見出し画像

最強お助け魔女コンビ#12

虹のかけら

その晩、木戸から部屋に戻ったペティーは、ベッドの中で明日チュッパチャップスを買いにいかなきゃと考えていた。今日はほんとに楽しかった。初めて龍にも乗れたし、あの漁師のおじいさんのおうちで飲んだお茶もおいしかったな、と考えているうちに、ペティーは眠りについていた。その夜、ペティーはジーンと一緒に雲の上をぴょんぴょん飛びながら、虹のかけらを集める夢を見た。夢の中で見たジーンはいつもの無表情ではなく、無邪気な笑顔で虹のかけらを集めていた。

次の朝、いつものように学校に行く準備をしていたペティーは、鏡に映った自分の姿を見てハッとする。あれ?前よりそばかすがなくなってる気がする?しかも毎朝、むくんでひどい顔なのに、むくみも減っている。マチルダおばさんがこっそり持たせてくれた魔女専用のパックのおかげかもしれない。実は、ジーンが見ていない時、マチルダおばさんが「これはジーンにも見せたことがないのよ、おほほ」と言いながら、魔法界の美容院でだけ売られている特別なマスクパックをくれたのだ。魔法界の文字なので説明書きは読めないけれど、マチルダおばさんいわく、例の白雪姫に出てくる継母の魔女も使っていたマスクパックで、めちゃくちゃ効果があるんだとか。「私もこのマスクのおかげでこの美貌を保っていられるの」と言ってたから全然期待してなかったけど。

このマスクパックは、何度も繰り返し使えるらしい。人間界で売られているようなビニールパックに入っているのではなく、漆塗りの箱みたいなものに紫の美容液がひたひたに入っていて、そこに黄金の布で作られたパックが入っている。本当なら金貨10枚を出さないと買えないのだが、マチルダおばさんは美容院の常連だから1つおまけでもらった、という話の最中にジーンが戻ってきたので詳しい成分のことは聞けなかった。

ペティーが鏡から目を離せずにいると、「ペティー、そろそろ朝食を食べないと遅刻するわよ」というママの声が聞こえた。まあ、とにかくきれいになったならいいや、とペティーは慌てて洋服に着替えて部屋を出た。

ペティーのママは日本人なので毎朝、朝食は和食なのだ。今日は焼き魚とサラダ、雑穀ご飯、豆腐の味噌汁だった。おでぶさんのペティーのためにできるだけ健康食をと、ママは一生懸命考えてくれている。しかし毎日、お菓子屋さんに寄っておいしいスイーツを食べているのだから、体重は減るわけもなし。ママを悲しませるのはイヤだから、ママには内緒でお小遣いをお菓子につぎ込んでいる。

朝ご飯を食べながら、今日はどんなお菓子を食べようかなとそればかり考えているペティー。「そうだ、今日は人魚漁師のおじいさんにあげるチュッパチャップスをたくさん仕入れるんだった。お小遣いだけじゃ足りないもしれないから銀行で貯金も下ろさなきゃ」

ウキウキしながら学校へ向かっていると、この前ペティーをからかったイーサンと出会った。いつもなら「今日も相変わらず不細工だな、デブ」と嫌みのひとつも言って通り過ぎるのだが、今日はペティーの顔をちらっと見てそのまま行ってしまった。「何だろう?これも魔法界のパックのおかげかしら」と、ペティーは気分がよくなった。

放課後、スイーツ店『フォンダン・ジョン』に入ったペティーは、一目散にチュッパチャップスのある棚をめがけて進んだ。「1箱で足りるかな?」と考えていると、お店のドアが開いて、なんとペティーが片想いするアレックスが入ってきた。それもかわいい女の子と一緒に!女の子は、隣のクラスのアニスだった。小顔で金髪。お肌がつやつやしていて、遠目に見てもキラキラしているのが分かる。それに比べて私は… 肌はニキビだらけでそばかすまである。いくら痩せたってアニスみたいにかわいくなんてなれるわけがない。なぜママは私をこんな不細工に生んじゃったんだろう。ペティーの周りにだけ黒雲が立ちこめ、今にもどしゃぶりになりそうな雰囲気だった。ペティーは、チュッパチャップスの箱を戻すと、楽しそうにお菓子を選んでいるアレックスとアニスの後ろを音を立てないようささっと通り過ぎた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?