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Ami 第 1章 アミとの出会い①

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おばあちゃんと、ほぼ毎年休暇に行く、静かで小さなビーチタウンのある夏の夕方に、すべてが始まりました。
僕たちは、郊外にあり、海に近く、ビーチに続く小道を入ったところにある、いつも同じ木造のキャビンを借りています。
中庭には数本の松と茂みがあり、その先には、花でいっぱいの庭があるのです。
おばあちゃんは、夏の終わりに静かでリーズナブルなこの場に行くのを、とても楽しみにしています。
暗くなり始めた頃、僕は一人、寂しい浜辺の高い岩の上で海を眺めていました。
すると突然、空に強い赤い光が色を変えながら降り注ぎ、火花を散らしているのが見えたのです。
最初は、花火のロケットか何かかと思いましが、それが低くなってくると、そうではないことに気付きました。
飛行機かもっと大きなものだったからです。
それは音を立てずに海岸から50メートルほど離れた、僕の目の前の海に静かに落ちていきました。
完全な静寂だったにも関わらず、僕は一種の航空事故を目撃したのかと思い、空にスカイダイバーを探しまたが、誰もおらず、海岸の静寂と静けさを乱すものは何もありませんでした。
何か見えるかと少しの間待ってみましたが、何も見えません。
そして「あれは隕石のようなものだったのだろう」と思い始めました。
しかし、何であれ、あまり穏やかな気持ちにはなれず、不思議な感覚が漂っていたので、家に帰ることにしました。
帰ろうとしたら、落下地点に何か白いものが動いていているのです。
よく見ると岩に向かって人が泳いできているようでした。
これは航空事故に間違いないと思いました。
悲劇の生存者が近づいていることにナーバスになり、どうしたらいいのかわかりませんでした。
他の人を探しましたが、誰もいません。
その場で待つか、水際の岩場に降りて助けるか迷いましたが、高さがありすぎて、降りるのに時間がかかりそうでした。
しかし、その人が元気で速く泳いでいるところを見ると、健康なのだと思いました。
近づいてみると、髪は白いものの、男の子のようでした。
岩場にたどり着き、水から上がると、少年は僕に親しげな表情で微笑んだのです。
溺れずにすんだことを喜んでいるのでしょう。
状況は、彼にとって劇的なものには見えませんでしたし、それは僕を少し落ち着かせました。
彼は、機敏に岩を上り始め、僕の前にスクっと立つと豊かな髪の毛から水を振り払いながら、意味深な(まるで共謀犯でもあるかのような)陽気なウインクをしたので、僕の気持ちはようやく落ち着きました。
彼は近くの石棚に腰を下ろし、諦めたようにため息をつくと、何事もなかったかのように空に輝き始めた星を眺め始めました。
彼は僕と同じくらいの年齢で、背も僕よりやや低いように見えました。
髪の色は別として、体に合わせた白い潜水服のようなものを着ていて、しかも、全く濡れていないので、防水性の素材でできているのだろうと推測しました。
また、同じく白い厚底のブーツを履いていたので、仮装して来たのだろうとも思いました。
良く見ると、胸には金のエンブレム、翼のあるハートマークがあり、これは仮装ではなく、飛行機関係の団体かスポーツ少年団のユニフォームではないかと思い始めました。
ベルトも金色で、両脇にラジオか携帯電話のような装置がいくつもついていて、中央には大きくて明るい、とてもカラフルなバックルがついているのです。
僕も同じように目立つベルトを持ちたいけど、街中で使う勇気はないかもしれません。
それはむしろ仮装パーティーやカーニバル、あるいは彼のようなクラブのためのものであって、街中では使わないのが普通だからです。
僕は、彼の隣に座りました。
そして、僕たちはしばらくの間、無言で過ごしました。
彼が何も話さないので、僕は彼に何があったのか尋ねてみたのです。
すると「強制着陸です。」
と彼は微笑みながら答えました。
彼はちょっと変わったアクセントで話し、目が大きくて親しみやすい
感じのよい人でした。
彼は少年だったので、大人のパイロットが他にいるのだろう思い、
「パイロットはどうなったの?」
と僕は海のほうを見ながら尋ねました。
「ここにいますよ。
あなたの隣に座っています。」
「え??すごい!」
僕は驚きの声をあげました。
彼は、天才少年だったのです。
彼は、僕より年下なのにすでに飛行機を操縦することが出来るのですから。
まぁ事故を起こした彼はあまり熟練していないのでしょうが。
でも、本人はあまり気にしていないようなので、きっと親がお金持ちで、いくつも飛行機を買ってくれるのだろうと想像していました。
「誰かと一緒に来たの?」と聞くと
「いいえ。神に感謝します。」 と微笑んで、また、しばらく何も話しませんでした。


  


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