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最強お助け魔女コンビ#07

作戦初日

翌朝、ジーンはいい気分で目覚めた。今日も群青の毛布は底冷え加減がいい具合だ。しばらく、ひんやりとした感覚を味わってからジーンはベッドから出る。

キッチンでは、マチルダが朝食を作っていた。メニューはマチルダ特製のパンケーキ。むらさき人参とエシャロットをすりおろして粉に混ぜ、卵とヤギの乳で溶いた生地を焼き、悪魔のキスという特別な唐辛子を使ったソースをかけて食べる。レモンバームも刻んで添えると絶品だ。おまけに今日は鈴カボチャのポタージュまである。

ジーンはカウンターに座って、マチルダが料理するのをじっと見ていた。マチルダが言う。「ジーン、ちょっと盛り付けを手伝って私はその間にエイドを作るから」今日のエイドに入るのは、乾燥芋虫の粉、ツル人参、せんにん草と、庭で取れたプラムのエキスだ。上にはきんかんの輪切りを浮かべる。

マチルダが戸棚を開け、がさごそと材料を探している間に、ジーンは手早くパンケーキを盛り付けた。ソースは小皿に取りわけておく。魔法の炭酸注入器で炭酸を入れるとエイドは完成。「さあ、食べましょう」とマチルダ。ジーンは、リビングの赤い白黒テレビをつける。今日はついに、ペティーのダイエット作戦が始まる日だ。ペティーは放課後、呪文を唱えてバスルームのドアからこちらに来ることになっていた。人間界とは時間の流れ方が違うから、契約を交わした日から、3日経っている。

テレビの中のペティーは、学校から帰る途中だ。おなじみのお菓子屋さん前を通っても、今日は買い食いを我慢して横目で通り過ぎていく。そろそろ来るってことね、早く朝食を食べなきゃ!

ジーンは、まず目の前に置かれたエイドを一口飲んだ。突然、体がぴょんと跳び上がり、ウキウキした気分になった。今日のカプセルはどうやら「有頂天味」らしい。作戦開始の日にはピッタリだ。

ジーンたちが朝食を食べ終わった頃、突然玄関の木戸が光りだした。ついにペティーが来るようだ。ジーンは、食べ終わったお皿を流しに突っ込むと、慌てて木戸の前に立った。

「ようこそ!」と、ジーンはペティー出迎えた。二人ともぎこちない笑顔。マチルダだけがニコニコと優しくほほ笑んでいる。

ジーンはペティーをソファーに案内する。第一の食材は黄金ガエルの卵だ。そのためには朝早く、朝顔の妖精に会って、卵の在りかを教えてもらう必要がある。それも、夜、最後の星が消えた瞬間に、霧が出ているという条件の日に。

実はジーンは、霧を出す魔法をまだ習得していなかった。今日は、ペティーと霧を出す練習からしないと。ひとまず、外に出て、朝顔のある場所に行ってみよう。

ジーンはペティーを庭に連れ出した。マチルダが丹精込めて手入れをしている庭には、様々な薬草と野菜、果物の木があった。ペティーは珍しそうに庭を見回す。「見たことのない草ばかりだわ」「これっておいしいの?」と聞くペティー。

「マチルダは料理が上手で何でもおいしく作ってくれのよ、ただ人間の口に合うかは分からないけど」「お菓子も作れる?」とペティー。「もちろんよ、マチルダの作る黒スグリと巻角黒ヤギのミルクのパイは絶品よ、隠し味に、ぴりりとしたヤギの角の粉が入ってるの」ペティーはイマイチぴんとこんなかったけど、ひとまず「おいしそうね」と相づちを打った。

庭を抜けると、森の入り口だ。朝顔の生えている虹色広場は、森の入り口から左に曲がり、暫く歩いたところにあった。幸い、まだ朝顔はしぼまずに咲いている。

「この朝顔にその妖精が住んでるのね?」「そう、でもすごく恥ずかしがり屋で、昼間は出てこないし、早朝の霧が深い日にしか会えないのよ」

周りを見回すと、キノコもたくさん生えている。でも色が黄色と紫だ!毒きのこかな?ペティーはそう思った。「このキノコは何?食べられるの?」
「ええ、これを乾燥させてシロップ漬けにしたものを食べると、すごく頭がスッキリするの」「少し採っていこう」二人はしばらく夢中になって、キノコを採った。都市育ちのペティーは、キノコ狩りなんて始めての経験だ。

二人は両手いっぱいにキノコを採って、ゆらゆら屋敷に戻っていく。帰り道、人間界では見たこともない動物をペティーはたくさん見かけた。リスと狸が混じったような動物。カンガルーよりも小さくて尻尾が短く、目がくりっとした動物。オウムのような頭をした7色の羽根を持つ鳥。ケンタウロスの後ろ姿まで見かけた!

屋敷に戻った途端、ジーンはペティーの前で、霧を出す魔法の練習を始めた。マチルダが教えてくれたように、呪文を唱え、ジェスチャーをする。杖を右へ3回、左へ3回回したあと、足踏みを4回、ジャンプを3回する。そして「アンゲナワラ!」と唱える。適当じゃダメなのだ。マチルダが教えてくれた通りにステップを踏まないといけない。運動音痴のジーンにはそれが苦痛だった。今まで何百回も練習したのにダメだ。自信を失いかけた時、ペティーがこう言った。「音楽に合わせてみたら?」

そうか!それならできるかも、ジーンはラジカセに入れっぱなしのテープをかける。「ボン・ジョヴィ」の曲が流れ出し、それに合わせて思いきり腕と脚を動かすジーン。最後に、「アンゲナワラ!」と音楽に負けじと力の限り叫んだ。その途端、部屋中が白いもわもわとした霧に包まれた。大成功だ!

これで明日、ちゃんと霧を出せる。霧を消す魔法を唱え、さらに何度か霧を出す練習をした。その夜、いったん戻ったペティーは、魔法界が朝になる前に来ると約束して、木戸からペティーの部屋へ戻っていった。

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