、その後はさらに激しい攻撃が飛んでくることになりますけどね。

もちろん、少年の方も負けてはいません。さらにさらに激しい反撃で応戦します。

こうして、この家族は、近所でも有名な親子ゲンカをする家庭として名を知らしめていくこととなります。なにしろ、朝から晩まで顔を突き合わせるたびにやりあっているのです。それも、町内中に響き渡るような大声で。

両親にとっては頭の痛いことだったでしょう。なにしろ「世間体」というヤツを何より大事にしてこれまでの人生を生きてきたわけですから。

でも、少年は平気でした。むしろ、望むところでした。愉快ですらありました。これまで闇の中、たったひとりで戦い続け、孤独しか感じていなかったのに、戦っている瞬間だけは「生きている!」という実感が湧いてくるのです!


少年は戦闘をゲーム化し、急激な成長を遂げます。なにしろ「戦うタイプのゲーム」は得意中の得意なのです。RPGや戦争シミュレーションなど、数多くプレイし、クリアしてきたのですから。

そうして、ただでさえ桁外れの防御力(推定防御力5000以上)を持ち合わせていたのに、それをはるかに上回る攻撃力を身につけてしまいます。数値で表すなら最低でも1~2万。おそらくは、数万程度の攻撃力だったでしょう。

これにより、少年を攻撃する者は母親以外誰もいなくなります。家族も親戚も近所の人たちも友人も学校の先生も、誰も彼には勝てなくなってしまいました(もっとも、最初から攻撃してくる者の数など限られていましたけどね)

最大の敵である母親の攻撃さえ、コンマ数秒で即反撃できるようになりました。


ゲームの世界にラスボスというのが存在します。

アレはゲームクリエイターが設定し、プログラマーがプログラムしただけの単なる空想上のキャラクターだと思ってません?

でも、存在しているのです。この世界には、ラスボス並みの攻撃力と防御力を持った人間という者が。あるいは、それはもはや人間ではないかもしれませんが…

それでも、この頃は、まだ戦闘用の特殊能力をほとんど覚えていませんでした。ただ、攻撃力と防御力のみ化け物レベルに上がったに過ぎません。後年手に入れることになる便利な能力の数々は、まだほとんど1つも身につけていませんでした。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。