ショートショート(と、朗読) 名古屋の化け猫【SAND BOX 1099】
ー「喋れた方が便利であろう」ー
昔、尾張の国のお殿様が猫を一匹飼っていました。海のように青い目で、夜のように黒い毛並みで、三日月のように尖った爪をしていました。 お殿様はこの猫を大層可愛がっておいででした。専用の座布団を拵えて、ご飯にたっぷり鰹節も混ぜてやりました。
大層長生きの猫でした。時折人のような振る舞いをすることもありました。城のものたちは不気味がりましたが、お殿様は一向に構いません。ある朝猫のしっぽが三つに割れて
「おはようございます」
とお殿様に挨拶しました。
「おはよう」
お殿様は答えます。家臣たちは大騒ぎです。
「化け猫」
と刀を抜きかけた家臣をお殿様がきっと睨みました。
「喋れた方が便利であろう」
猫は涙を流して喜びました。それから、今度は自分がお殿様とお殿様の街を守ってやろうと決めました。
夜になると猫は人に化けて街をパトロールしました。お殿様が亡くなった後も毎晩毎晩続けました。今でも夜の街で見かけるそうです。話しかけると答えますよ。「みゃあ」って。
声のお仕事をされている(詩や小説も書いておられます)水上洋甫さんにお願いして、朗読をしていただこう、のシリーズ「SAND BOX 1099」です。
名古屋の昔話シリーズの最後はお殿様と化け猫のおはなし。水上さんの優しい語りと、ねこやろうさんの温かい絵で、にゃんともぽかぽかした仕上がりになりますした。
名古屋あたりにお住まいの方にはわかるかと思います。この、謹慎になったお殿様のモデルは徳川宗春で、実際に猫を可愛がっていた記録は私は見ていません。名古屋弁の「みゃあ」にかけるためのお話ですね。
じゃあ全部嘘なのかというと、今月書いていた「猫ヶ洞の王さま」の方に出てくるお殿様がお忍びに使ったかもしれない水路は存在します。しかも現在も入れます。
これは、お殿様が大須の遊郭に行くのにお忍びで使った、かもしれない聖運寺。そこは空想の領域ですが、江戸時代堀川に向かって立っていたことと、尾張藩ゆかりのお寺だったことは本当です。詳しく書かれた記事を引用しておきますね。
そして、これは堀川を実際にボートにのって遊覧できる「なごや堀川クルーズ」の幟です。不定期に開催のようですが、調べに行っていたときにたまたまやっていたので、突撃しましたぞ!
乗るとこんな感じです。一段低いところから名古屋の街を見ることができます。堀川にかかる新旧様々な橋をくぐれるのも楽しみの一つです。
石垣と、段差が見えますでしょうか。昔、船着場だった名残りだそうです。他にも、いくつかの商店が川に向かって看板を掲げていたり、川の方に出入り口を持ったりしており、かつて(といっても私たちの、1、2世代くらい前)は、ここは船の遊覧船や運搬船が行き来する水路だったことがわかります。
ここは円頓寺商店街の入り口あたりですね。綺麗に補正されているけれど、橋のすぐ下あたりの煉瓦は古そう。おしゃれな橋だったんだろうなあ。
さて、今月のサムネイルは名古屋を中心に活動しているインディーズバンド「Kulu」のメンバーの、ねこやろうさんに描いていただきました。猫愛に溢れております。どうもありがとうございます。一ヶ月お疲れ様!
前回のSAND BOX 1099はこちらです。
シリーズをマガジンにまとめていますよ!