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「大立山まつり」とは何か?(前編)

 毎年、年明けの寒い時期に開催されるイベントがあります。

 それは「大立山まつり」と言います。

 このイベントは現在に至るまでに1度大きなリニューアルをしています。この記事では「大立山まつり」に迫るその前編として、このイベントが誕生する経緯と、リニューアル前の「大立山まつり」に対して筆者が感じた「違和感」と、それでも「楽しめた」その感想をお伝えします。

(この記事での西暦表記は年度ではありません。)

 

「大立山まつり」とは

 「大立山まつり」は奈良県を主体とする実行委員会が2016年の年始に初回が開始し、以降毎年年明けに開催しているイベントです。

 会場は「平城宮跡歴史公園」、開催年によっては「奈良県コンベンションセンター」が使用されます。

 「まつり」と名乗っていますが宗教的な意義は無く、観光イベントとする方が正しい理解となります。

 その内容については追って解説をすることにします。

 また、本来の「立山」は奈良県広陵町の「大垣内立山まつり」に代表されるように、その年の風物詩を人形で表現してその地域内で披露する奈良県内に伝わる伝統行事です。

 この伝統行事「立山まつり」とは民族的、風俗的な系譜として「大立山まつり」が直接的に関連してくるというわけではありませんが、「大立山まつり」の会場に象徴的に展示される四天王を模した繊維強化プラスチック製の人形「大立山」が「立山」に倣ったものだとされています。


なぜ、イベントが必要なのか

 主催者が「奈良県冬季誘客イベント「大立山まつり」実行委員会」と名乗るように、このイベントの最大の目的は「奈良県」の「冬季」に「誘客」をするというのは容易に想像ができます。

 初めて開催された2016年とその前年2015年の統計を見ると、確かに1月と2月が観光客の集客に「弱い」ことがわかります。

 この時期には「初詣」や「若草山焼き」「節分行事」などの伝統行事の開催はあるものの、季節全体としての集客力に強くないと言えるでしょう。

 また、実行委員長であり県知事の当時の記事の中で述べている内容では、夏の「なら燈花会」、大立山と開催季節が同じ「なら瑠璃絵」が開催(共に夜間のイベント)されており、それが宿泊需要を向上させようとしているとのことです。

 このことから、集客に弱い「年明けの冬」に、宿泊需要を発生させる「夜間」に、もう一つ「何か手を打ちたい」との思惑で「大立山まつり」が開催されるに至ったと想像できます。

 それを裏付けるように奈良県公式サイト内にて「大立山まつり」を紹介する際には「観光客が減少する冬季」に、「宿泊客を増加させる」という旨が記載されることが多くあり、これが「大立山まつり」の実施目的であると言えます。


大立山まつり「巡行時代」の様子

 「大立山まつり」は2022年の開催に至るまでに1度大きな内容の改変が行われました。この記事では改変前(2016~2018)の内容について「巡行時代」、改変後(2019~)の内容については「祝ぐ寿ぐ時代」と名付け、それぞれその内容を解説します。


【2016年】1/29~2/2 会場:平城宮跡第一次大極殿院

 大立山巡行、あったかもんグランプリ、市町村PR(飲食、催事)など


【2017年】1/25~1/29 会場:平城宮跡第一次大極殿院

 大立山巡行、あったかもんグランプリ、市町村PR(飲食、催事)など


【2018年】1/26~1/29 会場:平城宮跡第一次朝堂院

 大立山巡行、あたかもんグランプリ、市町村PR(飲食、催事)など


 初めての開催となる2016年は平城宮跡第一次大極殿院にて開催されました。初のお披露目となった「大立山」は四天王を模した人形が手押しの台車の上に載せられたフロートで、時刻になると会場内を巡行するというものでした。これは巡行時代に共通することです。

 巡行が行われる周辺ではテントが立ち並び、「あったかもんグランプリ」や日を分けて県内の市町村による飲食や物産の提供が行われました。また巡行が行われていないタイミングで、県内の市町村からその地に伝わる伝統行事やイベントの実演が披露されました。

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筆者の感想

 会場となる第一次大極殿院では「設定」が施され、チラシには「無病息災の祈り」という記載が、当時会場で配布されていたチラシには「大極殿に挨拶」「願い事をお祈り」「行燈奉納」などの記載があります。当然のことながら「大立山」そのものに宗教的な意義は無く、また平城宮跡大極殿は文化庁の管理のものであり宗教施設ではありません。またこれらの文言は考古学的な知見に基づいた物ではないと思われます。

 「千葉の漁村に夢の国」「大阪の臨海工業地帯で魔法使い」のようにその土地柄とは全く関係の無い「設定」と「世界観」を構築することで、魅力的な空間を作りこむ手法は他にも見られます。当時会場を訪れた筆者は、この「設定」飲み込めば十分に楽しめる内容でり、むしろ「結構、その空間と演出を楽しんで帰った」ことを記憶しています。

 しかしながら、テーマパークによる「世界観の構築」とは訳が違い、「第一次大極殿」や「平城宮跡」は考古学的な知見に基づいた「史実を伝える場所」であります。このイベント独自の「設定」については、その手法と手段をある程度選択しなければならないとの感想を持っています。

 2年目以降は「大立山巡行」を軸に、巡行をいかに魅力的に実施できるかという会場づくりや演出に重きを置いていたとの感想を持ちます。2年目は大極殿正殿を借景に巡行経路や展開に工夫を加え、太鼓の演奏とシンクロしながら「巡行を中心とした物語のある演劇」を見ている迫力のある演出が特徴でした。3年目は飲食物販テントを、広い平城宮跡であえて狭めて設置し「催し物の空間」を作り、巡行が主会場のどこからでも見ることができる「平城宮跡の魅力ある使い方」が特徴的でした。

 また初年の会場訪問にて強く違和感を受けた「設定」も弱められたが、「無病息災を祈る」というテーマは引き続き使用されました。

 巡行の他には、これまで「なら瑠璃絵」会場で開催されてきた「あったかもんグランプリ」が、また市町村PRとして、特産品の販売や飲食の提供、その地に伝わる伝統行事の披露やイベント内容の披露が実施されました。これは平城宮跡が立地する奈良市だけではなく、奈良県域に及ぶ市町村がこの会場に集結し、さながら「奈良県全域の見本市」のような状況となっていました。これが後の「祝ぐ寿ぐ時代」へのコンセプトに引き継がれることとなります。

 また、開始初年には「関西ウォーカー」とコラボレーションをした「奈良大立山ウォーカー」なる冊子が発行され、このイベントの紹介のみならず県内全域の冬の催事を紹介されていました。「大立山まつり」をきっかけに県内全域への観光に「誘う」仕掛けが施されていました。

 「巡行時代」は、「大立山巡行」「飲食、物販」「行事などの披露」という3本の柱で構成されており、深く意味を理解していなくても「光っている大きなものが移動する」「食べておいしい」誰が行っても簡単に「賑わっていることがわかる」内容となっていました。


今になって思う事

 「閑散期の冬季」に、「光る大きなものが動く簡単に楽しめる演出」というポイントを押さえる事自体は何も間違えている物ではないと思います。

 繰り返しにはなりますが、「平城宮跡」という立地や「実在する宗教を題材とした設定」を扱うにおいて、予備知識が無い人がそれを見て「勘違い」を起こさないような配慮が必要だったのではないかと思います。これが「大立山巡行」に対する違和感の原因に繋がるのではないかと考えます。

 その違和感さえ無視すれば、年々魅力が増す会場空間の中で十分に楽しめる内容であり、3年連続で訪れた筆者は「行って良かった」「また巡行が見たい」と今になって思っています。


次回予告

 4年目の「大立山まつり」はこれとは大きく様相が異なるものとなります。それは次回にお伝えします。

 この記事を公開する2022年1月の「大立山まつり~ちとせ祝ぐ寿ぐまつり」は昨今の状況を鑑み現地会場を中止しオンラインプログラムのみの開催となりました。開催直前での公表となり、ギリギリのタイミングまで関係者の皆様の「開催をしたい」というイベントに対する熱い思いを感じられると共に「来場者への安全」を優先し中止の判断となった事は「来場者第一」に対する思いがあるからでしょう。本年の現地会場での開催は叶いませんでしたが、オンライン会場での成功と来年の現地会場開催に向けて「大立山まつり~ちとせ祝ぐ寿ぐまつり」を楽しみに待ちたいと思います。

※「大立山まつり」の巡行時代については本文中でも触れましたが、あらゆる意見が存在しているこを承知しています。この記事はいたずらにこのイベントを叩くのではなく奈良のイベント史のひとつとして当時の資料や筆者の感想を基に記録し公開することを目的としています。行きつくした平城宮跡を非日常の空間に演出し楽しませていただいた大立山まつり巡行時代の関係者の皆様に心より御礼申し上げます。


参考文献

 大垣内立山保存会 http://ogaitotateyama.com/index.html

 大立山まつり https://hoguhogunara.jp/

 平成28年 奈良市観光入込客数報告(奈良市)https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/27437.pdf

「2016年をふりかえって」(荒井奈良県知事-奈良県公式サイト)https://www.pref.nara.jp/45992.htm

「「奈良大立山まつり」盛況のうちに閉幕」(奈良県 2016年開催報告)https://www.pref.nara.jp/item/152615.htm#itemid152615

「「奈良大立山まつり」の開催結果について」(奈良県 2017年開催報告)https://www.pref.nara.jp/item/173581.htm#itemid173581

「奈良県冬季誘客イベント「大立山まつり」実行委員会を開催」(奈良県 2017年報告と2018年計画)https://www.pref.nara.jp/item/180426.htm#itemid180426

「奈良県冬季誘客イベント「大立山まつり」実行委員会を開催」(奈良県 2018年計画)https://www.pref.nara.jp/item/189581.htm#itemid189581

「奈良大立山まつりの実施結果について」(奈良県 2018年報告)https://www.pref.nara.jp/item/191965.htm#itemid191965

「奈良県冬季誘客イベント「大立山まつり」実行委員会を開催」 https://www.pref.nara.jp/item/199547.htm#itemid199547(奈良県 2018年報告と2019年計画)

「第2回奈良県冬季誘客イベント「大立山まつり」実行委員会を開催」https://www.pref.nara.jp/item/205509.htm#itemid205509(奈良県 2019年計画)

「【レポート】古代~現代、奈良の素敵が集まった『大立山まつり2019 奈良ちとせ祝ぐ寿ぐまつり』」https://www.pref.nara.jp/52037.htm(奈良県 2019年報告)

「奈良県冬季誘客イベント「大立山まつり」実行委員会を開催」https://www.pref.nara.jp/item/215259.htm#itemid215259(奈良県 2019年報告と2020年計画)

「奈良県冬季誘客イベント「大立山まつり」実行委員会を開催」https://www.pref.nara.jp/item/220114.htm#itemid220114(奈良県 2020年計画)

「大立山まつり」https://www.pref.nara.jp/59777.htm(奈良県 2020年報告以降の実行委員会資料)

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