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ショートショート(と、朗読) 山芋 【SAND BOX 1099】

ー「ガンコ。ガンコ」ー

 カッコウとホトトギスがいた。二人は姉と妹だった。ある日、カッコウが仕事帰りに見切り品の山芋を買ってきて、切って焼いて醤油を垂らしてステーキにした。遅れて帰ってきたホトトギスがそれを羨ましがって、何切かせがんだ。カッコウはよく焼けた、柔らかいところを分けてやった。
 ホトトギスはもらった山芋をペロリと平らげるともっとくれとカッコウにせがんだ。カッコウは断った。残りは生焼けだったからだ。冷凍庫に冷凍ポテトがあるとホトトギスに言ったが、ホトトギスは納得しない。
「ガンコ。ガンコ」
 呆れてカッコウが鳴いた。ため息をついて冷凍庫のポテトを取り出す。包丁を入れるとガリっと音がした。
「包丁、カケタカ?」
 ホトトギスが怒って言った。包丁はホトトギスが買ったものだった。言い争いになった。

 母親のセンダイムシクイが帰ってきた。姉妹を見てため息をついた。コップをふたつ用意する。瓶を持って来てなみなみ注ぐと、二人に渡してこう言った。
「焼酎一杯、グイー」

イラスト:悠紀【丸大商店】

SAND BOX 1099 No.033

  6月16日(日)に文学フリマ岩手9に参加します。せっかくなので岩手にゆかりの深い柳田國男の「遠野物語」にちなんだお話をお届けしようと思っています。題して「猫の経立」(SAND BOX 1099は書き手側として一定区切りでテーマを設けてお話を作っています)。年寄り猫の怪しげな話です。

 今回のお話のもとになった話はこれです。

五三 郭公くわくこうと時鳥とは昔有りし姉妹なり。郭公は姉なるがある時芋を掘りて焼き、そのまはりの堅き所を自ら食ひ、中の軟かなる所を妹に与へたりしを、妹は姉の食ふ分はいつさううまかるべしと想ひて、庖丁にてその姉を殺せしに、たちまちに鳥となり、ガンコ、ガンコと啼きて飛び去りぬ。ガンコは方言にて堅い所といふことなり。妹さてはよき所をのみおのれにくれしなりけりと思ひ、悔恨に堪へず、やがてまたこれも鳥になりて庖丁かけたと啼きたりといふ。遠野にては時鳥のことを庖丁かけと呼ぶ。盛岡辺にては時鳥はどちやへ飛んでたと啼くといふ。

 いわゆる、鳥の鳴き声の聞きなしですね。「ガンコ」はいわゆる「カッコー」、「包丁カケタカ」は「テッペンカケタカ」が有名です。
(音声どうするのかなあ、と思っていたんですが、水上さんが非常に上手に(そしてコミカルに!)ご朗読くださっています。流石!)
 何か悲しいことや困難に直面した人物が鳥になるのは、昔話で見る話型ですが、このお話はよくできていると思います。「妹は姉の食ふ分はいつさう旨かるべしと想ひて」のところが好きです。可愛がられてただけなのにそう思っちゃうこと、リアルじゃありません?
 昔話で鳥になる人物は、悲しい人が多いように思います。多分、ずっと同じことを繰り返し鳴く運命を持っているからでしょう。自分で書くならと、ちょっと明るくしてみました。こんがらがっちゃった喧嘩も、第三者がいれば意外と解決するものです。

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 今月のイラストは4月にもお願いした悠紀【丸大商店】さんにイラストをお願いしています。(今回のイラストでは鳥の違いを服の模様で表現くださいました!) 悠紀さんの大船渡をPRするYouTubeチャンネルを運営しておいでです。

 朗読の水上洋甫さんは宮城県気仙沼市のご出身。お二方とも東北の方なんです。文学フリマ岩手9にもご参加なさいます。
 悠紀さんのご出店ブース「丸大商店」はこちら。ブース番号はD-32です。

 水上洋甫さんのご出店ブース「ポライエ書房」はこちら。ブース番号はB-10です。

 私の出店ブースはこちらです。「珈琲まねきねこ」。ブース番号はC-27です。
 ラインナップなどはまた記事に書きますね。(まだカタログできてないです)

 「遠野物語」を題材にした「猫の経立」シリーズ、来週も続きます。いつもと少し毛色が違いますが、お付き合いいただけますと幸いです。
 前回のSAND BOXはこちら。