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「僕の改革 世界の改革」 第9夜(第2幕 プロローグ ~ 6)

~第2幕~

ープロローグー

僕は旅に出た。
ある日、突然姿を消した『彼女』を探して。
そこで、僕はおかしな軍隊に入り、リンと出会った。

リンが言うには、僕は『世界を変えることのできる者』なのだそうだ。
でも、僕はどこか変わっただろうか?何かを変えただろうか?
わからない…少なくとも、僕には全然わからなかった。


ー1ー

僕は、はたと困ってしまった。ここから先どうすればいいのだろう?どこへ行き、何をすればいいのだろうか?わからない…
わからないままに僕はリンに相談した。
「そんなの簡単よ」
「どうすればいい?」
「自分の好きにすればいいのよ」
「自分の好きに?」
「そうよ。あなたは隊長から見放された。逆を言えば、それは隊長に認められたってことでしょう?だから、自由にすればいいのよ」
「そんなこと、急に言われても…」
「じゃあ、『彼女』を探しに行けば?あなた、そうしたいって言ってたじゃない」
「それは、もういいんだよ」
「諦めたの?」
「そんなコトない!そんなコトないさ!!ただ…」
「ただ?」
「彼女は、こんな僕に嫌気が差して去っていったんだろ。だったら、もっと成長してからでないと会ってくれないような気がするんだ」
「なるほどね」
「それに、このまま一生懸命生きていたら、何もしなくても自然に会えるんじゃないかって…そんな気もしてる」
「自然に?」
「そう、自然に。何か運命のようなものに引かれて」
「あらあら、なかなかのロマンティストなのね」
「そうじゃない…そうじゃないけど、なんとなくそう思うんだよ」
「じゃあ、どうするの?これから」
「それがわからないから、君に相談してるんじゃないか」
「そうよね。でも、やっぱり、それはあなた自身が決めるべきだと私は思うわ。だって、これはあなたの人生なんだもの」


ー2ー

結局、僕らは街を出た。
無気力生物の侵攻はなんとかして止めたかったが、今の僕らにはどうしようもなかった。
「遠くの街に私たちの本部があるわ。そこに行ってみる?」
「本部か…それも、いいかも知れないな」
それ以上の案も思い浮かばなかったので、僕はリンの意見に従った。
リンは自分で決めろと言っていたけれど、今の僕には何をすればいいのか全くわからなかった。

それから、僕らはいくつもの街を渡り歩き、旅を楽しみながら進んで行った。


ー3ー

ある街に寄った時のこと。
僕は本屋に入って、1冊の本を手に取った。
『自己改革のすすめ』という題名だった。
「僕も革命家になるんだからね。このくらいのモノは読まなくちゃ」
でも、リンは冷たく言い放った。
「あなたは、そんな勘違いしたようなモノ読まなくていいのよ。そんなコトしなくても、来るべき時が来たら自分を変える時が来る。それよりも、あなたはもっと自然でいた方がいい。そして、自分自身のありのままの姿を見つめ、受け入れるコトね」
そんなもモノなのだろうか?


ー4ー

アイスクリーム屋さんの前を通った時、リンが言った。
「アッ!!あれ食べた~い!」
リンは大きなアイスクリームを1人でパクつく。
「そんなに食べて大丈夫?」
「ん!?何が?」
「いや…普通の女の人だったら、太るのは困るとかなんとか気にするんじゃないかな…って」
「運動すればいいんじゃないの?」
「そ…そうだよね」
「でしょ?」
そう言って、リンは平気で食べ続ける。
『彼女』だったら、こんなコトはとてもできないだろう。
よく考えると、僕は彼女以外の女の人を全然知らなかった。


ー5ー

ある時、僕とリンはカジノに入った。
僕は1度大きく当ててから、あとは地道にコインを増やしていった。
コインは1000枚を越えたり越えなかったりで、その日は終わりを告げた。
リンはというと…
「コイン?なくなっちゃったわよ、そんなモノ。とっくの昔に」
そう言って、他の人がやっているスロットマシーンをおもしろそうに眺めている。

なんだか、このリンという女性は仕事の時とは別の人のようだ。任務を遂行している時のリンは、マジメ腐って、あまり笑顔を見せないような人だった。
なのに、今はとても自由な人なのだなということがよくわかる。まるで、「自分には残された時間がないから、せめて生きている時間だけでも精一杯生きよう!」としているかのように。もっとも、本人はあまり自覚していないようだけど…


ー6ー

人々はコンビニでレジの前に列を成し、きれいに並んで立っている。
「私ね、こういうのあんまり好きじゃないんだ…」
リンが、ポツリと呟く。
「どうして?」
「昔、子供の頃読んだマンガにね、これと同じようなシーンが描かれてたの」
「コンビニに並ぶシーンが?」
「う~ん…ちょっと違うんだけど。みんながね、給食を待って並んでるの」
「給食?」
「そう。政府が無料で配るシステムで、大人も子供もみ~んな無料で給食が食べられるの。それでね…列の先頭にはおかしな機械が置いてあって、そこから食べ物がムニュムニュって出てくるの。ドロッとした物体が。それが食事」
「ああ。なんか見たことあるな、それに似たシーン」
「でしょ?私には、あそこに並んでいる人たちがそんな風に見えるの」

リンが、またおかしなことを言っているな、と思ったけれど…なんとなく言いたいコトがわかるような気もする。

もしかしたら、人々が無気力化していく原因は、意外とこういう所にあるのかも知れない。
誰もが与えられた生活を享受し、その人生になんの疑問も抱かず、ただ淡々とした時間を過ごし続ける。その先にあるのは、無気力な人生なのではないだろうか?

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。