見出し画像

この会社、ほんとに大丈夫?

青年が働いている会社には、ちょっとおかしなところがありました。なんと言えばいいのか…「非効率的な仕事のやり方」をしていたのです。

たとえば、カサやマフラーに「商品タグ」というのをつけるんですけど。「晴雨兼用」「洗濯の時の注意」などといったタグをつけていきます。その際に、よく間違えるんです。それも、尋常じゃない頻度で!

晴れた時に差すカサに「晴雨兼用」ってタグがついていたり、UVカット処理がされていない商品に「UV加工」って書いてあったらおかしいでしょう?

だから、間違えた時は、せっかくつけたタグをわざわざ外してからつけ直すんです。それも「糸は切っちゃいけない!」ってルールになってて、「糸をほどく道具」を使って、1つずつ外していくんです。

なので、ムチャクチャ時間がかかる!タグつける時の何倍もの時間を使って外していきます。これって、大幅な時間ロスだと思いません?時間イコールお金でもあります。パートの人を雇うのもただじゃないので。

そういった細かいミスを毎日のようにやってるんですよ。多い時には日に2度も3度も。

それもこれも、店長があせらせるせいでした。

「もう!早く!もっと急いで!お前らを雇ってるのもただじゃないんだから!金がかかってんだぞ!」と、いつもプレッシャーをかけてきて、心が休まる暇がありません。

その気持ちや考え方が他の社員の人たちにも浸透し、パートさんたちに指示を出す時にも、よく確認せず、ミスを連発するのです。


あるいは、こんなコトもありました。

この会社では、カサやマフラー・ストールなどを販売していたのですが。毎年、春や秋になると新商品を発売します。その際に「流行の色や柄」を決めるのですが、決まって「去年流行った柄」を発注するのです。

たとえば、サクラの模様が入ったピンクのカサが大量に売れたとすると、今年も同じ柄で発注をかけてしまうのです。

でも、流行ってそういうモノじゃないんですよ。「去年は去年」「今年は今年」なんです!だから「今年流行りそうな柄を予測して」発注しないといけないんです。

そんな調子だったので、生産した商品が大量に余るというコトがよくありました。去年の商品も、一昨年の商品も、そのまた前の年の商品も余っていました。ヘタをすると10年前の物まで在庫として残っています。

売れるのは、運よく「今年の流行」が「去年の流行」と重なった時だけ。でも、そんな年は滅多にありません。

在庫は倉庫を圧迫します。それも、またお金だと思いません?だって、保管代がかかるもの(もっとも、この会社は「自社ビル」を持っていたので、ある意味で保管代は無料みたいなものでした)


「この会社、ほんとに大丈夫なのかな?1円でもお金を浮かせようとして、余計にお金を損してるんじゃないの?」と青年はよく疑問に思いました。

でも、世の中なんてそんなものなのかもしれません。どこの会社も大なり小なり似たようなコトをやっていて、細かい損失をたくさん出しているのでしょう。積もり積もって、それらは大きな損害となっていきます。

それでも、多くの会社は上手く回っているのです。何もかも完璧な人がいないように、何もかも完璧な会社もまたありはしないのですから。

「損失を出したり、利益を上げたりしながら、どうにかこうにか潰れない程度に回していく。それが会社というものなのだろうな」と、青年は学びます。

それに、非効率的なやり方をしている会社があるからこそ、一部の企業が業績を伸ばすことができるのです。全員が優秀だったら、全員が平均点ですからね。


青年は、ここでもう1つ学びます。

「そうか。優秀な人も、そうでない人もいる。だから、世の中の弱点を突いて出し抜くことができた人が、有利に立つことができる。それが『競争社会』ってものなんだ!」

考えてみれば、どこも同じようなモノでした。会社だけではなく、受験でもゲームの世界でも、みんなみんな同じ。早くから攻略法を発見し、その攻略法を利用できた人が圧倒的優位に戦いを進めていくことができる。

それって、青年がこれまでやってきたコトと同じでした。ただ、彼の場合は、その能力を「収入」や「地位の高さ」を得るために使ってこなかっただけで。青年が望んでいたのは、もっと別のモノ。「最高の作家になるための経験」や「時間」だったのです。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。