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段下さんちの読書録②とうとうPIXARが僕を泣かせたという話

これはもはや「後世に伝えるべき歴史的文献」

僕はビジネス書が好きだと公言している。この「PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」もそういうつもりで読んだ。

ビジネスを知らない人、興味のない人は、もしかしたらトイ・ストーリー始め「アナ雪」や「ファインディング・ニモ」など数々の名作を生んだピクサーというアニメ会社が株式公開するまでの長い間、あのスティーブ・ジョブズによって自腹で支えられていたことに驚くかもしれない。

ジョブズの伝記を読めばまず間違いなく彼の系譜の中の重要なターニングポイントとしてピクサーが出てくるのでファンなら知らない人はいないだろう。ちなみに僕は彼のファンではないので恥ずかしながらこの本を読むまで知らなかった。逆にいえば、それはそれでとても新鮮な気持ちで最後まで読みすすめることが出来てお得だったと言えるか。

さて、この本の主人公は著者でもあるローレンス・レビーである。あなたの浮かべるあらゆるローレンスや、Google入力の予測変換に出てくるどのローレンスとも違う。きっとあなたの知らないローレンスのはずだ。

ローレンス・レビーはジョブズの誘いからピクサーでの最高財務責任者を努めた人物で、凄腕弁護士としての経験を活かしピクサーが今日の軌道に乗るまでの波乱万丈を影で支えたすごい人だ。本書は彼自身や彼の家族によって、相当過去から始まる(94年頃まで遡る)話にも関わらず、昨日の事のように相当に解像度の高い会話や背景を交えて進んでいく。訳者後書きにもあるように、「まるでジョブズと友人になったかのよう」な錯覚すら覚える。とどのつまり、これは確かにビジネス臭い用語(IPOだのストックオプションだの特許訴訟だの)の多い物語ではあるが、もはや僕にとっては小説だった。イヤ、ノンフィクション小説だった。ともかく、本書はローレンスの驚異的ともいえる記憶力を元に書き起こされた、唯一無二の追体験ができる唯一無二の本だと胸を張って言える。

見どころは沢山ある。唯我独尊のレッテルを持つジョブズの意外な素顔が見れるし、ローレンスとの友情がどのように育まれていったかが見れる。株式公開に漕ぎ出すまでにどんな障害があって、どんな人物の力を借りて乗り越えたか。それまでにも、どんな時、誰の力を、どのように借りたのか。信頼を勝ち取っていったのか。そして、なぜディズニーに買収される道を選んだのか。その時、二人はどんな会話をしたのか。ジョブズとの別れ、ピクサーとの別れ。

余りにもジェットコースターのように、ピクサーという会社がまるで生きているかのように生き生きと駆け抜けていったために、ディズニーに買収された後の話が蛇足のように思えてしまったほどだ(もしかすると、しかしそれもまた人生というやつなのだと教えてくれているに過ぎないのかもしれない)。

ちなみに僕はタイトルにもした通り、物語上のクライマックスを迎えたところでボロ泣きしてしまった。この本がそういう意図で作られたのではないであろうことはくれぐれも明記しておきたいし、これを読んでるあなたが同じような感想を持つかはかなり怪しい。僕が特異なだけだと思うが、それだけジョブズとローレンスの、そして何より台詞なきピクサーのクリエイター達の大願が果たされたことにグッと来てしまった。全力でやり遂げることのなんと尊いことか、僕も彼らのように生きれるだろうか?そう思ったら色んな感情が堰を切ったようになって、もうめちゃめちゃ涙が止まらなくなってしまった。

あなたによってこの本がどのように紐解かれるのか、今から楽しみでならない。

「無限の彼方へ!さあ行くぞ!」

読んでくれてうれしいです。