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アートオタクの独り言 ピエール・ユイグ

(本ノートはハセガワの時におぼろげな記憶で書かれており、細かい事実確認は行われておりませんので、現代美術専門家の皆様、小さい間違いはどうぞご容赦ください。また、優しくご修正していただけると嬉しいです!)

いや〜、みんな大好きピエール・ユイグ、でっかい新作とソロ、ベニスでやってます。まじ素晴らしい。

何が素晴らしいかって?あの不穏さ、不気味さ、Middle of nowhere、有機的な、クリーチャー、スケールの巨大さ、物語性、マイクロコスモスと宇宙、生物と無機物、しかも(多分)ユイグ、犬好きですよ。そこも素晴らしいわけ。この展示のタイトルLIminalはまさに中間地点、通過儀礼に伴うその直前の場所、みたいな意味らしい。まさにMiddle of nowhereです。

やっと見れてよかった(先月行った)
ユイグ初めて知ったのは、アン・リー作品*だからずいぶん前だけど、そこからドクメンタ*、ミュンスター*、ケルン*での個展も見てすっかりやられた。大ファンになりました。

*アン・リーは、日本のアニメ、攻殻機動隊の捨てられたキャラクターで、1999年、フィリップ・パレーノとピエール・ユイグによって5万円で購入され、No Ghost, Just a Shellという映像作品になり、(ドミニク・ゴンザレス=フォルステルも参加)アンリーはその後もさまざまなアーティストによって作品化されています。
*ドクメンタ 5年に一度、ドイツのカッセルで行われる大規模な国際展。2年前くらいからリサーチやプレイベントもあります。次回は2027年。
*ミュンスター 10年に一度、ドイツのミュンスターで行われる彫刻プロジェクトで、公共空間を使った現代美術の国際展示。次回は2027年。

ミュンスターのインスタレーションは巨大な元スケートリンク場を使ったインスタレーションで、天井が開いたり大掛かりなもの。毎度足場が危険なユイグのインスタレーション(リンクの床は故意かもだけどめっちゃ壊れていて、高低差すごくてほんと歩きにくい)真ん中の水槽みたいなものには癌細胞が培養されていた。どうしてそんなことが実現できるのか、かなり外部の協力も予算もあるが、なんにしても面白すぎる。

ドクメンタは屋外の展示で、野原みたいな、なんか産業廃棄物がちらかった廃墟的な雑多な感じで、そこに蜂の巣が顔についた女性の裸体像(このモチーフはユイグ作品によく出てくる)、そしてでかい白いイビザンハウンド。ショートヘアのこの犬は、一本の足をピンクに塗られている。生きてるやつです。私が行ったときには寝ていた。(死んでるかと心配になった!暑かったから)またこの犬も、写真や映像でユイグ作品にたびたび登場。生きてるバージョンももちろん彼の別の展示にも登場する。

それからまた、ケルンのルートウィヒ美術館でもユイグの個展を見る機会に恵まれた。この時も、上の二つのモチーフはもちろん、皮膚感覚に訴えるような映像作品や、なにがなんだかわからんインスタレーションを楽しんだ。
彼の作品は、ユーモアもあるが、ほぼ気持ち悪い、理解不可能な映像やオブジェクトなんだが、まとまって見ると全体でなにかハマっているんだよな。細かくはストーリーとかあるんだろうけど、もうインスタレーションの中に入って楽しめる感じよ。かつ、なにか人知を超えたものを感じさせるスケールの大きなアーティストなのよね。

今思い出したから書くね。アンリーの後、ユイグの名前は覚えていたけれど、実はたまたまインターンではたらいていたストックホルムのモダーナミュゼで、ユイグとスティーブ・マックィーンの2人展、(ふたりとも映像作品をひとつづつ出していた)を見た。2004年のこと。担当ではなかったが、面白かったのはユイグが出していた当時の新作Streamside Day*で、冒頭にほんとディズニーから抜け出たみたいな幻想的な美しい森があるんだけど、バンビも登場するし、それをアーティストはもちろん’非現実的な美しい森’として置いていたわけ。まあ、世界中の大部分の人が思うことよね。それをストックホルムのキュレーターは、そんな森スウェーデンではそこらへんにあるもんだから、通常の風景として捉えていた、というのがプレス発表の場で露呈した。この環境が異ることで作品の内容に関わる部分が変わっちゃうのは面白いよね。


それで今まさにベニスのPunta della DoganaでやっているLiminalというユイグの新作含めた個展だけども、前評判が高すぎて(期待値上がる)勝手に全部新作見るぞくらいの勢いで行ったら、意外と旧作もあったのとこれまでの展示の感動が大きすぎてそんなに感激はしなかった。
最初の巨大スクリーンの映像作品が、例の蜂の巣裸体から発展して顔が穴あいた女性?的な生き物が広大などこかの惑星みたいな場所で歩いてて、いろいろあるみたいなやつなんだけれど、これ、ふーん、みたいになっちゃった。おもしろいんだけどね。

あと、もうひとつ巨大スクリーンの映像は、昨今のAI流行りを(なんだかなあ)ユイグもとりいれてて、実写とも混じっているんだけれど、AI生成の映像。だからはじまりも終わりもなくてずっと見れるけどね。ユイグの作品見てぼーっとできるって至福よね。
その手前の水槽には、本当に珍しい生き物が入っているから一見の価値あり。生きてるのが信じられないような不思議な生き物。いつも生きてるものがいるよね、癌細胞含めて。そういえば、癌細胞の作品もあった。

まあこんな感じで、ユイグ61歳、まだまだ色々見せてくれると思う!やっぱりみんな大好きなのわかる。

ここから追記。見てないし、よく知らなかった、あの(おそらくだけどみんな大好き、私は最も素晴らしいと思っているキュレーター)クリストフ=バカルギエフの2015年のイスタンブール・ビエンナーレでのユイグの作品。ユイグは、マルマラ湾の海底20mに作品を沈めて設置した。潜水して見る作品、結構前にオーストリアのゼラチンもハノーヴァーでやっているけど、こちらは20mだからね。潜ったことある人ならわかるけど、20m潜るともう暗いし大変よ。
この海域にはシブリ島、というのがある。この島はドッグアイランドとしても知られていて、1910年にイスタンブール市内から8万頭もの野良犬を運び込み、餓死するまでほっておいた犬虐殺の島。
ユイグが海底に作品を作ったのはまさにこの近海で、海底には逃げ出したり死んだりした犬の骨が今もあるといいます。

この作品は今もそこにあり、潜れば見られるらしい。


あ、ベニスの展示は、ビエンナーレのメイン会場にはなくて、船で行かないと見られないです。それと、オンラインで予約しないと見れないの。さすがの人気者。

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