好きだった人と靴屋に。

靴屋に苦手意識がある。
選ぶ時、微妙に足に合わないと痛めてしまうため慎重にならないといけない。
周りから見てサイズ感が分かりづらいため相談もしづらい。
だから服と違って決めるのに時間がかかる。
試着の際に普段はあまり注目されないであろう足元を見られることも苦手要素のひとつかもしれない。

好きだった人と靴屋に行った。
その人が靴を買いたいと言ったからという単純な理由。
的確なアドバイスなんてできないから後ろを着いて回った。
「これいいじゃん」なんて当たり障りのない言葉をかけながら。
あまり近くにいられても嫌だろうと思って少し離れて自分の靴を見てるふりなんかもした。

その日の靴屋は楽しかった。
どこに行くかではなく誰と行くかが大切とよく言うけど、まさにその通りだと思った。
店員さんと自分に見られながらひとつの靴を試着したその人は無言が気まずかったのか店員さんに話し始めた。
「(こちらを指しながら)めちゃくちゃ久しぶりに会ったんですよ。5年ぶり?くらい。この間が成人式で1回会ってるんですけど。」
店員さんは明るく返事をした。
「そうなんですね〜(こちらを見て)彼女さんですか?」
この流れは確かにそうなってもおかしくない。
しかし、その予想ははずれだ。
「それが違うんですよ〜」
残念そうに言ってやった。
実際、彼女にしてもらえていないからだ。
「当時から唯一、仲良かったんですよ。」
幾つかの言葉を交わした後に、その人が説明していた。
別に他の人とも仲良かっただろうに。
まぁ最近でも連絡を取り合っている人は、ほとんどいないだろう。
この瞬間だけは自分が特別なような気がして嬉しかった。

最近、同じ靴屋に行った。
家から1番近く行きやすい距離のところにあるため何度も行っている。

あの日以降の靴屋は普通で驚くほどつまらなかった。

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