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ドトール

ドトール。注文をする女性。一度会計を済ませたが、ポイントカードを出し忘れたとかで、やり直しを求めている。カード決済なのでサインが必要になるなど、店員はややめんどくさそうだが女性は引き下がらない。手にはヴィトンのバッグがあった。

ドトールの地下階に席をとり、階段を上がってレジに向かう途中で、コーヒーを持ち階段を降りる老人とすれ違う。何か声をかけてもらっていたが、下を向いていたので気づくのが遅れ、割と普通の速度ですれ違うことになり、結果として老人は少しコーヒーをソーサーにこぼしてしまったようだった。

吉野家の歩道に面したカウンターで正面を見つめる男性が外から見えた。牛丼を待っているのだろう。何事かを考えているような、あるいは無に浸っているような、そういう目線で遠くを見ていた。ドトールに入ると、ガラス張りの喫煙室で禁煙席の方を見つめながら一服する女性がいた。女性の額がやけに光っているように見えた。

近所にドトールがあるのをマップで見つけて、けど公式サイトには店舗情報がなく、新しくできたのかと行ってみたら駐車場だった。ドトールの亡霊がマップに住みついていた。

ここのドトールはいつもグレープフルーツの芳香剤の匂いがするのだが、そうかいつも座る席の後ろがトイレだからか。

ドトールのコーヒー。味の感想を呼び起こさないコーヒー。意味のないコーヒー。ドトールのコーヒー。最高のコーヒー。

ドトール。隣にきた男女。初めまして、と始まったのでなんかTwitterでよくみるビジネス系の勧誘が始まるのかと耳をそばだてていたら、自営業の人がホームページ作成を依頼する健全な商談だった。いずれにせよ、こんな丸聞こえのとこで仕事の話ってどうなんだろうね。

スタバの洒落込んだ感じを忌避してドトールを選ぶ習性は恋愛への姿勢と相関してるなと思った。

ドトール。前回の帰り際に伝えておいた電気のチカチカは直っていない。

ガラガラのドトールでかなり深い話をしているらしい男女。「愛している人にはコーヒー飲んで生きていてくれてたらいい」「明日もし死ぬとしても」。お互い別のパートナーがいるっぽい感じ。

ドトールに行かなかった日にも「今日はドトールに行かなかったな」という仕方でドトールについて考えているので、くるとこまできている。

モスバーガーを食べようと近所の店舗に行くと店自体がなくなっており、助けを求めるようにドトールに入店、行き場を失ったバーガー欲を成仏させるために全粒粉バーガーなるものを頼んだ。

世界にはWi-FiのないドトールとWi-Fiのあるドトールがあり、空調が得意なドトールと空調が苦手なドトールがあり、コーヒーのサイズが3段階のドトールと2段階のドトールがある。ここはWi-Fiのない空調の得意な3段階のドトール。


ドトール。いつも通りブレンドコーヒーを頼んだものの、一口目でなんとなくきつく感じる。コーヒーフレッシュをとってきて入れることにする。蓋を開けると、液体が息を吹きかける前のシャボン玉のように蓋と容器の間に白い膜を作っていて、それを破ろうと容器を指でベコベコするが破れない。しかたなくそのまま容器を傾けてみると、液体が膜を破ってコーヒーに参加した。その光景は白い蛇が踊っているようにも、黒い海が踊らされているようにも見え、その白と黒の踊り踊らされのめくるめく能動と受動の運動は、ジャンルとしてはエロティックなものに属するのだろうと直感した。やがてその組んず解れつが一つの濁りとなり収束を迎えようとしたとき、海面にイレギュラーな波が立ったのは、隣席の男が席を立ったからだった。

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