疑心暗鬼の米国株 悪材料出尽くしでリバウンドの動きも


マネックス証券 岡元兵八郎 (ハッチ)

先週1週間のマーケットは、S&P500は1.2%の下げ、ナスダック100は1.05%の下げで終わりました。金曜日の寄付き前の非農業部門雇用者数は事前予想の31.8万人を上回る39万人を発表、金融引き締めは続くとの観測でこれまで上がっていた株価指数が売られる展開となりました。

企業のトップによる景気の見方は分かれる
市場の予想を上回った雇用統計とは裏腹に、先週は米国大手企業からJPモルガン・チェース(JPM)のジェイミー・ダイモンCEOやシティグループ(C)のジェーン・フレーザーCEO、家具大手RH(RH)のゲーリー・フリードマンCEOらが投資家に景気下降への警戒を呼び掛ける発言を行っています。
テスラのイーロン・マスクCEOも米国経済に「ひどく嫌な予感がする」(super bad feeling)とツイートしています。

一方、このような大企業のトップによる米国経済に対するネガティブな発言を受けゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファイン上級会長はこういった否定的な見方を「少し控える」べきだとツイートで呼び掛けています。ブランクファイン上級会長によると現在リスクは高まっている時だが、米国経済がソフトランディングする可能性はあると他のCEO達とは異なる指摘を行っています。

従業員を10%削減すると発表したテスラだが
テスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOは先週火曜日に従業員宛てにメールを送り、週最低40時間の出社を要請し、従わなければ「退職したと見なす」とし、ほぼ強制的に職場復帰を義務付けるという発表をしています。マスク自身は同社の工場で長時間を過ごし、製造ラインの従業員に彼が働く姿を見せており、こういう努力をしなかったらテスラはとっくの昔に破綻していたであろうとも述べています。
その後のことです、イーロン・マスクは同社が従業員の約10%を解雇する必要がある、ただし、工場で車やバッテリーパックなど生産業務に携わっている時給労働の社員数は減らさないと発表しました。
土曜日にはその内容を一転し「総人員数は増えるが、(このうちの)給与所得者は横ばいになるはずだ」とツイートしています。これは時間単位で雇用される工場関係労働者の採用数が増えるということを示唆していると受け止められます。

この一連の報道について、私はこのようなメッセージは、イーロン・マスクによるリモートで顔を出さない本社の社員に対するある意味の警告であり、マスク流の社員の気持ちを引き締めさせるための策なのではないかと思いました。
10%解雇のニュースを受けて株価が大きく下がったのは、他の大企業のマネジメントが米国経済の先行きについてネガティブな見方を発表する中、投資家によるテスラの販売台数が減るのではという懸念が原因だったと思います。これまで報道されたところでは、同社の工場での生産業務に関わっている社員数は減らさないということですので、テスラ車の売れ行きに対する懸念からくる株価の下落は行き過ぎではないかと思います。

株価が悪いニュースに反応しなくなってきている
マーケットの中は必ずしも悪い話だけではありません。
水曜日の引け後のことですが、マイクロソフト(MSFT)は、大幅なドル高により 4-6 月期業績見通し1株利益の見通しを従来予想の2.28-2.35ドルから、2.24-2.32ドルに下方修正したというもののです。このニュースを受けマイクロソフトの株価は寄り付きから大きく下げた始まったのですが、結局後前日の終値を超えて取引を終えたのです。
これは先週書いたことなのですが、5月25日に決算発表を行った半導体大手のエヌビディア(NVDA)も事前予想を上回ったものの、次の第2四半期の見通しについては売上が事前予想を下回った内容を発表しました。これを受け、引け後のエヌビディアの株価は一時7%を超えて下落したのですが、翌日株価は5%上昇して1日を終えたのです。
つまり、マイクロソフトやエヌビディアのような時価総額の大きな企業が悪いニュースを発表するも、株価の下げは一時的となり、最中的に株価はリバウンドし高く終わってしまう事例が散見されているのです。
これは今の株価は下がり過ぎの状況であり、悪いニュースに反応しなくなってしまったということなのではないでしょうか。

今週のマーケットのフォーカスは金曜日に予定されている5月のCPIです。4月のCPIは8.3%、食品・エネルギー除くCPIは前回の6.2%でしたが、今回はそれぞれ8.3%、5.9%が予想されています。

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