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馬肉のコロッケ

長野にて、馬肉のコロッケ。コロツケーというから、揚げ衣の内側は、茹でた馬鈴薯をつぶして馬の挽肉をまぜたものを予想したが、割ってみると馬挽肉オンリイであったから、馬肉のメンチカツともいえる。味わいは、馬肉独特のものがあって面白かったが、苦手な人はあるかもしれない。

馬肉といっても、これはふつうのコロッケと変わらない値段であった。馬肉は牛肉より高価なものと思っていたけれども、もっともそれは部位によるらしい。

馬肉と牛肉といえば、食肉事情が今とは違った明治時代、牛鍋が人気を集めたわけだけれども、牛肉を偽装して馬肉を出す店があったとか。
馬肉は「さくら」ともいわれるが、もとはどうやらそうやって牛肉と偽った馬肉を「さくら」と呼んだらしい。「さくら」は「偽客さくら」と当て字される、あの「さくら」である。牛鍋は家庭の日常の食べ物ではなかったわけで、芝居・興行にまつわる用語をもってその隠語とするあたりは、牛鍋受容のありかたを物語るようで面白い。

偽装牛肉といえば、夏目漱石の『三四郎』に、馬肉を牛肉と偽って出しているのではないかと疑われている飲食店のことが出てくる。そこで学生たちがやっていた、牛肉か馬肉を判別する方法というのが不届き極まる。皿に盛られて肉が出てきたところで、肉をつかんで座敷の壁にたたきつけるというのである。

このけしからん方法でどう判定するかというと、壁にたたきつけて、肉が下に落っこちればそれは牛肉で、壁にくっつけば馬肉だそうだ。書かれているとおり、まったく「まじないのような」ことである。
牛肉か馬肉かなど、食えばわかろうものを、食べ物を粗末にしてはいけないのであるが、当時の学生の気風というものであったのだろう。

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