オートクチュール【映画鑑賞記録#3】


2021年公開、シルヴィ・オハヨン監督作品『オートクチュール』を鑑賞しました。
舞台はフランスのパリ、高級ブティック街モンテーニュ通りにただずむDiorのアトリエです。
このオートクチュールメゾンでお針子として働く女性らを中心とした群像劇が描かれています。

タイトルといい舞台といい煌びやかな雰囲気がありますが、焦点は個々の人間の心情に充てられており、Diorの固有名詞に連想するような絢爛豪華さはそれほど感じませんでした。
そうは言っても、ここで取り扱われる繊細な服飾たち、洗練されたチュールの生地などがすごく可愛らしい。存在感があって目を引きます。
Diorの衣装デザイナー監修の元で制作された映画だそうです。意匠が凝らされています。

フランス映画といえば「孤独」、「愛」、「死」、まさにこれらの主題が想起されます。それをこってり仕上げるのか、薄味で調理するのかに個性が現れる、そんな印象。
本作は後者です。
泥沼感はなく、めちゃくちゃハッピーエンド。もちろん背景には人間相互関係における困難や、フランスならではの深刻な悩み事があったりするのですが、最後はうまあく大団円となります。
寄り添い型のしなやかなエンカレッジ映画です。

以下は簡単なあらすじです。


Diorのアトリエの責任者を勤めるエステルは引退を間近に控え、ジャドという団地住まいの少女と出逢います。
ジャドの器用さにお針子としての資質を見出したエステルは、彼女を自身のアトリエに招き入れ、新人のお針子として師事していきます。
社会的立場も年齢や経験値も異なる二人ですが、心内に大きなわだかまりを抱えていることは共通していました。
はじめは反発しあっていたエステルとジャドは、ダマになった結び目が解けていくように、次第に心を通じ合わせていきます。
やがて、さまざまな障害に見舞われながらも、彼女たちのアトリエはエステルが携わることになる最後のショーに臨みます。


本作で取り沙汰される悩みの数々、フランスならではだと思いました。
ジャドは移民2世です。十分な教育への機会に恵まれず、窃盗を繰り返す子供たちに数えられます。エステルとの出会いのきっかけも盗みでした。
ジャドの母親はうつ病を患っており、母娘間の関係性も安定しているとはいえません。
一方エステルは糖尿病で不養生。加えて娘との確執を抱えています。
その他にもセクシャルマイノリティやムスリムの友人など、多種多様な文脈を背負った女性らが描かれています。
日本在住の私の生活圏では見られないバックボーンがちらほら(可視化されていない点も考慮する必要がありますが)、傾向としてはフランスっぽいのかなと思いました。

生まれながらに可能性から断絶された人々、ポテンシャルを秘めながら発揮する機会さえ喪失された人々、こうした人々が存在するという事実は、やむをえない社会構造の仕様、そういう理不尽として甘受するしかないのでしょうか。
(理想を知らないままでいる方が幸福なのか、そんな議論はさておき)

それでも、生活が一変する転機がどこに転がっているかは誰にも分からない。
可能性から隔絶されたジャドが、とある偶然の邂逅をきっかけにDiorのお針子としてのキャリアを歩み始めるなんて、とんだシンデレラストーリーです。
こうした巡り合わせが、実際の世の中にも溢れかえってるといいなと思います。

なんにせよ、大切なことは可能性に貪欲であること。可能性とは、夢であり、決意であり、人との関わりです。
人生は既製品ではない。各々が手探りで仕立て上げていくもの。
チュールのように繊細な人生に施される手業に、独創性や趣向が浮かび上がる。それを私たちは生き様と呼ぶ。

また、こちらの作品はわかりやすく女性びいき、女性のための映画です。男性は視野にない。エンドロールでも「すべての女性に」と明記されています。
私も女性なので、女性びいきです。言うまでもなく女性以外も敬愛していますが、強いて言うなら!です。
女性のいいところ、多感で落ち込みやすくても自分の足で歩いていけるし、結構野心的なところもある。
女性ってデフォで可愛いし。そこに格好いいの要素が加算されたら最強だと思います。
なんだか共闘する気持ちになるな。

既製品が飽和する大量消費型の現代で、オートクチュールはその希少価値をますます高めていく。消耗品としてではなく、むしろ嗜好品やアートワークとしての重きが置かれていく潮流を肌で感じます。
人生もオートクチュール同じようなもので、既製品にしようがないというか。われわれは異なる眼差しのもとで世界を見つめ、その上で取捨選択に挑むのだから、みなオーダーメイドだし、特別ですよね。
女性びいきと言いつつ、やっぱり私は人類びいきかな。
そんなふうに感じられる、清涼感に満ちた映画でした。

鑑賞日:2024/03/17

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