見出し画像

真の夢は決して人に語ってはならない

少年が学校に行かなくなって、声をかけるのは母親ばかりになっていました(…というか、元から母親だけで、父親は子供の教育にあまり口を挟みませんでした)

ところが、ここに来て、さすがの父親も息子に関わってきます。

「じゃあ、お前は学校に行かず何をするのだ?将来、何になるつもりなんだ?」

そう尋ねてきたのです。

少年は一瞬迷いました。「ほんとのコトを言ったらバカにされるのではないだろうか?」と考えたからです。

でも、その瞬間、中学の受験で受けた面接のシーンが頭をよぎりました。あの時は、勇気が出せなかったばかりに、心にもなかった「アメリカ」という嘘の答えを口にすることになってしまったのです。

もう嘘はつきたくありません。それで、彼は素直に自分の夢を語りました。

「小説を書きたい。将来は作家になりたい」と。

読者のみなさん、ここで父親はなんて答えたと思います?

少年は父親のセリフを一生忘れることはないでしょう。絶対に!絶対に!

父親はこう答えたのです。

「作家や芸人などヤクザな商売だ。まともな人間がなるものではない」と。

半笑いになりながら、そう答えたのです。それは人を小バカにしたような笑い方でした。父親のそんな表情、生れて始めて見ました。「何をバカなコトを。夢みたいなコトばかり言うんじゃない」そういう意味でした。

瞬間、少年は後悔しました。

「しまった!選択肢を誤った!ここはウソをつくべき場面!どのようなことがあろうとも、絶対に真実を語ってはならなかった!」

そう!この瞬間、彼は自らの弱点を露呈したのです。心の底にある一番大事な部分。「コア」とでもいうべき部分を敵の目の前にさらしてしまったのでした。それも自ら!


もしかしたら、この会話を些細な出来事に思われる読者もいらっしゃるかもしれません。でも、これは非常に重要なコトなので、必ず覚えておいてください!

この瞬間、運命が決まってしまったことを。同時にいくつもの道が決定的に確定してしまったことを。


順番に説明していきましょう。

第1に、少年が自らの夢を語ってしまったことで、今後、両親は少年のコアに向けて容赦ない攻撃を浴びせかけることになります。

第2に「真の夢は決して人に語ってはならない」ということを少年は悟りました。たとえ、どんな嘘をつこうとも、いかなる手段を用いようとも、自らの弱点を露呈するようなことは2度としてはならない、と。

第3に「弱点は補わなけばならない」と、少年は決心します。自分の一番弱い部分を外界にさらしてしまったことはもうどうしようもない。取り返しがつかない。ならば、それを防ぐ手段を見つけなければならない。「防御システム」とでもいうべきものを構築しなければならない。

第4に「そもそも弱点が存在するからいけないのではないだろうか?」という発想にいたります。これはイノベーター的な発想です。

もちろん、これらは一瞬に起こったことではありません。この瞬間に起こったのは、「少年が自分の夢を正直に語ったこと」と「父親が無残にもその夢をバカにしたこと」そして「少年がそれを悟り、自分の軽率な行動を後悔したこと」

これだけです。

残りは、長い時間をかけてゆっくり、ゆっくりと進行していきます。コアに対する敵からの攻撃も。防御システムの構築も。弱点そのものをこの世から消滅させる行為も。何ヶ月も何年もかけて行われていくのです。

いえ、もう1つありました。この瞬間、少年が考えたことがもう1つ。

第5に「作家がまともな人間でないというなら、自分の人生をまともでなくしてやればいい」

         *

「お前に小説家の才能はない」

これが両親が出した結論でした。だから、学校に戻り、普通に当たり前の人生を歩めというのです。

当然、少年は反論します。「そんなコトはない!自分はいつか作家になるのだ!」と。

けれども、周りの人々が言う「小説家の才能がない」という言葉自体は当たっていました。少年自身がそのことを一番理解していました。少なくとも、この時点では…

少年に与えられた才能は、小説家というよりもむしろ「詩人」

詩人としての道ならば、この年齢でもその才能を開花できていたかもしれません。ただし、その才を見出すことのできる大人がいればですが。そのような人物は、彼の周りに誰もいませんでした。

「やっぱりね…」

そう、少年は思いました。ほんとうに大事なコトは人に語るべきではなかったのです。なぜなら、攻撃対象に定められてしまうから。コアの部分を攻撃されれば、致命傷を負いかねません。

「語るのはすべての条件が整った時だけ」心の底で固くそう決めました。

それと同時に、少年の潜在意識は別の答えを得ていました。

「作家や芸人はヤクザな商売。まともな人間がなるものではない」

父親のこの言葉は、強く強く心に残り続けました。

おそらく父親は「だから、やめておけ」という意味でこの言葉を発したのでしょう。ところが、少年の中のイノベーター(革新者)としての資質は、それを全く別の形で捉えます。

「作家はヤクザな商売。まともな人間がなるものではない。では、まともな人間でなかったとしたら?」

こうして、少年は「史上最高の作家となる」という崇高な目的の為に、まともな人間を辞める決心をしたのでした。

         *

それからも、両親の執拗な攻撃は続きます。特に母親の攻撃が。

「小説家になどなれない」
「そんな才能はない」
「芸人や作家などヤクザな商売だ」
「そんな夢みたいなこと無理だからやめておきなさい」
「努力が足らないだけでしょ?」
「心が弱いのね」
「駄目な人間」
「そんな風に育てた覚えはない」
「親の言うコトも聞けないような子は、この家の子供じゃない」

これらに類する言葉が何十種類となく投げかけられました。そして、その行為は何百日にも渡って続けられます。

何千回、何万回、この手の言葉たちを聞き続けたでしょうか?

なぜ、そんなことを言うのでしょうか?

少年には全く理解できませんでした。

もちろん、それらの言葉の中には真実も含まれています。でも、同時に矛盾もはらんでいました。だって、この人生を無理やり選ばせたのは、その言葉を放っている母親自身なのに!


この頃の彼は「回避」という技を知りませんでした。親の言うことは絶対であり、耳をそらしてはならないと教え込まれていたからです。ある種の「洗脳」と言えるでしょう。

なので、全ての言葉をその身に受け止め、防ぎ続けました。防ぎきれない言葉たちは、ダイレクトに心に突き刺さり、次々とダメージを与えていきます。

翌日になれば、いくらか回復していましたが、それでも精神的ダメージは残っています。そこにまたさらなる攻撃。防御。防ぎきれなかった攻撃は、心に突き刺さる。この繰り返し。

毎日毎日、繰り返し繰り返し繰り返し。


その結果どうなったと思います?

それは次回、語ることにいたしましょう。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。