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あの日、あのあと、あの人と何が起こったか?(後編)

9月に入り、それでも青年は迷っていました。

なので、「1度はやめる!」と決めた母子寮のボランティアにも、何かと理由をつけては顔を出しました。あの人にも、何度か電話をしたりして、つきまといました。

でも、そこにある想いは全部中途半端なものだったのです。だから、何も上手くはいきませんでした。あの人との関係をますます複雑にし、人間関係の糸をグチャグチャにこんがらがらせただけでした。


たとえば、こんなコトがありました。

ある時、あの人に電話をすると、ボランティアのコトで散々文句を言われました。なんか、本気で怒ってるんです。

「なんでボランティアを手伝ってくれないの!もう○○さんに頼むからいい!」と青年の名前を口にしたのです。

読者の皆さん、わかります?あの人は、電話の相手を浜田君だと思ったんです。相手を間違えてたんです!

「世界を変える戦い」を始めとして、長い時間を共有していたため、彼女は「青年と浜田君を同一人物だと考えている節」がありました。奇妙な話に思えるかもしれませんが、こういうことってあるんです!この電話だけではなく、似たようなコトが何度もありました。

青年はなんと答えていいのかわからないので、つい「相手を間違えてるよ」と言ってしまいました。考え得る限り最悪のタイミングで最悪のセリフを吐いてしまったんです!

このセリフは、4月に喫茶店「ベローチェ」で、ふたりで会った時に使うべきだったんです。そうすれば、事態は全く別の展開を見せていたかもしれないのに…

このタイミングで「相手を間違えてるよ」と言ってしまったために、あの人と浜田君の仲は、ますます深まることになってしまいました。放っておけば、勝手に別れていたかもしれないのに…

         *

12月。母子寮で、財布と手帳が盗まれる事件がありました。

青年は、その時にはすでに母子寮のボランティアから離れていたので、その話はあとから忘年会で直接あの人から聞かされただけです。

「ああ、あの時、誕生日にプレゼントした青いノート(ブルーノート)も盗まれてしまったんだな…」と、青年はショックに感じました。

「もしかして、浜田君が盗んだんじゃないかな?」と、ふと思いましたが、人を疑うのはよくありません。その考えは、即座に頭の中から消してしまいました。

みなさん、このエピソード、よ~く覚えておいてくださいね。

10年近くあとに、ちょっとした出来事が起こります。

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3月になり、あの人は大学卒業後の進路を決めます。

就職活動でいくつかの面接を受け、結局、学校の先生ではなく近所のフリースクールで働くことに決めたそうです。自転車で通える距離にある職場です。

ちなみに、フリースクールというのは、学校に通えなくなった不登校の子を預かる民間の施設です。塾と学校の間みたいな存在でしょうか?かなり自由な教育が受けられる場所で、クラブ活動や遠足などもあるのだとか。

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その後、青年はあの人に、「旗揚げ公演の当日に受付をやってくれるように」と頼みます。最初はOKしてもらえました。

ところが、直前になって「4月から働く職場の研修会がある」と言われ、結果的には断られてしまいました。

電話で断られたのですが、「バスが!バスが出ちゃうから!今からスキーに行くんですッ!」と言われて、ガチャンと電話を切られてしまいました。

青年はショックを受けましたが、ちょっとかわいいなと思いました。

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旗揚げ公演の当日。

あの人は、開演直後にちょっと遅れてやって来ました。新しい職場での研修会を終えて、あわてて駆けつけてくれたのです。

お金を払おうとする彼女に「お金はいいから」と青年は告げましたが、頑としてその行為を受け入れようとしません。

「いや、払います!」「いやいや、いいからいいから」「払います!」「いいから!」と、受付の所でちょっと押し問答になってしまいました。

結局、彼女に押し切られて、チケット代は受け取りました。


そして、舞台が終了し、あの人は「よくわかんなかったなぁ」という顔をして帰っていったのでした。

元々、彼女に認めてもらうために始めた劇団だったのに、結果的には満足させてあげることができず、青年は落ち込みます。

でも、すぐに立ち直り、「次こそは!」と決心します!

次の公演は来年の2月。今度はボランティアのメンバー主体で行う演劇です。まだ、内容もタイトルもメンバーすら決まっていません。全てはこれから始めて、ゼロから完成まで持って行かなければならないのです。

残り時間は10ヶ月…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。