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鼓動、胎動、呼吸

さて、ここから先は少年の記憶が曖昧なので、実際に起こったコトとは順番が前後するかもしれません。ご容赦ください。

少年は記憶の混濁を起こすほど、精神的に追い詰められていました。ただし、どれも現実に(あるいは少年の想像上)起こったコトばかり。どれが先でどれが後かという順番など、どうでもいいとも言えるのです。


少年は学校にも行かず、ひたすらゲームをして、合間に本を読んだりテレビを見たりして暮らす日々が続きました。

お昼のワイドショーはすぐに飽きてしまいました。内容があまりにも陳腐だったからです。

ただし、メインの司会者の語り口は別でした。「どうでもいい内容をさも『もっともらしく、おもしろおかしく』語ってみせる」のです。このトークスキルに少年は感心しました。感動を覚えたと言っても過言ではありません。

「この能力欲しいな」と思いました。そして、将来、部分的にではあれども似たような能力を身につけることになります(この能力は、いずれインターネットラジオなどをやる時に役に立ちますが、それはまた別のお話)

この時の少年は気づいていませんでしたが、身近にこれと同じような能力の持ち主が存在していました。内容はムチャクチャなのに、絶対的な自信を持ち、その語り口で相手を説得してしまう能力の持ち主が。

そう!誰あろう!あの母親です!


少年はテレビからいろんな知識や考え方を学んでいきます。

「世界は広いな」と思いました。同時に「あの学校は狭かったな」ということも知りました。テレビから流れてくる情報は、どれも学校では教えてくれなかったコトばかり。「一生懸命勉強をして、受験して、一流の大学に合格し、一流の企業に就職する」それとは全く別の視点を持った人々が大勢登場するのです。

お昼のワイドショーには飽きてしまいましたが、教育テレビの方は好んで見続けました。小学生や幼稚園児向けの内容も多かったのですが、中学生向けに化学や物理の授業を模した番組もよく放送されていました。

「これは、学校の授業よりもおもしろいな」と少年は思いました。「こういう授業だったら、受けてもいいな。なにか楽しく勉強できる工夫がされていて、家に居ながらにして学べるのであれば」とも考えました。

後に世界は凶悪なウイルスに襲われて、学校の授業がオンラインで行われるようになるのですが…

もしも、この時、同じ環境下に置かれていれば、少年は即座にその環境に適応していたことでしょう。その後は、全く別の人生を歩んでいたかもしれません。

でも、それはもっとずっと先の時代の出来事です。残念ながら(?)この時代にウイルスは襲ってきませんでしたし、オンライン授業の体制も整ってはいませんでした。

…というわけで、少年は相変わらず家に引きこもったままテレビを見たりゲームをして暮らし続けました。

でも、それはただ遊んでいたというだけではありません。それらの「教材」から着実に何かを学び、能力を身につけ、成長を続けていたのです。それも急激なスピードで!

明らかに学校に通っている時よりも充実していました。それはそうです。だって、少年は「自分の好きなコト」に没頭していたのですから!

ここまで読んできたみなさんなら、その意味はもうわかりますよね?

「自分が好きなコト」「興味の対象」「ゲーム」

これらは、少年の持つ特殊能力「好きこそ物の上手なれ(マスター・オブ・ザ・ゲーム)」が最も得意とするものばかり!完璧に条件がそろった今、その能力は最大限効果を発揮していたのです!


そうとは知らない母親は、相も変わらず自分の息子を攻撃し続けます。

      そう!攻撃!

これは「攻撃」以外の何物でもありません。元々は「愛する息子の為」と思ってのことだったのでしょう。母親が口ぐせのように放っていた「今、苦労しておけば、将来必ず楽になる」という言葉も、心の底から発していたはず。一番最初は…

でも、いつしかそれらの言葉は形骸化し、儀式化し、本来の意味を失った単なる言葉の羅列、呪いの呪文と化していきました。

目的を失った言葉は暴走を始めます。

それは「子供の成長」などとは程遠い「ただ人を傷つけるだけの言葉」となり下がります。そうとは気づかない母親は、ひたすらに!ただひたすらに同じ呪文を唱え続けるのです。「この言葉で息子は良くなる。元の人生に戻れる!脱線した列車が正常なルートへと続くレールに再び戻ってくるように!」と。

残念ながら、そうはなりませんでした。母親の目論見とは逆に、この時の少年はあらぬ方向へと進み続けます。心の中に生まれた最凶な化け物は、心臓を鼓動させ、肉体は胎動を開始し、呼吸を始めつつありました。

化け物はやがて、少年の頭の中にイメージとして具現化することとなります。独自の世界を伴って…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。