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「僕の改革 世界の改革」 第25夜(第4幕 8 ~ 13)

ー8ー

「そういうわけで、シノザキ博士の居場所を教えてはいただけないでしょうか?博士を紹介してくれた『やる気じいさん』なら、居場所を知っているんじゃないかと思って…」と、僕はやる気じいさんに頼む。

「フム…確かにな。あやつの居場所は知っておる。ただ…」
「ただ、なんですか?」
「ただ1つ、謝らなければならないコトがある」
「謝らなければいけないコト?」
「そう。隠していたコトと言った方がいいか…」
「隠していたコト?なんですか、それは」
「実は、あやつはワシの弟なんじゃよ」
「おとうと…さんですか?」
「そうじゃ」
「ああ!だから、どことなく雰囲気が似てたんだ」と、僕は合点がいく。
「そうかのう。似ておるかのう」
「ええ!ええ!似ていますよ」
「そうか…似ておるか。実は、ワシも昔は人の心を司る学問を学んでおったものじゃ」
「人の心?心理学ですか?」
「今で言うと、そういうコトになるなぁ。あの研究も、弟と2人で進めておったんじゃ」
「それが、どうしてこんな所で化石掘りなんて?」
「疲れたんじゃんろうな。人の心に触れ続けるコトに」
「そうですか…なんとなくわかる気がします」
「お前さんも、そういう人間かもしれんのう」
「え!?」
「最後はワシと同じかも知れん。誰からも離れ、ひとり黙々と意味のない作業を続ける…」
「そんな!意味がないだなんて…やる気じいさんのやっているコトは大ありですよ。意味!だって、自分でそう信じているんでしょう?」
「まあな…自分では信じておるが。おっと、弟の居場所じゃったな」
そうして、僕は、やる気じいさんにシノザキ博士の居場所を教えてもらった。


ー9ー

僕は、やる気じいさんにお礼を言って山を降りる。
教えてもらったシノザキ博士の居場所というのは、なんと『無気力生物の街』だった。
無気力について研究している人だ。確かに、無気力な人々の集まっている場所に居てもなんの不思議はない。

それにしても、あそこを訪れるのは何ヶ月ぶりだろうか…
そういえば、『彼女』は、まだあそこに居るのだろうか?

『僕』と『彼女』と『リン』と『シノザキ博士』と…何か共通するモノがあるような気がしたが、それがなんであるかまではハッキリとは思いつかなかった。
ボンヤリと…ほんとうにボンヤリとではあるが、何か思い出せそうな感じがした。
遠い遠い世界での別の出来事。別の関係…

「僕は、本当はこの世界の人間ではないのかも知れない」
そんな考えさえ浮かんできた。
でも、今の僕には、それ以上のコトは何もわかりはしなかった。


ー10ー

電車やバスを乗り継いで、無気力生物の街まで最も近い場所までは、なんとか辿り着くことができた。

しかし、ここから先、街までの全ての交通機関は完全にストップしていた。政府の方針で、そう決まったからだ。仕方がないので、僕は歩いて行くことにした。

この大不況時代にムダなコトに使うお金など、どこにもないのだ。ただ、経済と同時に『人々の心』まですさんでしまったような感じも受けた。


ー11ー

街までもう少しという森の中…
突然、雨が降り始めた。

寒いな…
えらく、寒い。
雨のせいだろうか?
それとも、もう秋だからだろうか?

遠くの方に、建物の姿らしきものが見えた。
走って近づくと、それは小屋だった。
そして、僕はその小屋に飛び込んだ。


ー12ー

小屋の中は、外の空気と変わらない温度だった。ただ、雨がしのげるだけマシといったところか。

小屋には窓もなく、壁の隙間から入り込むうっすらとした光だけが、部屋の中に射し込んできていた。

やがて、目が慣れると、部屋の中の様子がわかるようになってきた。
部屋には、1人の青年が毛布に包まって、ボ~ッと天井を眺めていた。
青年というにはえらく痩せこけていて、今にも死んでしまうんじゃないかというような儚さを感じるのだったが。


ー13ー

青年は生気のない声でこう呟いた。
「私は、無気力を形にするんですよ」
「無気力を…形にする?」と、僕は問い返す。
「そうさ。気力を失わせ、失わせ…そして、ほんのちょっとだけやる気を出す。その分、心の中では、より無気力になっていく。だが、そんなもの今さらさ。ものすごく無気力になって、ちょっとだけやる気を出して、そのちょっとだけ出したやる気で、詩を唄うのさ」
「詩?」
「そうさ、詩だよ。たとえば、こんな風にね…」
そう言って、彼は唄い始めた。

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