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ショートショート ぼくのおとうさん

ぼくの おとうさんは しょうじきものです。
ほんとうの ことしか いえません。

ふだんは ぎんこうの ATMのなかに入って はたらいています。
なつばは とても あつくて つらいんだそうです。

あと せまいところで おさつや おかねを
だしたり いれたりするので
めとこしが すごく つかれます。

それでも おきゃくさまに
おさつを おわたし するときは
きかいの なかから ちいさく
ありがとうございます
って、いうんだそうです。りっぱです。

おとうさんが ATMにはいっている ということは
ほんとうは きぎょうひみつ らしいけど
ぼくが さくぶんにかくのに いるんだっていったら
こっそり おしえてくれました。

ぼくだけに ないしょの はなし。
おとうさんは うそを つけないから。

「おとうさんの しごと」は
さくぶんのしゅくだい だったので
ぼくは すっかり さくぶんにかきました。

ともだちに とても うけて
おもしろいねって いってもらったりして

うちにかえると
でんわがかかってきて
おとうさんが がっこうに
よびだされました。

しかられちゃったよう

ってかえってきてからいいました。
たぶん きぎょうひみつを
はなしちゃったからだと おもいます。

ぼくが うっかりして
くるまに ひかれたときも
しごとを ほうりなげて
びょういんに きてくれました。

なにがあったか あらいざらい はなして
だいじな プレゼンも
ほうりだしてきたそうです。

むかしから ぼくのかおじゃしんを
てちょうに はっていて
ぼくがいなくなってから ずいぶん たつのに
ふるぼけた しゃしんを はりつづけて
ときどき ながめています。
「これが おれのたからもの なんだよ」って。

かいしゃのひとは じじょうを しっているから
どうこたえたものか わからなくて
すこし にがわらいします。

おとうさん。
おとうさんは もうすこし
うそが じょうずになったほうが いいです。
しょうじきもので とくをしたことなんて
いっかいだって ないのに。

まだ、ぼくを
たからものに してくれていて ありがとう。
どうか しあわせに。
しょうじきもののままででも
いいけど
うそを ついてもいいよ。
ほんとうだよ。

ショートショートNo.103

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