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最強お助け魔女コンビ#09

エメラルドの湖

汽車の車掌さんは、とても太っちょで真っ赤なほっぺをしていて、一瞬ロバの耳のようなものが見えた気がした。ジーンが小声で、「魔法にかかってあんなに姿になっちゃったのよ」と教えてくれた。

特急列車は2時間ほどでエメラルドの湖のあるカイドーフ駅についた。下りたのは2人だけだ。2人は、そこから馬車で湖まで向かった。黄金ガエルは湖の湿地に生息しているのだけど、人を恐れてなかなか姿を表さない。ただ、青トンボが大好きで、青トンボをつかまえて釣り竿にくくりつけて湖にたらすと、すぐに食いつくらしい。

ということで2人はまず青トンボを用意した。どうやって?もちろん虫取り網で採るのだ!幸い青トンボはいたるところにいる。ただ、素早くてすぐ逃げてしまう。ジーンはパチンと指をならし、まだら猫を召喚した。まだら猫は素早くトンボを捕まえてくれた。 

早速、湖の畔で釣り竿を垂らすジーンとペティー。しばらくすると、黄金ガエルがすーっとあちこちから泳いで現れた。でもあたしたちが欲しいのは黄金ガエルの卵だ。すると、一匹のカエルの脚に卵がゆらゆらとくっついているのが見えた。卵は黒くて黄色いジェルに包まれていた。光りの加減では銀色にも見える。2人は釣り竿に引っかかったカエルを網ですくって、無事卵を手に入れた!

エメラルドの湖の前では、珍しいピンクの岩塩も売っていた。これを卵と一緒に料理したらおいしそうだ。2人は塩も手に入れて意気揚々と帰りの列車に飛び乗った。

ゆらゆら屋敷についた頃には、日がとっぷり落ちて暗くなっていた。マチルダは待ちくたびれて寝てしまったようだ。調理法を聞かないといけないから、卵を料理するのは明日になる。仕方ない、ペティーはまた木戸を通って家に戻っていった。朝早くから動き回ったせいで、ジーンもクタクタだ。お風呂に入って眠りたかった。

ジーンはバスルームに行って、お湯を張ると、湯船にマチルダ特製の薬草袋を浮かべて体を沈めた。このままブクブクと沈んでいってしまいそうだ。人間世界を見ていて一度やってみたいと思ったのがお風呂に入ることだった。暑いのが苦手なジーンも、これだけは気持ちいいと思う。

お風呂から出たジーンは、バスローブのままベッドに倒れ込んで寝てしまった。その夜、ジーンは珍しく夢を見た。一人前の魔女になって、弟子にいろいろと教えている。でも、弟子の前で失敗して恥ずかしい思いをした。こんな時、悩みを打ち明けられる友達がいたらいいのに、と思った時、目が覚めた。

珍しくボウルがそばにいる。無意識に召還したらしい。ジーンの唯一の友達がボウルだ。ボウルの頭をひとなでして、ジーンはキッチンに向かった。昨日採ってきた黄金ガエルの卵はちゃんとある。そうだ!調理法も辞典に載っているかもしれない。

さっそく辞典を開いた。「黄金ガエルの卵…。岩塩を溶いた塩水に浸してから、さっとゆがいてパスタなどに絡めて食べる。ダイエット中の人は、卵をソース漬けにしてから、野菜と一緒に食べてもいい」湯がけば食べれるのか…ペティーのためにサラダにしようかな。とジーンは思い立った。

キッチンに立つと後ろからマチルダが近づいてきた。「ジーン早いのね、どうしたの?」ジーンは「黄金ガエルの卵を調理するの」と答える。ジーンに、「あら、だったらパイにトッピングして食べるのが一番よ、プチプチ感がたまらないわ」とマチルダ。

どうしようパイだとカロリーが… じゃあ昨日撮ってきたキノコも入れてキッシュにすればいい!マチルダとジーンは、キノコキッシュの用意に取り掛かる。お湯を沸かして、さっと卵を茹でて…すると、卵は銀色に変わった。

なんてゴージャス!これを食べたらデトックス効果がありそうだ。その横で、マチルダが七面鳥の下準備をし始める、突然食べたくなったらしい。塩と黒ヤギのバターをすり込んだあと、おなかに香草をつっこんで丸焼きにする。ジーンは少し顔を曇らせ「大丈夫かな、パティーも食べたくなっちゃいそうだけども」と考えた。

キッシュは順調に仕上がり、刻んだキノコとハーブ、鶏卵を混ぜた生地に、銀色の卵を一面に敷き詰める。あとはオーブンでこんがり焼くだけだ。

最後の料理ができあがった時、ちょうど木戸が光った。魔界時間の水晶の時間(朝9時)ペティーと約束をした時間だ。食卓のテーブルにはマチルダが張り切って作った料理がずらっと並んでいる。七面鳥の香草焼き、魔界の木の実、ドリアンのような香りのする紫芋でできたアイスクリーム。イノシシ鹿の肉をワインで煮込んだシチュー。タロイモのフライドポテト。いつの間にこんなに作ったの?とジーンも驚くほどだ。

真ん中には黄金ガエルの卵のキッシュがでんと置いてある。ペティーは駆け寄ってきてくんくんと匂いを嗅いだ。いろんな香りがしてなんておいしそうなんだろう!無我夢中でほおばっているうちに、ペティーのおなかはパンパンになった。おかしいな、ダイエットをするために卵を取りに行ったのに、一気に体が重くなった気がする。すかさずジーンがこの黄金ガエルの卵はじわじわとデトックス効果が現れるの、と言った。

お皿はどれも空っぽになり、3人は出っ張ったおなかをなでながらソファーに座った。ゆらゆら屋敷の窓からは、風に揺れるパンジーやチューリップが見える。3人はとても満ち足りた気分だった。そろそろお皿洗いをしなきゃね!とマチルダが言い、ジーンはペティーと次の食材を取りに行く計画を立て始めた。

次に採りにいくのは『500年生きているコイ』だ。まずはコイを捕まえる特別な網が必要で、人魚漁師のおじいさんに会わなきゃならない。人魚漁師は、サメ海岸にある港にいる。その昔、王子様と人魚の悲恋が起きたあの海岸だ。

ゆらゆら屋敷からサメ海岸までは、馬車で行くと1週間はかかる。どうしたものか… そこへマチルダが登場した。「龍の背に乗っていくのはどう?」「知り合いの龍使いに頼んであげてみてもいいわよ」と、すぐに龍使いに電話をするマチルダ。

魔法界の電話はいまだに黒電話だ。ジーコジーコとダイヤルを回すと交換手が出てきた。「龍使いのデルタにつないでちょうだい」、「かしこまりました」

すぐにデルタの声が聞こえた。ガラガラ声で「ごきげんよう、マチルダ」と言っているのが聞こえる。マチルダが用件を伝えると、ちょうどバカンスから帰ってきたばかりで時間があるからと快く引き受けてくれた。午後から出発することになった、龍の背に乗ればひとっ飛びで、サメ海岸に到着する。人魚漁師のおじいさんにすぐ会えるといいけど。

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