親父の死

親父の癌は予定通り進行し、この頃はモルヒネを服用し、シラフでいる時間も少なくなっていった。

うちの親父は入院を出来るだけ拒否していたから、末期まで在宅だった。

モルヒネでキマッている最中はパジャマの模様をお経のように読み上げたりもしていた。

しかし身体は痩せ細りいよいよまずくなると入院を余儀なくされた。

ジゴ郎も仕事でそこまで飲まない時はいつも病院に行き、差し入れを渡しすこし話をして帰る。

大人の男同士、そこまで話す内容は無い。

そんな日々が一カ月くらい経った頃、いつものように国立国際医療センターに行くと、下の駐車場付近で車椅子を引いている母親を見つけた。

もちろん乗っているのは親父だ。

母親に代わって車椅子を引く。

親父はジゴ郎が来たことには気づいていないみたいだ。
いつものようにモルヒネを投与したせいかもしれないが、この日はいつもと違った。

何を話しかけても全く反応がない。

病院の駐車場から見える親父のお気に入りの絶景スポットの葛西臨海公園の観覧車が一望できる所に着いても何の反応もない。

車椅子を止め、顔を覗いてみると瞳の色は白みがかって、全くの生気も感じな い。

その表情を見た時、自然と涙がこぼれてきた。

大粒の涙がボロボロと頬をつたってこぼれてきた。

しばらく泣いた後、上を見上げると母も泣いていた。

二人共、同じことを思っていたに違いない。

二日後の夜中、親父は静かに息をひきとった。

家族に見守られての最後だった。

その表情は何か満足したような表情だったのが唯一の救いだった。

その日はさすがに休んだが、次の日からは心を入れ替えて毎日多めに仕事をして、その月はいつもの月の三倍の売り上げを達成することが出来た。

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