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最強お助け魔女コンビ#01

ゆらゆら屋敷

「ボーン、ボーン…」時計の針は魔法界時間の朝8時(鶏の絵)を指している。ここは魔法界でも最も深い森の中にある魔女の家。
その家は、深い谷間そばギリギリの所に立っていて、今にも落ちそうでゆらゆらしている。樹齢何千年もの木の太い枝を使って作られてるから、どこを歩いていてもギシギシと音がする。
ジーンは寝室で、冷え切った群青色の空から抜き取った染料で染めた、最高級のクモの糸織りの毛布を頭からすっぽりかぶっていた。
「このひんやりと底冷えした毛布が最高…」
ジーンはしばらくそのひんやり感を味わってからリビングに出る。リビングはキッチンと繋がっていて、キッチンには大きなオンボロ冷蔵庫がデンと置かれ、コンロの前には、ブリキで出来たボコボコのフライパンと大小の鍋がいくつか吊るされている。
その横の調理台には古いガラスのミキサー、エスプレッソマシーン、妙にピカピカしている炭酸注入器が置かれていた。
ジーンは満足そうにリビングを見回すと、パチーンと指を鳴らして猫型のスケードボードを召喚し、今にも壊れそうなアンテナがくっついた赤いアナログの白黒テレビに座った。最近ずっと観察してる人間界のペティーを見るためだ。

テレビをつけると、放課後、帰宅中のペティーが映し出される。ペティーは、ニューヨークに住む高校2年生。かなりぽっちゃりで眼鏡をかけ、金髪を長くたらし、ふっくらしたほっぺを隠している。
ペティーは今日もお菓子屋さんの前で立ち止まる。行きつけのそのお菓子屋の名前は『フォンダン・ジョン』
パステルカラーの水色のオシャレな壁、真ん中には大きなショーゥインドウがあって、プレゼント用にクリームでデコレーションされたカラフルなカップケーキやマフィン、スコーンなどが並べられている。
ショーウィンドウに飾られた色とりどりのカラフルなお菓子。赤や黄色、緑のポップキャンディー。スイカ型のキャンディーや傘の形をしたチョコ。
中でもペティーの最近のお気に入りはピザの形をかたどった本物そっくりのピザのグミ。シリアルの混じったチョコバーはじゃりじゃりして歯触りが悪いからあまり好きじゃない。チョコバーはとろりとしたタフィーが入っているのが一番だ。

彼女のお小遣いのほとんどはお菓子に費やされる。ペティーの日課は学校帰りに買い食いをすることだ。友達はコスメや洋服、アイドルに夢中だけど、そんなものに見向きもせずお菓子一筋なのだ。

今にもヨダレを垂らしそうな顔でお菓子を見ているペティーを見て、ジーンは大きなため息をつく。そこへマチルダがやってきた。彼女はジーンの大おばで、ジーンが一人前の魔女になるまで面倒を見ている最中なのだ。
「おはよう、ジーン、また朝ご飯も食べないで彼女を見てるのね。」
と、マチルダが言う。
マチルダのトレードマークは小さな丸眼鏡。銀髪を結い上げ、頭のてっぺんでおだんごにしている。いかにも人間たちが想像しそうな優しい魔女だ。
ただし、彼女もかなりのおデブさん。それには理由がある。マチルダは食べることが大好きなのだ!
ジーンに声をかけてマチルダはキッチンへ向かった。朝のお決まりのメニュー…新鮮なアオガエル、崖に生えている赤いヒラタケ、家庭菜園から採ってきた黄色いロックローズと、ピンクの西洋のばらのエキスを混ぜたものに、炭酸を入れたエイドを作るためだ。
ガサゴゾと戸棚を捜して、マチルダは、その日の気分に合わせたエイドを作る。でも、正直、おいしくはない。
ジーンは、甘いジュースのほうが好きなのだ。たとえば、砂糖漬けにしたケシの花のエキスをオレンジジュースで割ったような!
人間界からたまに調達してくるオレンジジュースは最高だ。それよりもおいしいのはコーラ!あれはやみつきになる。
話が脱線した。マチルダは、ちゃーんと2杯分のエイドを作って、ジーンにどうぞと手渡す。
魔法の炭酸注入器はほんとに優れものだ。特注のカプセルがいろいろあって、単なる炭酸じゃなく「フワフワ味」「有頂天味」「プンスカ味」「ルンルン味」「めそめそ味」「ガルルル味」「しんみり味」「絶望味」など32種類のカプセルから選べて、その時なりたい気分になれる。
一口飲んだジーンは突然、どーんと崖から突き落とされたような気分になった。今日のマチルダは絶望味の炭酸を入れちゃったようだ。

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