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青空のようなノート(ブルーノート)

「中途半端な関係はもう嫌だから、自分と浜田君、どちらか選んで!」とあの人に電話で告げた前後。

その前だったのか、その後だったのか、よく覚えていないのですが…青年は、あの人の通っている大学に遊びに行くことになりました。

「小説の舞台に使いたいので、案内して欲しい」と青年が頼んだからです。


目白駅で待ち合わせをして、徒歩で大学に向かいます。彼女の家庭は決して大金持ちというわけではありませんでしたが、その大学は皇族も通うような学校でした。

学校の入り口にはイチョウの大木が立っていて、みんな通りやすそうな広い空間を避けて、狭い方の道をちょこまかと移動しています。

「この木の横の広い道を通ると、学校を中退すると言われてるんです。だから、みんなわざわざこっちの狭い方を通るんですよ」と、あの人が説明してくれました。もちろん狭い方の道を進みながら。

でも、青年は部外者なので関係ありません。そもそも高校も途中で辞めてしまっていたので、今さらのお話です。青年は世間から外れた生き方をしていましたが、こういう時には無敵なのです。

なので、堂々と広い方の空間を歩いて進みました。

「ほ~ら!大丈夫だよ!心配しないで、こっちにおいで~」と青年は誘いましたが、彼女は驚いた顔をしてその場に立ち尽くすばかり。


それから、図書館など一通り大学の構内を案内してもらいました。馬屋を発見したので、青年が喜び勇んで駆け寄っていくと、あの人は怖がって近づいてきません。馬屋の周りはウンコだらけだったからです。どうやら、この大学には乗馬部というのがあって、学校の敷地内で馬を飼ってたんですね~

大学の見学が終わると、ふたりは校内の売店でアイスクリーンというの買って、仲良く並んで食べました。でも、あの人は「ああ~あ、私こんなのよりもソフトクリームの方が食べたかったのに~」と言っていました。

青年はソフトクリームよりも、こっちの方が食べたかったのです。こういうコトがよくありました。ふたりは根本的な部分でよく似ていて、ボランティアのスタッフや子供たちからは「お似合いだな~」みたいに思われていたのに、細かい趣味はよく食い違っていたのです。

「そろそろ帰ろうか~」みたいな雰囲気になって来た時、あの人が「カバンに何が入ってるの?」と尋ねてきました。

カバンの中には携帯型のオセロが入っていました。「世界を変える戦い」の日々によくふたりでオセロをやっていたからです。歩くたびにその音がカチャカチャと鳴っていたのでした。

「オセロやるかな~?と思って」と言って、カバンからオセロセットを取り出そうかと思いました。でも、実際に青年が取り出したのは全然別のモノでした。

「はい、これプレゼント♪ちょうど誕生日でしょ?」

そう言って、青年はきれいな包装紙に包まれた誕生日プレゼントをあの人に渡しました。もちろん、超驚いています!オセロが出てくると思ったら、自分への贈り物だったのですから!

「え?これ、私に?ここで開けてもいいですか?」ときかれたので、青年はちょっと迷ってから「いいよ~!」と答えました。

中からは、その日の青空のような1冊の青いノートが出てきました。表紙がハードカバーみたいになってて、高級感のあるしっかりとした作りのノートです。

「これに、日々思ってるコトを書き留めておいてよ。ボランティアに行った時の感想とか、その日に何があって何を考えたとか」

彼女は非常に忘れっぽいところがあり、目の前ばかりを見ていて、自分のほんとうの気持ちがわからなくなってしまう性格でした。文字に書き留めておけば、自分と浜田君を混同するようなことはなくなると思ったのです。

「どうもありがとうございます♪大切にしますね~」

そう言って、あの人はとても喜んでくれました。


そんなコトがありつつ、ついに運命の日がやって来ます。

ふたりの人生を決定づけた運命の日が…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。