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最強お助け魔女コンビ#03


悩める乙女
 
スマホで見つけた、レビュー4・4のスイーツのお店。虹色のパンケーキにフワフワの生クリームがどっさり乗っていて、果物のトッピングもおいしそう。パンケーキのお皿の写真を撮ってから、口いっぱいに広がる甘い味に笑みを浮かべていたペティーは、斜め前に座っている2人組を見てハッとした。

隣のクラスのアレックスとその友達だ。男の子2人でスイーツの店なんて珍しい。だが、そんなことはどうでもいいのだ。2人を見たペティーは時間が止まったかのように固まっていた。

実はアレックスは、ペティーが好きな男の子。金髪にそばかす、素朴な感じのルックスだが、今どき珍しい心優しい少年なのだ。ペティーが通学路を歩いていた時、重い荷物を持ったおばあさんに「それ、持ちますよ」と声をかけているのを何度か見かけた。

いつも他の男子に太った体型のせいでからかわれているペティーだが、その子は一度もからかったことがない。(無関心なのかもしれないが)

ペティーは一気に食欲がうせるのを感じた。だって、パンケーキの他に、大きなイチゴのパフェまで注文していたのだもの。モリモリ食べる姿を見られたら恥ずかしい。ペティーは冷や汗をかきながら小声で店員を呼び、パフェをキャンセルした。

幸い2人はペティーには気づいていないようだ。ペティーはなるべく目立たないように体を小さくして急いでパンケーキを食べ、そそくさと席を立った。

外から店内をのぞくとアレックスたちはおいしそうにパンケーキをほおばっている。あの子と一緒にスイーツのお店を回れたらいいのに。でもそんなのかないっこない。だって私は可愛くもないし、こんなにデブだもの。と、うなだれているペティーの横を、クラスメートの意地悪な男子、イーサンが通る。

イーサンは通りすがりに、「また食ってるのかよ、デブ」と言って、バカにしたように鼻で笑った。ペティーの幸せな妄想は風船みたいにパチンと割れてしまった。

いつもならそこで諦めていたペティーだが、ふと「絶対にアレックスとニューヨーク一の人気店に行きたい!」という思いが強くわいてきた。

その頃「ゆらゆら屋敷」では、マチルダとジーンが一緒にペティーの様子を見ていた。ジーンは恋が何なのか分からない。感情が乏しいのだ。だから感情豊かな人間界の本や漫画をたくさん読んでいるけれど、やっぱりピンと来ない。

そんなジーンとは違い、マチルダは目をキラキラさせながら「いいわね~恋って、昔を思い出すわ」とうれしそうだ。マチルダの旦那さんは人間だった。今はもういないけど… だから人間界にも興味を持っていて人間界の料理も得意なのだ。「魔女と人間の世紀の恋!」話が始まると長くなるので、ジーンはあえて突っ込まない。

その時、白黒だったテレビ画面がピカピカッと光り、一瞬カラーになった。これが合図だ。人間が本気になると、一瞬だけ画面がカラーになる。私たちはその瞬間を見逃さず、テレビの中の人たちの悩みを解決すべく「ゆらゆら屋敷」への招待状を送る。

もう何か月も見守ってきたペティーにも、ついにその瞬間が来たのだ。マチルダとジーンは、キッチンのテーブルに座って本格的な作戦会議に入った。

まずどうやってペティーの恋を応援するか。やっぱりダイエットが必要だ。ひとまず魔法界でダイエットに効く食材を選ぼう、そう思って魔法界辞典を開くジーン。

「痩せる食材」の項目を開くと「黄金ガエルの卵」「500年生きているコイ」「細くなるパンの実」、この3つが目に飛び込んできた。

そのページには、ご丁寧にどこでどうやったら手に入るかという採取方法まで記されている。「黄金ガエルの卵」の在りかを知っているのは、朝顔に住む妖精だけで、その妖精に会うためには、夜最後の星が消えた直後、霧の出ている朝でないといけない。朝顔の妖精はシャイで明るい中には出てきたがらないのだ。でも霧の出ている日なんてそうそうない。ということは、ジーンが霧を出す練習から始める必要がある。

魔女見習いのジーンができる魔法は、ほうきに乗ることと、指をパチンとならしてモノを呼び出すことだけだった。

次に「500年生きているコイ」を捕まえる方法だ。なんとそのコイを捕まえるには特別な網が必要、と書いてある。人魚を捕まえるための網で、人魚漁師のおじいさんに頼みにいかないとダメだ。しかもそのおじいさんがいる港は、ここからかなり遠くにある。ほうきで行くのは体力的に無理だから、行き方をまず考えないと…

最後に「細くなるパンの実」。これは魔女たちも入ったことのないスペードの森に生えている。スペードの森には、磁石が埋められていて入った人たちの方向感覚を狂わす。まずはスペードの森の地図を手に入れる必要があった。

ジーンはため息をついた。これは一筋縄ではいきそうにない。「どうする?」とマチルダ。ジーンはしばし眉間にしわを寄せて考えてから、「やるわ」と答えた。そうなると、まずは招待状を書かなきゃ。魔法の招待状だ。

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