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「9で割れ!!昭和銀行田園支店」(矢口高雄)

今回は、マンガの紹介です。タイトルは「9で割れ!!」

作者は矢口高雄さん。

これ、どういうマンガかというとですね…
「銀行」のマンガなんです。いや、銀行のマンガだと思って読み始めたんです。けど、実はそれだけじゃなかったっていう。

まず、タイトルにもなってる「9で割れ!!」というのが銀行用語。銀行では、1日の終わりに帳簿を確認するんですけど。そこで1円でも過不足が生じたら、全員が駆り出されて、計算のし直し!
その時に、最初に行われるのが「9で割って計算する」っていう計算方式。これによって、ミスを発見しやすくなるんですね~

…というわけで、舞台になってるのは銀行。

なのですが、作者の矢口高雄さん。ご存じの方も多いかと思いますが、「釣りキチ三平」など、釣りや田舎生活のマンガを描いているマンガ家さんでもあります。なので、同時に「釣りのマンガ」にもなってるんです。

さらに、矢口高雄さんがマンガ家としてデビューするまでの人生を描いた作品にもなっています。いわば「まんが道」みたいなもの。

「銀行」「釣り」「マンガ家を目指す」という、主にこの3つの要素で成り立っています。


たとえば、昔は銀行に「宿直」っていうのがあったんです。泥棒が入らないように見張るため、働いている人が銀行に泊まり込んでたんですね(現代からすると、ちょっと信じられないような話なんですけど…)
そこに、銀行強盗がやって来て、銀行員が殺されちゃったり。

あと、偽札が出回った時に、目を皿のようにして偽札を探す話とか(昔、日本では「チ-37号事件」っていう有名な偽札事件が起きて、偽札を発見した人には報奨金が支払われてたんですね)


マンガ家としておもしろいエピソードとしては、なんといっても、矢口高雄さんがデビューする前に、東京に持ち込みに行った話ですね。

当時、「ガロ」っていうマンガ雑誌があって、ここに白土三平さんの「カムイ伝」っていうマンガが載ってたんです。
それを読んで、いたく感動した矢口高雄さん、自分でも同じようなマンガを描いてみたくなって、ひさびさにマンガ制作にチャレンジします。
で、散々、絵の練習をして、渾身の作として短編マンガを1作完成させます!

その原稿を「ガロ」の編集部に送って、賞に応募したわけですよ。ところが、あえなく落選…

そこで「なんで、この作品が落選したんだ!?」と問い詰めるために、数日だけ上京することに決めます。

そして、上手い具合にガロの編集部に行って、編集長に話を聞くことに成功しました。そこで耳にした衝撃の事実!

なんと、「君は絵がヘタだから落とされた!」って言うんです!

矢口高雄さん、「ええ~!?」と思って。白土三平さんを必死に研究して、絵だけは絶対の自信があったんです。なのに、その絵を「ヘタ」だと宣告されてしまう。

もうね。ショックでショックで、立ち直れなくなっちゃうんです。

でも、ガロの編集長もやさしい人で「せっかく、秋田からわざわざ東京にまで出てきたんだから、プロのマンガ家の先生に会わせてあげよう」と言ってくれるんです。

「白土先生は人間嫌いで有名で、さすがに会うのは無理だから、代わりの先生を紹介してあげる」と。で、その先生もウルトラ忙しい人だったんだけど、どうにか「1時間だけなら」と約束を取りつけてくれる。

で、会いに行ったのが水木さんですね。「ゲゲゲの鬼太郎」とか描いてる水木しげるさん!


翌日、矢口高雄さんが水木さんのスタジオまで会いに行き、忙しい合間を縫って原稿を見てもらったら、なんて言われたと思います?

なんと…

「君は絵が上手いね!」って言われたんですw

だから「えっ!?」って驚いて、「だって、昨日、ガロの編集長に会った時には『絵が下手だ』って言われたんですよ」と返しちゃった。

そしたら、水木さんがこういうわけです。

「君、君。僕は筆1本で仕事し始めてもう30年は経つんだよ。絵なんて全く描いたことのない編集長と、長年絵を描き続けた僕と、どっちの言うコトが正しいと思うね?」って。

それで、「あ!」と思って、自信を取り戻すわけです。

しかも、周りのアシスタントたちも「うわ~!ほんとだ!こりゃ上手い!」「思わぬライバル出現だな!」なんて、褒めてくれるわけですよ。

これ、いいエピソードだな~と思って。
この話を読むだけでも価値があるので、ぜひ読んでみてください♪
今なら、Kindle Unlimitedで読み放題にもなっているので。

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