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腰部・骨盤帯 第16回 《仙腸関節障害 評価編》

本日より、仙腸関節障害シリーズに入ります。

仙腸関節の痛みといえば『関節の痛み』かと思われますが、

正確には『関節に付着している靭帯の炎症による痛み』です。

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仙腸関節におけるストレスのかかり方は大きく三つあります。



①ニューテーションストレス(寛骨に対して仙骨が前傾する)により、仙結節靭帯、仙棘靭帯に伸長ストレスが生じる。

②カウンターニューテーションストレス(寛骨に対して仙骨が後傾する)により、長後仙腸靭帯に伸長ストレスが生じる。

③仙腸関節の過可動性により、①②両方のストレスが生じ、仙結節靭帯、仙棘靭帯、長後仙腸靭帯に伸長ストレスが生じる。



そして、仙腸関節痛の治療には、『①②③の、どのストレスで疼痛がでているのか?』を見極めないと治療はすすみません。



では、ます①ニューテーションでのストレスが生じる例を挙げます。


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前屈動作のさい、ハムストリングスが硬化していると、寛骨の前傾運動に制限がかかり、仙骨だけが前傾する運動(ニューテーション)になってしまいます。このときに仙結節靭帯、仙棘靭帯に伸長ストレスが生じます。




次に②カウンターニューテーションでのストレスが生じる例


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後屈動作時に、大腿筋膜張筋,大腿直筋などが硬化していると、寛骨の後傾運動に制限がかかり、仙骨だけが後傾する運動(カウンターニューテーション)になってしまいます。このときに長後仙腸靭帯に伸長ストレスが生じます。


上記はあくまで、たとえの動作ですが、

日常的に、ハムストリングスの硬化がある人はニューテーションストレスが、

大腿筋膜張筋,大腿直筋の効果がある人はカウンターニューテーションストレスが

生じやすくなっています。



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このように、股関節の可動域制限は仙腸関節痛の大きなリスクファクターになります。





臨床では、後屈時に仙腸関節の痛みを指し示すOne Finger Point testが陽性であれば、

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そのまま腹臥位になってもらい仙腸関節の圧痛をとります。


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ここで、注意してもらいたいのが、PSISは筋膜のインターチェンジ(交差路)と呼ばれるほど、筋膜が多方向から多層に重なっています。

そのため仙腸関節(SIJ)は、非常に癒着(滑走障害)が生じやすい場所でもあります。


臨床では、One Finger Point testが陽性でも、PSIS周囲の筋膜の癒着(滑走障害)が疼痛の原因であることは、非常に多くあります。

※骨盤周りの皮下脂肪が厚い肥満体系の女性で非常に多いです。

ですので、

PSIS周囲の癒着(滑走障害)の疼痛か、仙腸関節自体の疼痛かは、

圧痛所見でしっかり見極める必要があります。


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上記のようにPSIS~仙腸関節上の皮下脂肪をスライドさせ、すべり具合の悪さや疼痛の訴えがあれば、まずは、リリースをかけて疼痛が軽減するか確認しましょう。




仙腸関節を垂直に圧迫して疼痛があり、尚且つ周囲の皮下脂肪のすべり具合も良好であれば、仙腸関節自体の疼痛である可能性がグッと高まります。


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ちなみに、私は、GaenslenやPatrickなどのスペシャルテストは臨床では使いません。

なぜかというと、まず上記のテストは信頼性があまり高くないのと、クリニックでの業務では、1単位(20分)で、仙腸関節障害の評価・治療をしなければならないので、時間のロスを避けるためです。


臨床では複数の仙腸関節痛の患者さんを治療してきましたが、この後に述べる『ストレステスト』と、『One Finger Point Test』『仙腸関節の圧痛』の、この三つの所見があれば、仙腸関節痛の見極めには十分だと思います。




『ストレステスト』とは、

ニューテーションストレスか?、カウンターニューテーションストレスか?、その両方か?

どの方向のストレスが仙腸関節痛の原因かを探るテストです。

そのため、仙腸関節に加わっているストレスの型(ニューテーション型、カウンターニューテーション型、不安定型)を間違えると、治療はすすみませんので、ここから述べるストレステストは非常に重要なテストになります。






では、まずニューテーションのストレステストから述べます。


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仙骨に指先を沿わせて、皮膚を上方にスライドさせます。

そして、そのまま後屈をしてもらい(前屈や回旋動作で仙腸関節痛があれば、その動作をしてもらい)、

疼痛が増強すれば、ニューテーションのストレスが仙腸関節痛の原因だと判断できます。

逆に疼痛が軽減すれば、カウンターニューテーションでのストレスが疼痛の原因だと判断できます。






カウンターニューテーションのストレステストでは


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手掌面を写真のように、仙骨に沿わせて、皮膚を下方にスライドさせ

そして、そのまま後屈をしてもらい(前屈や回旋動作で仙腸関節痛があれば、その動作をしてもらい)、

疼痛が増強すれば、カウンターニューテーションのストレスが仙腸関節痛の原因だと判断できます。

逆に疼痛が軽減すれば、ニューテーションでのストレスが疼痛の原因だと判断できます。



上記のストレステストは、皮膚をスライドさせる程度の力で十分です。逆に仙骨自体を押してしまうと、うまく誘導できず、患者さんの動作を妨げるだけになってまうので注意してください。





最後に、仙腸関節の過可動性(不安定性)により、ニューテーションおよびカウンターニューテーションの両方のストレスが疼痛の原因になっている場合のストレステストを述べます


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寛骨を左右から軽く圧迫し、仙腸関節を固定します(仙腸関節ベルトと同じ要領です)。この状態で後屈をしてもらい(前屈や回旋動作で仙腸関節痛があれば、その動作をしてもらい)、

疼痛が減弱すれば、仙腸関節の過可動性(不安定性)が仙腸関節痛の原因だと判断できます。




ここまでの流れをまとめると、

1, 患者さんが、前後屈や回旋動作で、疼痛部が仙腸関節を指し示す(One Finger Point Test+)

2,  腹臥位になってもらい、仙腸関節周囲の癒着(滑走障害)が生じていないかを確認する。(仙腸関節自体の疼痛か、それとも周囲の筋膜の滑走障害の疼痛かを判別する)

3, 滑走障害がなければ、仙腸関節を垂直に圧迫し、疼痛がでるかを確認する。疼痛が出現すれば、

4, ストレステストで、仙腸関節痛の原因となっているストレスの方向を見極める。


という流れで、仙腸関節痛を引き起こしている原因を探っていきます。



引用

村上栄一 ,2007:仙腸関節由来の腰痛,日本腰痛会誌,13(1) : 40 ‒ 47,


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