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最強お助け魔女コンビ#11

漁師小屋に入ったジーンは目を丸くした。みすぼらしい外観とは打って変わって小屋の中は、とても豪華できらきらしていたのだ。壁にはずらっと人魚の鱗で作った絵が飾ってある。ワイン色のビロードできたソファーセットに、ガラスのティーテーブルに、天井にはシャンデリアまでついている。

おじいさんは二人にソファーに座るように言うと、キッチンにお湯を沸かしに行った。ソファーに座った二人はきょろきょろを部屋を見回す。飾り棚にはおじいさんと若い男性の写真が飾ってあった。ジーンはその写真が妙に気になって、ソファーから立ち上がると写真を手に取りまじまじと見つめた。「あれ?この人どこかで見たことがあるわ。」

そこへおじいさんがお茶をおぼんに載せてやってきた。お茶はエメラルドグリーンの絵の具を溶いたような色をしている。ペティーは不安になってジーンにささやいた「ねえ、これって何のお茶、ほんとに飲めるの?」

「これは海岸の岩場に生えている岩のりをすってお茶にしたもので、とても元気が出るのだよ、だまされたと思って飲んでみなさい」とおじいさんが言う。エメラルドグリーンのお茶にはご丁寧にミルクでハートが描かれていた。ペティーは目をぎゅっとつぶってごくりと一口飲み込んだ。全然生臭くない、抹茶みたいな味がする!「おいしい!」とペティーが叫ぶとおじいさんは満足げにほほえんだ。

「よかったらこれもどうぞ」とおじいさんは、白いチョコレートのようなものを出してきた。「これは白鯨の身を干したものだよ、たまに人間界から魔法界に迷い込んでくる鯨がいるんじゃがそういう鯨はたいてい白色に変身してしまうんだ」白鯨の干し肉をかじるとミントやセージのような薬草のにおいがした。いかにも体によさそうな味がする。

お茶を飲み終えたジーンは、本題に入る前に、あの写真の青年が誰か聞いてみたくなった。少しもじもじしてからジーンは写真を指さして「あの青年は誰ですか?見覚えがあるんだけど」と尋ねた。

「ああ、あの青年は、人魚姫と恋に落ちた王子の子孫でね、たまにやってきて、わしを手伝ってくれるんだ。一目でいいから人魚がみたいと言ってね。もう何年も通ってきてくれているが、まだ一度も人魚には会えていないよ」

「人魚ってよく捕れるんじゃないんですか?」とペティーが口を挟む。
「人魚たちは、とても用心深いんだ、なかなか海の底から現れないし、よほど気が向いた時でないと海面にも姿を見せない」
「人魚を捕まえてどうするの?食べちゃうの?」
「いやいや、そんなことはしないよ、鱗を少し分けてもらったらすぐ放してやるのさ。この鱗は万病に効くと言われていてね、魔法界ではとても貴重なものなんだ」

「おまえさんは、人魚の捕まえ方を知っているかい?」とおじいさんがジーンに聞いた。
「特別な網とえさがいると聞いたわ」とジーン。
「そうそう。人魚はすぐに網を破って出てしまうから、とても頑丈な網が必要なんだ、だから白鯨のひげで編んだ網を使う。さっきも言ったが白鯨は人間界から迷い込んできた鯨だから、そのひげもたまにしか手に入らない。えさは人魚の好きなにおいのするあめ玉じゃよ。人魚はとてもおしゃれでな、いいにおいのするあめ玉をネックレスにして首にかけるのを好むんじゃ。ただそれは特殊な香料を使ったあめじゃないとダメでな。その香料は実は人間界からもってきてもらっている」

ペティーは心の中でこう思った。「あめ玉!そんなものでおびき寄せられるなんて思ってもみなかった。お菓子なら私の得意分野なんだけど」
「おじいさん、実は500年生きたコイを捕まえるために、人魚の網が必要なんです、貸してもらえませんか?」
それを聞いておじいさんはとても困った顔をした。「うーん、今は予備の網がないんだよ、どうしたものか…」

すかさずペティーが言う。「おじいさん、私、人間界から来たんです。そしてお菓子のことなら詳しいから、人魚のえさに使うあめ玉も手に入れられると思います」

それを聞いておじいさんの顔がぱっと明るくなった。「それはありがたい。人間界から取り寄せるのは手間がかかるから、あめ玉の在庫がなくなったらどうしようと思っていたんだ」おじいさんは立ち上がると、戸棚から凝った銀細工の箱を取り出した。

「ここは何でも豪華だわ、人魚の鱗ってそんなに高く売れるのかしら」とジーンはつぶやく。

どんなあめ玉だろうとペティーがのぞき込むと、それはペティーもよく買うチュッパチャップスだった。これなら安いから、私の貯金でも箱買いできる!やせるためならこれぐらいの投資はなんてことない。

「おじいさん!網を貸してくれたら、おじいさんが必要なだけ飴を持ってきますよ」とペティー。おじいさんは「それなら」と思ったよりすんなりオーケーしてくれた。

「実は今、人魚漁はしばし中断しているんだ。人魚たちは今が産卵期で滅多に海底から上がってこないんだよ、人魚は大きな貝殻に卵を産むのさ」
そう言って、おじいさんは倉庫に網を取りにいくからと出て行った。ペティーとジーンは、これで一安心と白鯨の干し肉をほおばった。


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