ハロン湾と新婚夫婦
私自身に何か問題があるとするなら、それは性格と見た目に大きなギャップがあることだ。
私は身長が154センチ程度。日本人らしいのっぺりとした顔立ちをしているから、一見おっとりとした性格にみられる事が多々ある。
ただし、見た目なんてその者の本質とは全く違うのだ。
本当の私はおっとりという言葉とは対角線上にいるような性格で、負けず嫌いな皮肉屋だ。
だからか弱そうな女性だと舐めて声を掛けてくる男性が心底嫌いだ。
へらへらと礼儀もわきまえず近づいてくる奴はこの世に存在していないかのように無視をする。おかげで私のシカトスキルは自他ともに認める一級品だ。
そんなわけで、海外のツアーで何人かと行動を共にするときは日本人とはあまりかかわらないようにしている。
しかし、ハロン湾のツアーに行ったときはそれも叶わなかった。
1994年に世界自然遺産として登録されたハロン湾は、ベトナム北部のクアンニン省に位置する大小3,000もの石灰岩からなる島々が浮かぶ幻想的な景色が魅力のスポット。
ただし、個人で行くにはあまりにも不便だったので私は珍しくツアーに参加することにした。
多国籍の人が参加する混合ツアーだか、ベトナム人の日本語ガイドがついた。
そのため、日本人も私を含め6人参加していた。
1組の30代前半ぐらいの新婚夫婦以外はみなひとり旅だった。
女性でひとりという事もあってか、行きかえりのバスでは2つの座席をひとりで使わせてもらえとても満足した。
日本語ガイドもおしゃべりが大好きだったが私以外の人と話していたので、私は比較的自由に自分の時間を楽しめた。
ハロン湾では、小型の船にのって優雅にクルージングをした。
まるで水墨画に鮮やかな色彩を色づけたような雰囲気のある景色に照り付ける日差しの暑さも忘れ甲板で飽きるまで楽しんだ。
昼食も提供され、私は日本人のグループで一緒に食事をした。
食事が終わったころ、自由時間でそれぞれ甲板に行って写真をとったりお手洗いへと席を立った。日本人新婚夫婦の奥さんも席を立った。
お姉さん同じホテルですよね?
新婚夫婦の旦那が声を掛けてきた。
いえ、違います。
あれー?朝見たような気がしたんだけどなー!ほら、あの湖の近くの〇〇ホテルですよ!
黙れ。私はこういう奴が嫌いなんだ。見ず知らずの女性に宿泊しているホテルを聞くなんてどういう神経をしているんだろうと人間性を疑う。
いえ、違います。
実際、私とそいつの宿泊しているホテルは違かった。しかし、ホテルへのお迎えの時に私が一番最後にひとりで乗り込んだのだから違うホテルは一目瞭然だったのではないだろうか。
こんな事でしか話のきっかけを作れないなんて、なんて思考の乏しいやつなんだ。しかも嫁がいないときに話しかけてくるなんて。
にじむ様な美しい景色にノスタルジックな気持ちに浸り気分よく過ごしていたところにとんでもない不本意な会話をさせられてしまった。
もちろん日本人がみんなこんなやつではないことは重々承知している。フランスのニースで宿泊したユースホステルにはこちらで仕事をしているという30代の男性と仲良くなった。
彼はとても紳士的だったしから印象が良かった。
だから一概には言えない事はわかっているが、今回のやつは紛れもない礼儀知らずだった。
それでも、私はこのツアーを十分に楽しんだ。多国籍なツアーだったので、ほかの国の人たちがどれ程団体行動に向いていないかも自分の目を通してみることができなかなか面白かった。
ツアーガイドが
あなたを迎えに来るのが遅れたのはマレーシア人が時間を守らなかったからです。マレーシア人は川にごみも投げるし、ベトナムの川が彼らのせいでどんどん汚れてく。
と言っていて、隣国ならではのいざこざを肌で感じられたのも多国籍のツアーならではだった。
人とかかわると不愉快な気持ちになることも多々あるが、それと同じぐらい新しい発見や気づきも多く楽しい事もある。
だから私は、凝りずにたまにはひとりでもツアーに参加してみようと思うのだ。
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