あんこ丸と猫のスー

あんこ丸は真っ白な秋田犬。
みんなからあーちゃんってよばれている。
でもおとうさんとわたしだけ、
いつもあんこ丸ってよんでいる。

わたしの家のそばに、
アメリカからやって来た、
スティーヴさん夫婦がすんでいる。

スティーヴさんはとてもりっぱな、
真っ白なヒゲをはやしていて、
みちで会うときはいつも、
大きな笑顔であいさつをしてくれる。

わたしは少しきんちょうして、
まけじとお腹にちからをいれて、
こんにちはって大きなあいさつをする。

スティーヴさんのおくさんも、
とても明るくきれいなひとで、
よく近くのスーパーで楽しそうに、
にこにこしながら買い物をしている。

スティーヴさんのおくさんと、
わたしのおかあさんは、
おみやげの交換会をひらいたり、
料理をしたりしてなぜか仲が良い。

スティーヴさん夫婦にはふたりの、
アメリカで働いている息子さんがいる。
はなれて暮らすのはもう長いけど、
まいとし夏と冬に会っているから、
ぜんぜんさびしくないって言っていた。

そしてスティーヴさん夫婦の家には、
スーザンがいっしょに住んでいる。
彼女はアメリカンショートヘアの女の子。
みんなからスーってよばれている。

スーは朝ご飯のあとから夕方まで、
すずのついた青い首輪をして、
じゆうにゆうがにぶらぶらと、
おでかけをまんきつしている。

塀のうえにじっとすわって、
道ゆく人や車をかんさつしたり、

公園のベンチや屋根にのぼって、
気持ちよさそうに日向ぼっこしたり、

路地のはしに寝っころがって、
あたまやせなかをなでられたり、

草むらや駐車場をすりぬけて、
あたらしい友達を見つけたり、

近所でもひょうばんの猫として、
スーはみんなに可愛がられている。

あんこ丸は10才になるおじいさん犬。
スーはまだことしで3才になったばかり。
あんこ丸とスーはだいぶとしが違うけど、
スーはあんこ丸が大好きだ。

お散歩中のあんこ丸を見つけると、
スーはやさしいなき声を上げて、
あんこ丸のちゅういをひこうとする。
でも残念なことにあんこ丸は、
ちょっとスーが苦手だ。

あんこ丸はとにかく怖がりだ。

はじめて見るもの、
せんたくバサミや看板やフェンス。

大きなおとを立てるもの、
かみなりや花火やショベルカー。

くろっぽい色のもの、
あんこやのりやこうもり傘。

知らないおとなやこども、
女の子や女性はだいじょうぶ。

なにか怖いものを見つけると、
あんこ丸は腰がひけてみみがたおれ、
それ以上いっぽも動かなくなる。
それからいやいやとあたまを下げて、
じりじりと後ろ歩きではなれていく。

ふたりがはじめて出会ったとき、
あんこ丸はすごくおどろいて、
腰を少しぬかしてしまった。

どこからともなくふいに、
ぎんとくろのうず巻きもようをした、
しっぽの長い知らない猫が、
すぐ目の前に飛び出して、
とつぜんあんこ丸にあいさつをした。

たぶんあんこ丸はいまでも、
かわいい女の子を怖がってしまったのを、
恥ずかしく思っているのかもしれない。

それかおしっこしてたのを見られて、
恥ずかしがっているのかもしれない。

それでもお散歩中に出会うたびに、
ちょっとずつ仲良くなっていって、
近くも遠くもないきょりで、
お互いに足をとめてしずかに、
わずかな時間をすごすようになった。

ところが最近あんこ丸に、
気になる女の子があらわれた。
それは大通りの向こうがわに住む、
雑種犬のちーちゃんだ。

ちーちゃんはついこの間、
たおれた飼い主のおばあさんのために、
わんわんと吠えて助けをよんできた。
わたしはちーちゃんを見てみようと、
あんこ丸を連れて遠まわりな散歩をした。

ちーちゃんを見つけるとあんこ丸は、
うれしそうにしっぽをぶんぶんふった。
体の小さいちーちゃんもうれしそうに、
しっぽをぶんぶんふってくれた。

ふたりはずっと見つめ合って、
ずっとしっぽをふっていた。

それいらいちーちゃんの家に近づくと、
あんこ丸はそわそわと舞い上がって、
ちーちゃんに会いたくて仕方がないように、
落ち着きがなく言うこともきかず、
ちーちゃんに会えたときも会えないときも、
なかなか帰ろうとはしません。

いつもの散歩道でいつものように、
スーはあんこ丸を見つけると、
近づいてあいさつをしてくれます。
あんこ丸もひと休みするかって、
腰を下ろしてのんびりと、
おだやかな時間をすごします。

けれどあんこ丸はどこか、
うわの空のような気がします。

スーはもしかしたらいつか、
アメリカに帰ってしまうかもしれません。
そうなったらわたしもおかあさんも、
とてもさびしくなると思います。

大きな声であいさつすることも、
おみやげの交換をすることも、
散歩のとちゅうでだれかと、
お休みすることもなくなってしまいます。

だからスーとあんこ丸のいるこの時間が、
もっと長く続いてくれたらいいなと、
わたしはふたりのそばで待ちながら、
スーのおうえんをしています。

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