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心臓外科医からみたハートシードとハートシート

本誌執筆時点でCOI(利益相反)はありません

心臓の再生医療を手掛けるHeartseed(ハートシード)が7月30日、東京グロースに上場する。慶応大学発のベンチャー企業で、世界で死因第1位とされる心不全の治療への期待がかかる。

しかし数日前にはハートシートという類似の再生医療製品が有効性を示せず厚生労働省の専門部会で承認不適切と指摘された。培養皿の製造を担当していた(株)セルシードが連日ストップ安となっている。

医療者からも違いが分かりにくい両社を比較すると次の通りである。

なお話題のクオリプスの心筋細胞シートは他人由来のiPS細胞からできたシートでハートシートの改良版のような存在である。

以上を踏まえて心臓血管外科医としての私見を述べる。

販売終了したハートシート

まず、販売終了したハートシートは自身の組織を培養してシート状にし、それを手術日に合わせて輸送する点にコストと労力がかかるが、手術手技自体は非常に簡便で左室に数枚のシートを乗せて数針糸で固定または糊付けするだけあった。

シートを綺麗に並べるのにコツは少し必要だったがそもそも多少重なったりはみ出たりしても問題ないとのことで、心臓外科医であれば誰でも簡便に行うことが出来たと思う。

ただ効果に関しては今回発表があった通り思うようなデータが出ず、後方視的に効果のあった患者をグループ分けしてみたり、そもそも収縮率(LVEF)や心臓の大きさ(LVEDV)は変わらなくても心不全イベントは減るというような仮説を立てたりとだいぶ苦しそうな臨床研究であった。それでも多くの旧帝大が臨床研究に参加表明し症例を集めていた。

個人的には数年前、澤前教授の講義を直接拝聴したことがあるが、症例提示でchampion caseと思われる術前後の心臓エコーがまったく冴えなかったのを覚えている。政治家がどう思っていたかはわからないが多くの心臓外科医が効果に関しては懐疑的で今回の承認「不適切」の結論は妥当だと思う。

改良版のヒト iPS 心筋由来心筋細胞シート


クオリプスの心筋細胞シートはハートシートを改良し、iPS細胞を使ってシートを作ってるもので大阪大学から出ている。

そもそもハートシート、心筋細胞シートに共通するが、心機能回復は後述するパラクライン効果によるものである。このコンセプトそのものが揺らいでいる中、iPSだからという理由で効果に差があるかが焦点となる。

奇しくも心機能改善治療の一つに冠動脈バイパス術があるが、これは全ての外科手術で唯一ランダム化試験により生命予後改善が認められた最強のエビデンスの手術である。

冠動脈バイパス術と比較すると最も客観的でハードなエンドボイントである全死亡を改善させる力はまだ再生医療にはなく、あくまで他の治療に添えるスパイス程度の効果であるのではないかと思ってしまう。

始めの3例中2例に若干の効果が認められたそうだ。

左2つは下がったらよい値、右は上がったらよい値

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