最強お助け魔女コンビ#06
ベッドでひんやりとした群青の毛布に包まれながらジーンは静かに興奮していた。見習い魔女のジーンは10人の人間を助けると一人前と認められ、さらに高度な魔法を教えてもらえることになっていた。ジーンの母親は魔女ではなかった。おまけにジーンは母親の名前も顔も知らない。生まれてすぐの時、マチルダの家の前に捨てられていたのだ。だからマチルダは優しいけど、母親がどんなものかジーンは知らない。
なかなか眠りにつけなくて、しばらくまどろんでいたら、窓のところでコツコツと音がした。ジーンの相棒、白ふくろうのボウルだ。ジーンは窓を開けた。ばさばさと羽音を立てて、白フクロウのボウルが中へ入ってきた。
「やあジーン、今日は秘密の集会には参加しないのかい?」とボウル。
すっかり忘れていた!今日は満月、中でもスーパームーンと言われるとても大きな月が浮かぶ日だ。ジーンは急いでほうきにまたがり窓から飛び出した。後ろからボウルがばさばさと音と立てて付いてくる。「マチルダが起きちゃう!静かに!」とジーンが小声で叫んだ。
目指すのはとんがり山にある広場だ。毎月、満月の日、魔法界中の見習い魔女がとんがり山に集まって、魔法の腕を披露して競い合う。その日一番の魔法を見せた魔女には、すばらしい賞品まで出るのだ。ただしこれは秘密。なぜなら、見習い魔女は、師匠の許可なしに魔法を使うことを禁じられているから。とにかく、ジーンは毎月この日を待ち侘びていた。今日、披露する魔法はもう決めてある。意地悪な相手の口を封じる魔法だ。
魔法界の時間で龍の時刻(夜1時)頃、ジーンはとんがり山に到着した。もうほとんどの魔女が集まっていて、火を囲んでボソボソと話している。ジーンは仲よしの魔女、サンドラの隣に座った。「こんばんは、サンドラ、もう始まったの?」とジーン。サンドラは「今3人が魔法を披露したところよ」と答える。ざっと見回して、20人ぐらいが集まっている。魔法を披露するのは到着順なのでジーンは一番最後だ。
4番目の魔女が前に出る。白い紙に自動で文字が書ける魔法を披露した。こんなの全然、珍しくない。魔法の本の呪文を覚えればいいだけだ。5番、6番手も無表情で見てたジーンだが、9番目の魔女が来て仰天した。なんと、見習い魔女なのに青い炎のドラゴンを出してきた!どうやって?呪文だけじゃないみたいだけど、ジーンは、ため息をついた。
これじゃ一番は取れないかもしれない。賞品を狙っていたのにな。心の中で呪文と魔法の手順をおさらいする。大丈夫、ボウルを相手にたくさん練習したもの。あと少しで、ジーンの番だ。意地悪な相手役はサンドラに頼んだ。
サンドラがジーンに悪口を言ったら、魔法の呪文とジェスチャーをする。このジェスチャーがすごく難しい。指で縦横斜め、丸、星を描いてから…あとは秘密だ。
ついにジーンの番が来た。ジーンは、燃え盛る薪の前に立って、サンドラを呼んだ。サンドラがジーンに悪口を浴びせ始める。ジーンは、ジェスチャーを完璧に再現して、呪文を唱えた。「イプタクチョナプンノム!」
すると!サンドラの口からたくさんのオタマジャクシが飛び出てきた。悪口を言う時に飛ばされたツバが全部、オタマジャクシになっている!口から飛び出るオタマジャクシを見て、周りの魔女たちが拍手を送った。「こんな魔法見たことないわ!」
最後の審査は投票で決まる。ドキドキして発表を待つジーン。投票用紙が読み上げられていく、青い炎のドラゴンが9票。ジーンのオタマジャクシが11票。ジーンが勝った!これで賞品がもらえる。
賞品は、一人前の魔女しか持てない最高級の水晶玉だった。魔法界の万年雪の中から採掘した水晶を削って作ってあって、町の古道具屋で買うと金貨30枚分もするのだ。
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