七五三の撮影中に哀しくなった話。
法務教官は,非行少年と向き合う仕事。
少年院というのは全国で年間2200人くらいしか入ってこない施設で…
つまりただのワルではなく…
非行に非行を重ねた
「よっぽど」の人しか入ってきません。
病院で喩えるなら「重傷者専門」みたいなもん。「健全な人生」に向けたICUとも言えるのかもしれません。
彼らが「そう」なった理由は様々。
個々に状況は全然ちがう。
そもそも…
この数年でいわゆる「不良」の割合は減少し,かなりの程度,引きこもりやいじめられっ子が入ってくることも増えたので…背景どころか現在の状況も多様化しているのですけれど。
いずれにしても,僕たち法務教官は,日々,そうした複雑な事情を抱えた少年たちと向き合っている。当然のことながら,彼らの生い立ちや家庭環境,少年院送致に至る経緯などもかなりの程度把握することになる。
「非行少年は社会の被害者」という言葉はあまり好きではありませんが,そういう側面があることも,確かな事実だなと,日々感じています。
彼らは多くの場合加害者で,僕はもちろん,一般市民として彼らが為したことに対する怒りや悲しみもたくさんあるのですが…
それとは別に,彼らのあまりにも悲惨な「これまで」に,思わず胸が苦しくなることも少なくありません。
ふとした時にそれが頭をよぎり,なんとも言えない気持ちになるのは,もはや職業病と言ってもいいのかもしれません。
以前,こんなことがありました。
娘の七五三。
きちんとした写真屋さんに依頼し
僕も一応整った格好をして
娘にドレスや和服を着せて
傍目には過剰なほどのハイテンションでスタッフさんが写真を撮っていたときのこと…
やっぱり僕は,突然かなしい気持ちになったのです。
世の中には,七五三など祝ってもらえない子どもがいること…
そして
祝いたいのに祝えず,娘に謝りながら今日を過ごしているお母さんがいること…
それから
祝う気持ちなど微塵もなく,ただ自分の人生だけを生きている親と,健気にそれに従うだけの子どもがいることを,五感を伴って想起してしまったからでした。
知識として知っていることを思い出すとか,そういうレベルじゃない。
任侠映画でヤクザが指を詰めるシーンを見て,顔をしかめながら思わず自分の指をさすってしまうような…五感を伴う確かな実感。
今まさにそういう家庭,そういう人がいるということ…
自分が「祝えない状況」だったらどんなに娘に申し訳なくなるだろうかということ…
ハイテンションなスタッフさんと
乗せられて楽しそうにポーズをとる娘と
それをほほえみながら見つめる妻…
そんな幸せしかないスタジオのはじっこで僕は,
なんとも言えないかなしさに,涙が出そうになりました。
これは僕の職業病。
自分の幸せを実感するたびに
「そう」ではない人の映像が浮かび
…かなしくなる。
ある意味で身勝手な…
そういう僕のせいでより一層みじめな気分になる人もいるかもしれない,残酷で中途半端な僕の正義感のようなものが生んだ職業病…
でも
知らないよりは知ってよかったと思う。
法務教官になって,多くの加害者と向き合った。加害者の「これまで」に潜む「よくここまで生きてきた」と感じるような悲劇にも向き合った。
これからも向き合っていく。
僕が自分の幸せをがまんしても,
誰も何も救われない。
だから
僕は自分の幸せを我慢しない。
今日も娘と楽しい時間を過ごす。
不意に訪れるかなしさを
娘に感じ取られないように…
ほんの少しだけ気をつかいながら。
自分にできることをしたい。
これからも。
最後まで読んでいただき
ありがとうございました。
放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。